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5話 幼馴染2人は旅支度をする

 行程通りに進んだとしてもキャロメル到着まで3日はかかるらしい。

 ただ幌車を使って向かうなら方向感覚にやや不安のある2人でも安心安全にキャロメルに辿り着くことはできるだろう。

 道中には宿場もあるし寝食にも困らないので2人が個人的に用意するものはそう多くない。

 商店街の端にある花屋からスタートし、一軒一軒を外から覗いていく。


「まさか更に遠出する事になるとは思ってなかったな〜」

「うん……」

「トリー?どした?」

「いや、住み込みで働けるもんだと思ってたし……お嬢様は病気だって言われると……その……」


 落ち込むトリーを余所にマシュは存外ケロッとしている。

 切り替えが早いというより、なるようにしかならないと思っているからだ。

 悲しくないわけじゃない。ただ、前世でも祖父母、父親、複数の親類や友人の死に直面してきた。

 今世だって母の死に直面し、どうしようもないと知るのが早かっただけだ。

 病気に抗うには、いつの世でも金が必要で、領主にはそれがある。

 最初に領主がマシュとトリーになら……と口にしたということは他の誰かに聞かれてはいけない内容でもあるのだろうと察している。

 外に情報を漏らせないということはギルドに依頼することもできないし、金はあっても信用に足る人物が身近におらず、情報を探せなかったということなら自分たちに頼むというのも頷ける。

 落ち込んで探そうと明るく探そうとどうせ結果は変わらないのだ。

 気負って自分たちまで心の病に罹るくらいなら自分たちらしく明るく冗談を言い合いながら今の状況に立ち向かう方がいい。

 トリーの背中をぽんぽんと2回優しく叩く。


「まぁ、気負わないこと。旅行だと思ってるくらいが丁度いいよ」

「そう、だね」

「情報を探すってなると本を漁るのがメインか?……それの方が憂鬱だって〜」

「ふ、ふふっ……マシュ、勉強苦手だったもんね」


 大袈裟に天を仰ぐマシュにようやくトリーの笑みが零れる。

 少しは持ち直したかとトリーを横目に見て、たまには不真面目さも役立つもんだと思った。

 

「文字の読み書きは余裕ですぅ〜計算がゴミなだけですぅ〜」

「相変わらず、ね?」

「そうそう。私の計算嫌いは魂に根付いてんだわ」

「そういう星の元に生まれてんのね?」

「おぉい、すっげぇ微妙な星すぎんだろ〜どういうことだよ〜」


 ふざけ合いながら歩いているとトリーの足が甘い匂いに吸い寄せられている気がして、その肩を掴んで引き止める。


「まず、何買う?」

「おやつ、かな」

「だろうと思ったわ!いや、絶対他に買うものあるって」


 端的に問うマシュにおやつと答えたトリーは別にふざけてはいない。

 真剣な目が製菓店に向いていることからトリーがおやつを本気で欲していることがわかる。

 ただ、マシュが言うように優先するべきものは他にあるということも理解しているようだった。


「武器系かな?私も白魔法士用の杖がないと攻撃力ほぼ無いし、マシュももしもの時用に扱えそうなのひとつくらいは持ってた方がいいよね」

「あーね。あとは靴かな……服とかは領主様から貰ったやつでいいけど靴は自分の足に合うやつにしないと靴擦れ起こして歩けなくなると思うんよ」

「そうだね。あとは薬品かな」

「トリーが今使える回復魔法ってヒールだけだったっけ?」

「そうそう。状態異常の回復はできないから、それ系の薬は買っておきたいね」

「春先は虫系の魔獣も多いしね……」

「虫、ね……」


 少々遠い目で話す2人は虫が苦手だ。

 孤児院でヒィヒィ言いながら虫退治していたことを思い出し「出なきゃいいね……出るんだろうけど……」と力無く話しながら、まずは靴を売っている防具屋に入った。

 領主から貰った装備がどんなものだったかを思い出しながら、それに似合いそうなものを見繕う。


「私の装備はダーク系が多かったし黒のロングブーツにしようかな。ショートパンツだったから、それなりに長めのやつで撥水性のあるやつ……」

「確か私のは基本淡色だったよね……ロングスカートだったし、ショートブーツでもいいかなぁ」

「正直、スニーカー欲しいまである」

「それはそう。もしくは登山靴系とか?」

「登山靴ね~あれ重いから履きなれないとめっちゃ足疲れるんよね。安全靴もだけど」

「まぁ、どっちも無いんだけどね」

「むしろ、素材に効果とか付いてるっぽいから安全靴より安全まであるな」

「ほんとだ。このショートブーツ、疲労軽減だって」

「こっちは……速度上昇?どういう原理なん」

「足が速く回る的な?」

「魔獣と遭遇した時に逃げやすいって考えると速度上昇ついててもいいな」

「確かに」

 

