39話 幼馴染2人は自分の武器を学ぶ2
小休憩のあと、再びマシュは不規則に並べられた丸太の前に立つ。
続いて行うのは従魔との連携訓練だという。
アップルいわく言葉に出して指示をするような従魔士は二流どころか三流なのだとか。
そもそも戦闘中に言葉にして口に出しているのでは、攻撃するにも防御するにも間に合わないことが多いと言われ、それもそうだと納得せざるを得なかった。
契約している従魔たちを呼び出し、共にアップルの話を聞くことにした。
「臨機応変に対応することは大切だけれど、役割と優先順位を決めておくのも重要よ。例えば私達はレオが攻撃の要であり、レオが優先すべきは敵の殲滅。ジャッキーは上空からの援護と索敵。アンドリューはヒーラーのメロンとエヴァンスの護衛。エヴァンスは味方の治癒と補助が最優先事項になっているわ」
「なるほど……だとすると、うちはイナリが攻撃メインでジビエとモミジに護衛を頼むのがいんですかね」
「そうねぇ……シロちゃんは、まだ戦えないのよね?」
「はい。属性がないので攻撃魔法も防御魔法も使えないです。今のところ歩くアイテムボックスですね」
「それなら、ジビエちゃんとモミジちゃんのどちらかには攻撃に参加してもらった方がいいでしょうね。見たところジビエちゃんは一般的なカルディアよりも体躯が大きくしっかりしているし、キティちゃんが息を合わせられるなら騎乗戦も選択肢のひとつとして入れてもいいかもしれないわね」
「騎乗戦ですか!?」
移動時に乗るのと戦いながら乗るのでは訳が違うことくらいマシュだって知っている。
そもそも魔獣に乗ったのだってジビエが初めてなマシュにはハードルが高く思えたが、選択肢のひとつだと言われれば確かにそうかと頷くほかない。
「ジビエ、私が充分戦えるようになったら騎乗戦の練習に付き合ってもらえるかな?」
『自分で良ければ……』
掠れた渋いイケオジボイスの快い返答にホッと胸を撫で下ろしつつ、今は与えられた課題に真面目に取り組もうと従魔たちそれぞれに視線を向ける。
「私とイナリとジビエの連携力を上げるのが急務……ですかね?」
「そうね。連携練習だけれど、まずはキティちゃんが丸太を跳ね上げ、宙に浮いている状態の丸太にイナリちゃんが炎を当て、ジビエちゃんが土魔法で穴を掘り、その位置にキティちゃんが丸太を落とし、ジビエちゃんが地中に埋める。次にジビエちゃんが土魔法で丸太を持ち上げ、高所に持ち上げられた丸太をキティちゃんが叩き落とし、落下直前にイナリちゃんの炎を当てる。この2パターンの連携をしてみましょう」
「はい!ふたりともいいかな?」
『まかせるのじゃ』
ジビエが無言のまま頷いたのを確認して所定の位置につく。
前衛にはイナリとマシュ、すぐ後ろにはジビエを配置し、モミジとシロは見学だ。
開始の合図に合わせてマシュが丸太を跳ね上げるが最初はイナリの炎は丸太には当たらず空に消え、炎が当たるようになってもジビエが空けた穴に落とすことが出来ず、成功するまで何度も繰り返し鍛錬に励む。
本来なら敵は動き回る魔獣、同じ位置から攻撃し続けて成功したところで意味はないと檄が飛び、足を動かしながら腕を振って宙に放り出された丸焦げの丸太に向かって鞭を向けたその時、後方からハンドベルの涼しげな音と共にトリーの歌声が響いた。
低くはなく、高くもないその声音で歌うのはポター村独自の痛いほど寒い冬の日に催す祭りで氷姫に選ばれた女児が歌う祭唄だ。
季節外れにもほどがあると思わなくもないが、長い間祭りで氷姫を担ってきたトリーが歌い慣れているものでもある。
そもそも祭りは狩猟祭でもあり、祭りの始めに氷姫が歌うこの歌は狩猟の成功と猟師たちの無事を願う歌だ。
歌詞の中に氷だとか雪だとかが入っていてもマシュや従魔たちの無事を願うトリーの心情に内容は沿っている。
「あぁ、祈りだからか」
メロンが言っていた補助魔法は祈りだという言葉を思い出し、トリーがこの祭唄を選んだ理由を察して無意識にそう呟いたマシュは先程よりも軽く感じる身体を動かしつつ魔力操作に力を入れ、ふと気付く。
