30話 幼馴染2人は教えを請う1
マシュとトリーの緊張を和らげるためかストロベリーが雑談に花を咲かせてくれる。
元々フルーティーはドンギスという国で結成したパーティーで、4人中3人がAランク、1人がBランクで構成されているという。
今回ポルコネに来たのは1年に1度の催しに参加するためなのだとか。
キャロメルの酒場で聞いた通り冒険者の集う地区があるらしく、近々その地区で大きな催しがあるのだと話した。
「その催しって誰でも参加できるんですか?」
「できるわよ。ただ、ドレスアップすることがルールとしてあるわね」
「なるほど……じゃあ、私らは難しそうだね」
「そうだね。流石にドレスアップするほどの余裕はないや」
「あら、参加したいの?それなら一緒に衣装を作る素材を集めにもう一度あのダンジョンに行ってみる?」
「え、でも……私達ランク低いんですけど一緒に行けるんですか?」
「ちなみになんですけど、私たちが落ちたダンジョンってどこのダンジョンなんですか?」
「ちょっと待ってね」
取り出したマップで当該ダンジョンを探し、そこを指差す。
それは手記に挟まっていたメモ紙に書かれていたバツ印の場所に近く、もしフルーティーと共に入ることができれば麗水とやらを入手することも可能なのではないかとマシュは目論み、一方でトリーは催しに参加できるのであればドラゴンに関する情報を得られるのではと考えていた。
「2人にとっては難しいでしょうけど、規定ランク以下の人数より規定ランク以上の人数が同行者としていれば問題なく入れるのよ」
「今回の場合、キティちゃんとベビーちゃん2人より私達フルーティーのほうが人数が多いから問題ないわ」
ストロベリーの提案にパッと明るい表情を見せるトリーに対してマシュは少々不安げな表情を見せていた。
彼女たちの参加する催しのドレスアップがどういうドレスアップなのかが不安なのだ。
そもそも彼女たちのメイクは前世でいうところのドラァグクイーンというものに近いと思う。
本物を見たことはないが、舞台に立つ者に施される系統のメイクで間違いはないだろう。
善意から誘ってくれているのはわかっているが、自分たちも同じようなメイクや服装にと言われた場合断りにくいと思っているし、何なら自分の性格上断れないだろうとも思っている。
派手な服というだけなら抵抗はないがボンテージのような衣装は流石に着る勇気がない。
そうこうマシュが1人悩んでいる間にトリーとストロベリーの間で共に素材集めに行くことは決定していたのだった。
ただ、手記にあったアイテムの入手を目論むマシュにとっては上位パーティーの人たちに同行してもらえるというのは、非常に有り難いことでもある。
こっそりと【ナントカの麗水】を頂きたいところだと満面の笑みを向けた。
それから少しの時間を置いてメロンが戻ってきて談話室に集まるよう伝言が伝えられ、2人はフルーティーのメンバーと共に建物の4階にある談話室に向かう。
入室すると大きなテーブルがあって所狭しと食事が並んでいた。
ギルド員に引かれた椅子に座り、食事に舌鼓を打っているとギルドマスターの男性と残るフルーティーのメンバーである踊り子のグレープが現れた。
20代半ばくらいの男性はロングヘアーにモノクルという露骨にインテリキャラ風味を醸し出していて、2人は内心でどうせ性格は俺様クール系だろと決めつけていた。
挨拶をする間もなくマスターは椅子に腰を下ろし、急かすように指でテーブルをコンコンと叩き始める。
「君達、私は暇ではないので簡潔に終わらせてくれたまえ」
やけに『私は』の部分を強調された気がする。
申し訳無さそうに謝罪するトリーと並んで座っていたマシュもまた続いて頭を下げはしたが、内心で何だこのいけ好かねぇクソメガネと暴言を吐いていた。
「それで?ダンジョンに繋がる穴はどこにある」
「正確な位置はわかりませんが、落ちる直前に湖が見えました。近くに青りんごの木があって」
「もっと詳しくわからないのか」
「すみません。わからないです」
「大体、なぜ君達のような弱者が森の奥まで入っているんだ。あそこは昨年から魔獣が多発する危険地域になっているんだぞ。弱いのなら森の浅い場所で狩りをしていればいいだろう」
「クエストのために森に入った日が双月の夜だったことを忘れていまして、ラッツの群れに襲われて開けた場所まで逃げたらコンパスまで狂って出られなくなってしまったんですよね」
「はぁ……ダンジョンへの侵入はあってはならないことだと理解したまえ」
「はい」
「学が無い者はすぐに他者に迷惑をかけ」
「ねぇ、ちょっとアンタ。性格悪くなぁ~い?」