 店内が狭いからか2人の会話は店員の若い男に聞こえていたらしく、彼は何足かの候補を持って近付いてきた。

 いくつか棚に置いた靴は、どれも冒険者に成り立ての女性が選ぶものだと説明され、その中から選ぶことにした。

 マシュは焦げ茶の革製ロングブーツ、トリーは淡いベージュに花の刺繍と撥水加工が施された布製のショートブーツだ。

 2人の両極な見た目にも合っていて、やはり店員の目というものは信頼できるものだなぁと思いながら試着を済ませて購入を決める。

 次に向かった武器屋では店主の息子だという少年が武器についての解説を事細かくしてくれたのだが、理解が追いつく前に言葉が過ぎ去ってしまいマシュが慌てて「白魔法士用の杖とショートソード系のみでお願いします!」と頼んだ。

 しかし、少年が「わかった!」と元気よく返したのも束の間、矢継ぎ早に繰り出される素材から形状までの詳細な説明と相応の金額には頭を抱えつつも少年の武器に対する深い愛には感嘆せざるを得なかった。

 少年の言葉が途切れるのを待ってすかさずマシュが言葉を捩じ込む。

 

「私達は冒険者になるわけじゃないんだ。えっと~幌車を使ってキャロメルに向かうんだけど、道中で不測の事態が起きたときの為に一応武器を持っておきたいのね?だから、素人でも扱えるものだと有り難いんだけど……」

「そっか……冒険者じゃないんだね」


 残念そうにマシュを見上げる少年が渋々持ってきたショートソードと杖は特別な装飾などはないシンプルなものだ。

 刃渡り30センチほどのショートソードは普段持つ包丁よりも長いが、持つだけで恐怖心を抱く程でもない。

 杖に関して言えば太い木の枝に見えなくもない程度のもの。

 少年はやや不服そうではあったが2人はそれらを購入して店を後にし、広場のベンチに腰掛ける。


「結構余ったね」

「あとは薬屋かな?」

「そうなんだけど薬屋ってどこにあるのかな?通ってきた道になかったよね?」

「なかったね。てゆか、案内板も無いよね」

「……雑貨屋と一緒になってるパターンあるな?もしくは裏路地の怪しい店みたいな扱い」

「それは……」

「めっちゃRPGゲームの知識で~す」

「だよね~」

 

 そう軽口をたたきながら店を探すこと2時間。


「歩き回るより絶対誰かに聞いたほうが早かった説」

「ほんとそれ」

 

 うんざりとした気分を持ち直すため途中にあった露店で買った焼き菓子を口に放り込みトリーが視線をずらした先に花で飾られたド派手な看板が目に入る。

『花屋&薬屋 ポワトリン』

 無言のままマシュの肩を叩き、その看板を指差した。


「……ド派手に飾りすぎて文字隠れてんじゃねーか!」

「も~それじゃわからんて~」


 足取り重く薬屋に向かい、白い花と蔦で飾られたアーチをくぐって店内に入ると棚の大部分は薬草や調合に使う道具が並んでいる。

 花屋よりも薬屋をメインとしていることがわかり、胸の中でこっそりと悪態をつく。

 状態異常を治す薬を多めに購入して必要な買い物を終わらせ、2人は足取り軽く製菓店に向かった。

 

 2人が入った製菓店は冒険者や遠出をする者が多く立ち寄る店だ。

 商品は日持ちするものが多く、小分けにされていて食べ歩きしやすいよう工夫がされている。

 トリーはクッキー類が並ぶ棚の前で止まり、マシュは飴類が並ぶ棚の前で足を止めた。

 どちらもただ好きなものを選ぶというよりは店員の女性に質問をしながら慎重に選んでいる。

 トリーは非常食の観点から選び、マシュは熱中症対策などを重視しているようだった。

 最後にひとつだけお互いが好きなものを選んで購入し、ようやく領主邸への帰路につく。

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