身体が動かしやすいだけでなく、やけに魔力操作がしやすいのだ。
その上、丸太には謎のポインターまで付いていて狙いやすくもなっている。
トリーの補助魔法のおかげもあって初めて成し得た成功に声を上げて喜び、そのまま手を広げてトリーに駆け寄ろうとしたマシュの身体に鞭が巻き付き、宙に浮いたかと思うと所定の位置に戻される。
「キティちゃん、まだ1回しか成功してないわよ」
「あ……はい」
喜ぶのは、まだ早いらしい。
その後、トリーを加えた訓練は日が昇り始めるまで続き、解放されたのはメロンが朝食の支度に入る頃だった。
ゼェゼェと息を吸っては吐く。指の一本さえ動かすのが怠いほど身体が重く、2人は地面に突っ伏した。
成功しては徐々に難易度を上げられた訓練もメロンとアップルに褒められるくらいには上達したし満足しているが、今日はもう動けないんじゃないかと唸る。
そんな2人を覗き込んだストロベリーが丸太づくりのためにアンドリューが切り倒していた木々のあった方角を指差し、そこには大きな土壁が建てられていた。
「このダンジョンは温泉が湧いているのよ。入ってきなさい」
ストロベリーの両脇に抱えられて土壁の中に運ばれると見事な温泉があった。
天井はなく、簡易的に整えられた露天風呂に小脇に抱えられた2人の瞳が生き返る。
朝食ができるまでゆっくりと浸かるように言われ、最初のうちは鼻歌を歌ったり会話を楽しんでいたが急激な眠気に襲われた2人の会話がピタリと止む。
もしかして沈んでいるのではと怪しんだイナリが壁の中を覗き込むと仰向けに口を開けて眠る2人の姿があった。
敷かれたマットにうつぶせ寝かされ、意識がないままマッサージを受ける。
ただ今回のマッサージは魔獣の好きな匂いを塗りたくるためではなく、夜通し行った訓練の疲れを取るためのものだ。
メロンお手製の疲労回復薬は身体の怠さを取り払い、若干の痛みが走ってまずはトリーが目覚めを迎える。
冒険者の多くは不眠で動くことも少なくはないから短時間で疲れを取る方法を身に付けておくことも大事だという助言とこの疲労回復薬とマッサージの効果はあくまで現状の疲れを一時的に取るものであって後から倍の疲労を負うものでもあると注意を受けた。
疲労を回復する方法はマッサージの他にもあると言われたのでトリーは今後のためにもなにか探しておくべきかと思考を巡らせた。
その後、マシュも同じように痛みのせいで目覚め、マッサージを終えると食事にありつく。
豆類がふんだんに使われたスープを口に運んでいるとメロンとアップルから初心者講習を受けなかったのかという問が投げられた。
「受けました!」
「そうなのォ?講師に魔法や武器の正しい使い方については習わなかったのかしらァ?」
「ふわっとですけど、戦い方だったり魔獣の捌き方だったり、契約の仕方を教えてもらいました」
「……講師の名前を聞いてもいいかしら?」
「ゼンさんです」
「……大剣使いのゼンかしら?」
「はい、そうですけど……」
「そうなのね。彼、熱意はあるけれど2人の講師としては微妙ね。人選ミスだわ」
「アップルちゃんのお知り合いなのォ?」
「私がフルーティーに入る前、別のパーティーに属していたのは知っているでしょ?その時に一緒だったのよ」
「アップルちゃんの入っていたパーティーっていうとォ……リーダーのお爺様がいつの間にか農業に専念していたっていう?」
「そうよ。ゼンとは、よく2人でダンジョンを回っていたんだけど、気付いたらパーティーが解散してて、互いに別の道を歩むことにしたのよね。故郷のキャロメルで講師になったのは聞いていたけど、2人の担当だったとは思わなかったわ。ただ、説明だったり訓練に漏れがあることには納得がいくわね。何かに付けて大雑把なのよ」
そう説明するアップルの表情は穏やかなもので、ゼンに対して悪印象を持っているわけではないのだろう。
アップルが懐かしそうに当時のことを語り、それを聞いていたストロベリーからフルーティー結成の経緯を教えてもらい、冒険者にも色々あるものだなぁなどと暢気に聞いていると、そろそろ出発しようかという声がかかり腰を上げた。




