41話 ダンジョンボス討伐2
メロンいわく、あのグリーフリーに物理攻撃は効かない。ということは、この戦闘においてマシュはほぼ戦力外だ。
自分にできることはトリーや従魔たちが攻撃できる隙きを作ることくらいだろうかと鞭のグリップを強く握る。
「トリー、たぶん私にできるのって作戦を考えることと翅の動きを封じてアレを地面に落とすくらいしかないと思う」
「なるほどね。それに向かって魔法放つ感じね」
「近接戦闘は無意味だとは思うけど……やらない訳にはいかないか」
「攻撃の効果ないのに近接やるの?」
「遠距離ばかりだと自由にさせすぎじゃない?」
「あーね」
「イナリとジビエとでどうにかするから、トリーはモミジと一緒に後方で何とかして」
「急に雑じゃん」
「じゃあ……シロ預けとく。シロはモミジの背中からフルーティーの方を注視しといてね」
『はいッス』
背負っていたリュックをトリーの方に投げ捨て、ジビエとイナリを引き連れて駆け出すと普段より数倍身体が軽く感じる。
これがメロンの補助魔法の効果なのだろうと実感しながら鞭を伸ばすが動きの早いグリーフリーには当たらない。
次の手を考え出す前にグリーフリーが小さな竜巻を飛ばす魔法を繰り出し、マシュに向かう小さな竜巻を防ぐようジビエの土壁がマシュの目の前に聳え、竜巻が当たって崩れ落ちる。
『消えてないのじゃ!』
イナリの声に反応し、即座に回避行動を取るとさっきまで自分の居た場所で竜巻が大きくなり消えるのを確認した。
「なるほどね」
完全には避けきれなかったかと服の肩部分にできた穴を押さえ、思ったより攻撃範囲が広いものの避けられないわけではなさそうだと、もう一度距離をとって逡巡する。
不意に後方のトリーからグリーフリーの下に風属性の魔力が吹き上がるように渦巻いていると声がかかり、落ちないように風の流れみたいなものがあるのかと悟る。
「トリー!その渦に向かって氷ぶっ放せ!あいつの周りの空気が冷えりゃなんでもいい!」
「了解!……こ、ここぉ……ゆ、雪ッ!雪だるまッ!」
技名は思い浮かばなかったらしい。というか、何で雪だるまだよと思わないでもないがトリーらしいなとも思った。
それでも簡単に目的の場所に若干緊張感の欠ける大きな雪だるまを出現させたあたり本当に扱いやすいのだろう。
よくやったと内心で褒めていたマシュを余所にトリーは何故そこに氷を出せと言われたのかわかっていないのだが、そこに深い理由はない。
ただ単純にマシュはトリーよりも魔獣を多く見てきているから察したのだ。
この世界の魔獣は前世で見てきた虫や動物の特徴を持っているものが多いと。
マシュから見たグリーフリーは、いくら動きが早かろうと蛾である。
蛾は冬季には外に居ない。ならば、寒ければ動きが鈍るだろうといいう単純な思考だった。
案の定、グリーフリーの動きが鈍る。
「ジビエッ!翅を狙って!」
即座に反応したジビエが鋭利な石礫をグリーフリーの翅に向かって放つが、それをギリギリのところで躱されたところでグリーフリーの動きが鈍いことに気付いたトリーが二度頷いた。
(寒さに弱いってことかな……だとすると吹雪起こせば……それは流石にやりすぎか。てゆか、吹雪って起こせるのかな?アレって風も必要だよね。いや、でも……雪を積もらせるくらいならいけるか?雪山とか?あ、でも、いっそ雪降らせればいいのかな。そしたら、下に落ちるよね)
トリーが無言のまま考え込んでいると突如前方からマシュの焦る声が届く。
「トリー!やりすぎ!埋まる!埋まる!」
「え?」
魔法とはイメージが重要で、雪国出身のトリーは間違いなく雪というもの簡単に想像できてしまう。
いや、想像しているだけであれば良かったのだが発現させてみようと魔力を垂れ流した状態で想像してしまっていたのだ。
グリーフリーのいる位置だけでなく、マシュやジビエ、イナリの立つ場所までも雪で埋めている。
水分を含み重く大きな牡丹雪が足場を奪い、降雪量はマシュから視界を奪うほどだ。
「あ、やっべ」と呟いて雪を止めると、雪の中から這い出てくるマシュと目が合った。
「お前、殺す気か」
「ご、ごめーん。でも、ほら!グリーフリーも床に落ちてるよ!」
藻掻くように翅を動かすグリーフリーが視界に入り、今のうちにとどめを刺そうと攻撃の体勢に入った瞬間、シロが声を張り上げた。
『姐さん!危ないッス!』
咄嗟にスカーレットドラコがいるであろう方向を見ると、こちらに向かって大きな口を開けているのが見え、マシュは一目散にトリーのいる方向に駆け出した。
「戻って!」
強制的に契約の石の中に獣魔たちを戻して振り返ると炎が目の前を通り、あったはずの雪を全て消し去っていた。
おそらく冷気はスカーレットドラコにとっても能力を下げる可能性のあるものなのかもしれないと、今一度スカーレットドラコを見ると既にスカーレットドラコの意識はフルーティーのメンバーに向いていて、こちらを意に介してはいなかった。
ホッと息を吐いて再びグリーフリーに目を向けると、やや動けるようになったグリーフリーと目が合う。
「トリー、今のうちに叩こう。頭掴むから氷柱かなんか降らせて止めお願い!」
「ラジャ!」
鞭の届く距離まで詰め、勢いよく鞭を振り、グリーフリーの頭を掴むとトリーの声が響く。
「アイスランス!」
今度は技名が思い浮かんだらしい。
その名のごとく氷の槍が藻掻くグリーフリーの頭上から降り、胴体に突き刺さるとグリーフリーの動きが止まった。
自分たちだけで勝てたのかと尻もちをついて安堵するマシュにリュックを拾って駆け寄ろうとしたトリーの足元に魔法陣のようなものが現れ、そこから出ようにも透明な壁があって出られずマシュに向かって叫ぶ。
「マシューーッ!」
「は?」
振り返った瞬間、光に包まれるようにトリーの姿が消えた。
「え?え?トリー?」
何が起きたのか理解できず困惑したままトリーが消えた位置まで走り、キョロキョロと当たりを見回すが、そこには何もない。
魔法陣も消え、そこには何の変哲もない地面があるだけだった。




