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43話 幼馴染2人はポルコネを堪能する1

 ダンジョン攻略後、安心からか2人を疲労が襲う。

 瞼は重くなり、体中に倦怠感があった。足が重く、深い溜め息を吐くと来た時と同じように籠に乗り空を飛ぶが途中から意識がなかった。

 気付けば翌日の昼前で、目を覚ましたトリーの隣のベッドには足の痛みに藻掻くマシュの姿があった。


「死ぬ……うっ」

「これは、かなりだね」

「色々見て歩きたいのにぃ……」

「確かに。領主様のお店も行かなきゃだしね」

「あー、その前に手紙書かなきゃじゃん」

「私が書いておくからマシュは先にお風呂入ってきたら?」

「いいの?じゃあ、先に入らせて貰おうかな……」


 ボロボロになった装備を着たまま覚束ない足取りで浴室に向かったマシュを見送ったトリーは机に向かうとレターセットを広げ、まずは無事にポルコネに到着し、その後フルーティーの力を借りてダンジョンを攻略したことを書いた。

 その際にメンバーの一人から他国にドラゴンに纏わる口伝が残されている地域があるということや手記に書いてあったアイテムが存在していたこと、これからポルコネで開催される冒険者が多く集まる祭りに参加して情報収集をすることなど、抜けがないかチェックしつつ丁寧に書いていく中で、ふと疑問が浮かび手が止まった。

 それは、ブルーベルに掛けられた呪いが氷化であったならば温めれば解けるのではないかということ。

 氷属性と思われるキングイエティに対して火属性の魔法が効果を発揮していたとマシュが言っていたし試す価値はありそうだと思い、その旨を追加してから最後に伝書鳥にするための鳥型魔獣と契約することを考えている旨を書き、「ひとっ風呂浴びるか~」と伸びをして浴室に向かったものの自分の服がボロボロなのを見て慌てて部屋に戻り、マシュの分の着替えも用意して浴室に向かった。

 マシュに火属性魔法が効果を発揮するのではないかと書いた点などを報告しつつ2人でダラダラと入浴を終えてリビングに行くと、いつの間にか外に出ていたシロとイナリが2人を待ち、それを眺めるグレープが優雅にお茶を飲んで待っていた。

 揺れる尻尾が可愛らしいなどと思いながら挨拶を交わして他のメンバーがどこに行ったのか聞くと、各自で行動しているらしい。


「リーダーはダンジョンの異変についてギルドに説明に行ったわぁ。アップルお姉様は素材を持ってブティックに行っていて、メロンお姉様はママのお手伝いに駆り出されてるわぁ」

「ママ?」

「冒険者が集まる地区を統治してる人よぉ。お祭り当日に挨拶に行きましょうねぇ」

「はい!」

「あの、本当にアップル様が衣装担当なんですか?」

「そうよぉ、アップルお姉様に任せておけば間違いないんだからぁ」


 2人の脳裏に浮かぶのは真っ赤なハイレグである。

 いやいやいや、流石に、流石にね?まさか、自分たちにハイレグを勧めてくることはないでしょう。ないよね?ね?と口にしないでも理解できる表情で視線を合わせているとグレープが2人の内心を察してかウインクをして、夕方には全員が宿に戻り、どんな服にしたか教えてもらえるだろうから楽しみに待っているようにと言った。

 その後、テーブルに置かれていた果実水を飲み干してからポルコネの街に繰り出す。


 既に昼も過ぎていることから今日は必要なことを終わらせてしまおうという話になり、まずはギルドに向かって魔獣討伐ポイントとクエストクリアのポイントを加算してもらった。

