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27話 幼馴染2人はアイスクリームが食べたい

 ネズミというには、あまりに大きい。

 群れのボスと思われる個体はマシュの膝あたりまであるのではなかろうか。

 小さい個体でも脛あたりまであることを思うと、そもそもがデカいのだろうが、それにしてもだ。

 従魔たちに一旦後方で臨戦態勢に入るよう指示し、マシュが鞭ではなくショートソードを構えたその隣でトリーが対峙した勢いそのままに叫ぶ。


 「ウインドカッタァァァァッ」

 「え、ちょ、まっ」


 複数の薄い円形状に視覚化された風がキュィィィィンと耳を劈くような音を立ててラッツに向かっていく。

 目の前にいた少なく見積もっても50匹は居たであろうラッツが見るも無残に真っ二つになっていくではないか。

 ご愛嬌と言わんばかりに少々木々まで薙ぎ倒したのは言うまでもないが、空に消えたトリーの魔法を見送ってからそこそこいい感じに構えていたショートソードを無言のまま鞘に収め隣を見ると思いも寄らない魔法の威力の反動を受けたトリーが尻餅をつくように転がった。

 

 「えっと……大丈夫?」

 「びっっっくりしたぁ」

 「こっちのセリフだわ」

 

 トリーに手を差し伸べて起こし、大量に転がるラッツの死骸を眺める。


 「これ、どうする?剥ぎ取る?」

 「ラッツって、あまり素材の価値ないんじゃなかった?それなら必要ないし埋めれないかな?カルディアって土属性だって書いてたし」

 「モミジ、ジビエ。この死骸、全部土の中に埋めれる?」

 『任せて!』


 ボコボコと土がラッツの死骸を取り込むように動き、綺麗サッパリ見えなくなったのを確認し再びそこにテントと焚き火を設置した。


 「見晴らしのいいとこなら安全だろ。寝るのは無理だけど、朝までここでやり過ごそうか」

 「それが良さげだね」

 「てゆかさ、双月の夜って魔法が使えなくなるわけじゃないんだね」

 「忘れてたけど、そうみたい」

 「私、てっきり使えなくなるもんだとばかり思っててさ」

 「私も焦ってなければそう思ってた。なんか勝手に威力めっちゃ上がったけど、あれも多分影響受けたからだよね?」

 「そうじゃないか?身体になにか影響でたりしないよね?」

 「今のところは普段と変わらないけど……てゆか、モミジたちは普通に魔力扱えてたけどどういうことだろ?」

 「わからんけど……魔獣には効かないとか?」

 「でも、凶暴になったりするよね?」

 『空に月がふたつ現れる時間は魔獣の魔力が増幅する時。魔獣は好戦的になることはあっても人間のように魔力を扱えなくなることはありません』

 「そうなんだ」

 『人間であっても魔力の扱いに長けた者は双月の夜の影響を受けにくいと思います』

 「まだ私が下手っぴだからか」

 

 ジビエの説明に頷きつつトリーがコーヒーを淹れ始める。

 コーヒー特有の香りに癒やされる感覚があって、マシュは「やっぱコーヒーよな~」とトリーの流れるように動く手を見つめる。

 保温性のあるカップにコーヒーを注ぎ、手渡されたカップの中に砂糖を入れて口をつけ、ふぅと一息ついたのまで同時で無意識に笑いが零れる。

 睡魔を追い払いながら談笑し続け、月が降りて夜が明け始めた頃に大きな欠伸と共にトリーが呟いた。


 「なんかコーヒーフロート食べたくなってきた」

 「生クリームは無いけどミルクと卵と砂糖で作れるんじゃね?」

 「冷やすの無理じゃない?雪があれば出来たかもしれんけど、もうここら辺の雪は溶けてるよね?」


 1年のうち半分くらいは雪が残るレイシ地方だが、南下するにつれて雪は少なくなっており、既にこの辺りの雪は溶け切ってしまっている。

 

 「冷水と……冷風とかで凍ったりせんか?」

 「冷凍庫ばりに氷点下まで下げることってできるんかな?」

 「ん~……私、魔法苦手だからわからんけど、そういう感じの魔法ないん?魔法ってイメージなんだったら作れるんちゃう?」

 「氷属性みたいなのがあれば楽にできそうだけど、複合魔法って難しいんだよね。今の私のレベルでできるもんなのかな……」

 「食材無駄にしちゃうかもだけどやってみん?」

 「ん~……やってみるか!」

 

