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7話 幼馴染2人は謎の生物に遭遇する

 連日の大部屋での気が休まらない休憩と周囲への過分な気遣いによる気疲れ、慣れない幌車での移動による身体の痛み、それらを除けばキャロメルまでの道程は恙無く進んでいる。

 最後の村を出て終着のキャロメルに向かい出発してから、そろそろ臀の痛さが限界かもしれないとトリーが零した頃に事件は起こった。

 突然幌車が大きな音を立てて傾いたのだ。

 向かいに座っていた兄弟の兄の方を降ってきたままに抱きとめたマシュと弟の方を同じようにトリーは抱きとめる。


 「いってぇ……」

 「しょ、少年大丈夫か?」

 「いっ……たくない?」

 「坊や、大丈夫?」


 兄弟の顔は同じように2人の胸部にあるというのに全く反応が違う。

 男児にとってはある意味ラッキーな事態なはず。だというのにこの反応の差……解せぬ、と思っているのはマシュと恥ずかしそうに顔を赤くする弟の反応を見たちびっこ兄弟の兄だけだろう。

 別に小さいわけじゃない!トリーがデカいだけ!痩せてるだけだもん!人並みにはあるはずだもん!と心の中で叫んだ声は勿論誰にも聞こえていないし、事実絶壁とまでは言わない。

 シスターピクルいわく慎ましいだけだ。

 マシュがそうこう思っている間に護衛任務を務める冒険者たちが乗客を次々に外に出していき、事態の全容が明らかになる。

 車輪が壊れたのだ。しかも、軸から。

 点検は入念に行われていたし、馭者の従魔士にとっても不測の事態だったようで可哀想なほど狼狽えている。

 彼の言から察するにこれが独り立ち後初の中距離遠征だったようで尚更悲壮さが増す。


 「ひとまず落ち着きましょう。怪我をされた方はおりませんか?」


 護衛のリーダーと思わしき男性がそう聞くと護衛の面々が次々に乗客の身体に異変がないかをチェックしていく。

 リーダーの落ち着き具合を見ると彼がベテランの冒険者であることがわかり、リーダーを任されていることにも納得がいった。

 きっと彼だけではなく他の冒険者も実績豊富な人物が選ばれているのだろう。


 「皆さんに怪我がなかったのは不幸中の幸いですね」

 「リーダー、どうします?前の村とキャロメルの丁度中間地点のようですが」

 「俺たちの乗ってるカルディアに子どもたちを乗せて、幌車を引いてたカルディアにはご年配の方々に乗ってもらおう。若い皆さんには歩いてもらうことになりますが、このままキャロメルへ向かいます。よろしいですか?」


 不足の事態が起きた時、護衛のリーダーに指揮権が渡るのは当然のことで皆が彼の意見に従って動く。

 護衛の1人だけが先に立派な角の生えた四足歩行の魔獣カルディアに跨り、先にキャロメルへと向かい幌車を手配してくるということらしい。

 マシュとトリーもリーダーである男性の指示に従い荷物を持って歩き出す。

 暫く歩くと前方に魔獣が現れたと声が届き乗客たちは後ろに下がって護衛の一部が前線に上がっていく。


 「原野にゴブリンとは珍しいな」

 「……あの緑色のがゴブリンですか?普段はどこに出るんですか?」

 「森だね。滅多に森から出てこないんだけど、何か獲物でも追ってきたのかな。私は中間に居なきゃならないから2人も気をつけて」


 ミルヒが少し離れた最後尾にいたマシュとトリーに声を掛けてから最前列と最後尾の丁度真ん中らへんに移動していくのを見送り、2人は背後を警戒しつつ戦闘が終わる合図を待つことにした。

 護衛たちの掛け声を聞きながら少し足の疲れを感じたマシュが一歩後ろによろけた瞬間、ぶにょっと何かを踏む。


 「はひゃあぁあ」


 息を吐くのと遜色ない気が抜けるような声は隣りにいたトリーにしか届いておらず、足元を見られないマシュの代わりにトリーがその物体に目を向けた。

 ぶにょぶにょとしたそれは見たことのない白色半透明のスライムで、マシュの足の下から逃れようと蠢いている。

 そっと足を退けると抜け出したスライムは体の一部を伸ばしてマシュのリュックの底を叩いた。


 「えっえっ何っ……やめっ」


 トントントン トントントントントントン


 繰り返されるトントン攻撃は怖くないし、敵意も感じない。

 ただ何かを寄越せと言われているように感じてリュックを下ろすとスライムは勝手にリュックから飴の入った小瓶を取り出しマシュに渡した。


 「こ、これをご所望で?」


 トントントン クイックイッ


 伸びた部分が小瓶を小突き、ほら寄越せと言わんばかりに動く。


 「あ、はい……」


 呆然と見守るトリーを余所に小瓶を開けて甘い匂いのする乳白色の飴を差し出すとスライムは満足したのか嬉しそうに飴を持ったままマシュのリュックに入り始める。


 「えっ……いや、えっ?」

 「今度は連れて行け、って……こと?」

 「そんなこと言われても……ちょ、出て」

 「マシュ!トリー!何してるんだ行くぞ!」

 「は、はい!今行きます!」


 背後から叫ぶように掛けられた声にスライムを出すことを諦めたマシュは、そのまま乱雑に飴の入った小瓶とスライムをリュックに押し詰めて進み始める皆を追った。

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