口を挟んだのはマスターと共に入ってきたグレープだ。
紫の長い髪を金の髪飾りでひとつに纏め、化粧を落とせば爽やかなイケメンなのではなかろうかという顔立ちをしている。
あくまでも推測の範囲でしかないのは濃い紫のアイシャドウや黒々としたアイライナー、チークや赤い口紅が原因で原型がわかりづらいからだ。
アラビア風の衣装は腹部が見えていて、程良い靭やかな筋肉は彼女の踊り子としての能力を支えているものだろう。
ただ気になるのは彼女の頭にある髪と同色の猫化っぽい丸みのある耳と背後に見える長い尾だ。
獣人という種族が存在するというのを聞いたことはあったが会うのは初めてだった。
獣人というのは感情が豊かで嘘をつくこともない種族だというのをトリーは知識としては知っていた。
昔に読んだ本に書いてあった通り彼女が不快感を隠そうともしていないのは確かではあるが、そもそもフルーティーのメンバーは誰ひとりとして不満を隠そうとはしていない。
この場でオドオドとしているのは、マシュとトリーの2人だけだ。
ストロベリーは額に血管を浮かべて怒髪天を衝くほどの雰囲気を漂わせているし、アップルは小さな男だと吐いてマスターに興味を失っているし、メロンは頬と眉がピクピクと動いている。
「嫌味な男ってイヤよねェ~」
「新人相手ににグチグチと鬱陶しいわぁ~」
「せめて情報提供には感謝するべきじゃないのかしらね?」
「それは冒険者の義務だ。Aランクの冒険者だと言うなら、それくらい理解していると思うが?」
「義務だからといって謝辞を述べなくていいということにはならないのよ、坊や。そんな態度を繰り返しているからママに実権を取られたままなのよ」
明らかにマスターがストロベリーたちの圧に押され始めている。
特に最後の一言はだいぶ効いているのか喉を鳴らして黙ってしまった。
「ついでに言っておくけど、冒険者だろうが何だろうが新人なんて失敗は当たり前にするし、それを導いてやるのが先達の仕事よ」
堂々と言い聞かせるストロベリーの姿にマシュとトリーは憧憬を覚え、これが美しいと称される所以かと感嘆する。
「お……お姉様……」
そう零したマシュの目には、いけ好かねぇクソメガネのことなど映っていない。
「キティちゃん、あなた達のお世話は私達がしてあげるわ。わからないことがあれば遠慮なく聞きなさい。命の危機が迫ってからでは遅いわ」
「はい。ありがとうございます」
「確かに今回は命が無事だったから良かったけれど、崖の下が地面や滝壷だった場合は命に関わるし、ダンジョンの中でも運命的にアタシ達と出逢ったからよかったものの、あなた達2人だけでは無事に出られなかったでしょうね。そういえば、ダンジョン脱出用の魔法具は持っていなかったのかしら?」
同時に「あっ」と声を発した2人の様子から魔法具を持っていることを察したフルーティーのメンバーは口々に「仕方のない子たちねぇ」と呆れ混じりに笑った。
彼女たちから母のような姉のような懐の深さを感じ、2人は素直に「ごめんなさい」と頭を下げた。
「いいのよ。これから学べばいいんだから」
「でも、冒険者になりたてだって言うなら持ってる魔法具じゃ魔力が足りなかったんじゃなぁい?」
「そうね。そういった知識も必要ね」
「ここに居たところで学べないのだし、まずはアタシ達が泊まっている宿に行きましょう。そこで今後の話をしましょうね」
「ふんっ、さっさと行け。私は忙しいんだ。お前達のような学も何もない小者に付き合っている暇はない」
「肝の小さい男ねェ。イヤんなっちゃうわァ」
「アンタ、そんな態度ばかりだと足元をすくわれる日が来るわよ?」
「いいじゃないの。私達には関係のないことだわ。とりあえず、食事を用意してくれたことは感謝するわね。2日も寝ていたからキティちゃんもベビーちゃんもお腹が空いていたでしょうし」
その後も散々言い合ったマスターとフルーティーの面々が互いにわかり合う気配もないままお開きとなり、2人はダンジョンに入る申請と受注クエストの完了をしてからポルコネという大都市に繰り出す。
右を見ても左を見ても建物と人で溢れている。
普段からこうなのか、はたまた催しが近いからここまで賑わっているのかはわからないが、キャロメルとは比較にならないほど人や物で溢れているのだ。
周囲を見回すだけで目眩がするし、色々な匂いが混ざっていて酔う感覚までしてくる。
前世のような高層ビル群があるわけではないので空が狭い感覚まではないが、やはり自分たちは田舎暮らしに慣れた人間なんだなと思うのと同時に王都に行くのが少々不安になった。