 Aランクの魔獣に複数遭遇していることもあって、かなりの加算がありEランク目前である。

 このまま問題なく進めば、次の町や村に到達するころには昇格できるだろうとホクホク顔でギルドを後にし、ガナッシュの領主が営む店を探す。

 町の案内板を見たにも関わらず迷子になり、路行く人に商店街までの道程を教えてもらい、商店街では貰ったパンフレットを開きながら製菓店の前に辿り着いた。


「ここがそうかな」

「たぶん」


 夕焼けに照らされた看板は驚くほど愛らしく、ターゲット層は子供と若い女性といったところだろう。

 食品を扱う店であるため従魔たちを石に戻して店内に入るとレースやフリル、ビジューが多く使われている装飾品で統一されているせいもあってか甘さが増しているようにも思える。店員には、清潔感だけでなく朗らかそうな容姿と子供への対応を見るに子供好きという要項がありそうだ。

 ふと店員の中年男性と目が合い、柔和な声が掛けられる。


「何かお探しですか?」

「えっと……子爵様からのご紹介で手紙を……」

「なるほど。マシュさんとトリーさんですね。お話は伺っておりますので、どうぞ奥へ」


 そう言われ通されたのは店員たちの休憩部屋だ。

 テーブルの中央には、休憩時間になった店員がすぐに飲めるようにお茶やコーヒー、フルーツジュースなどが置いてあり、焼き菓子もいくつか置いてある。

 席につくなりトリーが焼き菓子に手を伸ばして口に含むと、ほのかな甘さと柑橘系の酸味が口の中に広がった。


「おいしい!マシュも食べてみてよ!」


 昨日の朝から食事を摂っていないせいもあるからか普段以上に美味しく感じ、口元に手を当てたトリーの目は一層輝きを放っているようにも思える。


「それは、ようございました。どうぞ、マシュさんも」


 差し出されたクッキーを口に運ぶとレモンの風味がする。サクサクとした食感も食欲をそそり、手が止まらなくなる。

 次々と皿に乗せられる菓子を平らげ、ハッとマシュが目を丸くし、手紙を取り出した。


「あの、これを……」

「領主様にお送りすればよろしいのですね?」

「はい。お手数おかけします」

「いえいえ」

「冒険者地区での催しに参加する予定なので、またお世話になることもあるかと思いますが、宜しくお願い致します」

「はい、こちらこそ」


 店員とのやり取りも終わり、チラリと隣のトリーに視線をやると商品の目録を凝視し、何事か唸っている。


「どした」

「レモンクッキーも美味しかったけどマドレーヌも美味しかった。他のクッキー類も美味しかった。でも、こっちのケーキ類も捨て難いし、チョコ系も……」

「トリー」

「いや、クエストクリアして財布は潤ってるから全部買うのもありか」

「トリーさん」

「でも、ケーキ類は今日中に食べるべきだから、あまり量買うと」

「おい」

「フルーティーの分も買ったとして、一口ずつ分けて貰うのもありでは」

「聞いてんのかって」

「マシュ!どう思う!?」

「もう全部買えよ。一緒に食うから」


 真顔のまま答えたマシュに満面の笑みを向けたトリーは目録を指差しながら男性に2個のホールケーキと5つのカットケーキ、人数分のマドレーヌ、クッキー缶を3個注文し、満足そうにしていた。

 その後、両手に溢れたスイーツをシロに預けてから防具屋に向かおうとしていると斜め向かいにある宝石店から出てきたアップルを目撃する。

 燕尾服を着た店員の老紳士が丁寧に腰を折って見送っているということは、何か高価な買い物を済ませたということだろう。


「アップル様~」

「あら、ベビーちゃんにキティちゃんじゃない。奇遇ね」

「何かお買い物ですか?」

「そうよ」

「やっぱAランクともなると身につける物も違うんですね」

「あら、今回買ったのは2人がつける物よ」

「え、えぇ!?」

「いやいやいや、そんな!宝石なんていう高価な物をつけるなんて怖すぎますよ!」

「壊したり失くしたりしたらどうしたらいいか」

「この宝石には追跡魔法と防御魔法がかけてあるのよ。2人が迷子にならないようにって理由もあるけど、この時期は多くの冒険者が集まってくるからバカを起こす輩も多いのよ。酒が入るから尚更暴れるバカが増えるのよね。有効期限は一ヶ月ほどかしらね」

 

 世話を見ると言った以上、不要な危険から2人を守るのも務めだと言って人目のない場所に呼ばれ、そこでトリーは小さなダイヤモンドがついたネックレスを貰い、マシュは同じく小さなダイヤモンドのついたチョーカーを貰った。

 

「リーダーがね、近い年頃の娘がいるから2人のことが心配で仕方ないみたいなのよ。それはリーダーからの贈り物だから感謝はリーダーに伝えてちょうだい」


 そう言ってアップルは、鮮やかな金の髪を翻し他に行く場所があるからと颯爽と去っていく。

 アップルから渡されたものを装着して2人は改めて防具屋探しを再開する。

 夕暮れに染まる空の下、高い建造物を見上げてはポカンと口を開け、現在地を確認しては歩き続け、冒険者地区にある防具屋に辿り着いた。

 ガナッシュやキャロメルの防具屋とは比較にもならないほど店内が広く、品数も多い。

 3階建ての店ではあるが、2人が見て回れるのは1階部分だけなようで、許された場所をくまなく見て回る。


「ポルコネを出たあとって、どこ行くんだっけ?」

「地図で見た感じだと港があるとこじゃないかな」

「一旦、確認する?」


 マップを開いて王都に繋がる道を確認し、次に2人が向かうのはレイシ地方の最南端港町パッツァだとわかるが、想像以上に道程は長そうだ。

 ポルコネからパッツァまでの間にもいくつか村があるらしく、そこを経由していくことになるだろう。


「遠っ」

「まあ……でも、パッツァに到着するまでにランク上げれそうじゃない?」

「確かに。鳥ゲットのチャンスもありそうだしね」

「ただ、道程が長いことを考えるとパンツスタイルがいいかもなぁ」

「道なりに進んだとしても山あるっぽいもんね」

「トリーに合いそうな可愛いのあるかな」

「キュロット系ならワンチャンあるか」

「あー……良さそう!柄物のがいいね~」

「マシュは、やっぱショートパンツとレギンスの合わせがいいかな~」

「動きやすさはマストだよね」

「実際さ、パーカーとか帽子付きのトレーナーみたいな装備あると楽じゃない?」

「……めっちゃ楽」

「ってか、アレ近くない?」


 トリーの視線の先にあるのは、正しく想像していた帽子付きのトレーナーに近い作りの上着である。布製でありながら耐水系の付加効果もあって求めていた物だ。

 自分たちの適正サイズより大きな物で色違いを選び、それに合わせてキュロットとパンツ、その他にグレープから貰ったベルのためのケースやマシュのグローブなど小物類も選んでいく。

 大まかに決まってしまえば2人の買い物は早く、装備の選択はまだ空が赤らんでいるうちに終わり、その後近くにあった食品店に入って大量の食品を購入した。

 なぜ食品を購入するに至ったかというと、フルーティーのメンバーに振る舞うためだ。

 ポルコネに到着してからというもの2人は衣食住全てにおいて世話になっている状態で、せめて何か恩返しがしたいと思ってのことだった。

 全ての荷物をシロに詰め込んで早々に宿に戻り、調理に取り掛かる。

 マシュが選んだのはポター村でよく食べられる料理の数々である。

 スープには甘めの芋のポタージュ、1つ目の木の実と葉野菜のサラダにはベリー系のドレッシングを付け、2つ目は白身魚のマリネを乗せたサラダ、主菜にはコッコの肉を乱切りにして下味をつけ揚げたものとカルディアの肉をハーブと一緒に煮込んだものを選んだ。

 当然ながらトリーはサラダに使う野菜を千切る担当である。

 サラダを作り終えたトリーが調理の途中で帰ってきたフルーティーのメンバーにお茶を出したりと給仕に励み、台所では料理に励むマシュの隣に立ってメロンがレシピのメモをとる。

 和気藹々と調理と夕食を終えたあとは、買ってきたスイーツをつまみながらどんな1日を過ごしたのかを報告し合った。

 ただ、祭りの衣装についての報告はなく、2人には一抹の不安が残るのだった。

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