 決断してしまえば2人の行動は早い。

 テキパキと工程を進めアイスクリームの素になる全てを混ぜた液体を冷やす工程に入る。

 

 「鍋のまま冷やせばいいのかな?」

 「そうね。冷やしながら混ぜる感じかな」

 「でも、これ……鍋ごと凍らん?」

 「まずは氷水があるといいんだけど、氷って作れそう?」

 「氷、氷ね……」


 まずは別の鍋に水を溜めて、そこに向かって杖を向ける。

 冷水と冷風のイメージを込めて発した魔法は常温の水を確かに冷たい水に変えたが熱いものを冷やせるほどではない。

 あくまでも飲水としては冷たい程度のものだ。

 いっそ氷のイメージを持てば良いのではという話になり、もう一度鍋の中の水に向けて魔力を向ける。

 途端にパキパキという音が鳴り、水が全て凍った。


 「え、やば。全部凍っちゃったんだけど」

 「ここに水いれたら良き塩梅にならんか?」


 鍋に常温の水を流し込み氷水を作ることに成功したトリーは、テーブル代わりにしていた岩に向かって凍らせることは出来ないかと挑戦し、まさかの成功を収める。


 「え?すごくね?」

 「なんか、水魔法とか風魔法と関係ないっぽいかも」

 「……これ、水じゃないの?」

 「うん。なんか……わからんけど、水魔法じゃないわ」

 「まあ、よくわからんけど氷作れたってことはアイス作れるってことで万事オッケーよ!」

 「だね!じゃあ、こっからめちゃくちゃ冷やしていけばいいんだよね?」

 「そうそう。冷やして混ぜてを繰り返す感じ」

 「じゃあ、徐々に冷気強めていくね!」

 

 アイスクリームの素になる液体が入った鍋を冷やしてから、その鍋を凍った岩の上に乗せ、冷気を強めていく。

 トリーが冷やし、マシュが混ぜるという工程を繰り返し、従魔たちが見守る中でアイスクリームは完成した。

 味に物足りなさはあるが、問題ない出来に2人の顔が綻ぶ。

 この時、2人は口にはせず同じことを考えていた。

 もしかして氷属性って存在するのでは?と。

 出来立てのアイスクリームを従魔たちに振る舞うとイナリやカルディア夫妻には微妙な表情をされたがシロは大層気に入ったようで、今後のごはんはアイスクリームがいいとまで言い出した。


 「いっそさぁ、もっとかき氷とか作ってみない?」

 「いいよ!今作る?他の魔法より簡単に発動できるから、いくらでも出せそう!」

 「シロ、アイスクリーム以外も食べてみたくない?」

 『食べてみたいッス!』


 爛々と答えるシロを撫で回すマシュは忘れていなかった。

 スライムは摂取するものによって属性が変わるということを。

 これは間違いなく実験だ。

 もしアイスクリームやかき氷といったものを摂取し続けた時にシロが氷属性という未知の属性を得た場合、自ずとトリーが氷属性の魔法を使えることまでわかるのだ。

 もしトリーが氷属性というものを持っていたならば、その能力は会いたいと願っているエルフとの交渉材料になるのではないかとも考えていた。

 その場合、氷属性という存在を明かさないほうがいいだろうとも思っていたが今までの魔法の鍛錬から察するにトリーは氷を扱う魔法を最も得意としてそうではある。

 自ら言うように他の魔法よりも簡単に具現化し、思うように操れているのだ。

 そうマシュが思っている隣では今も試しにと言ってトリーが色々な氷魔法を発動している。

 

 「疲れたりしないの?」

 「そういえば全然疲れないかも」

 「なるほどね~」

 「これさ、氷魔法ってことでいいのかな?」

 「確実とは言えないけど、可能性は高いと私は思ってるよ」

 「他の魔法士も使えると思う?」

 「あくまでも私個人の見解としてだけど、使える人はいると思う。ただ使おうと思う人がいないだけで」

 「ん?どういうこと?」

 「そもそも氷属性ってものが無いって思ってるこの世界の魔法士は試そうとすらしないと思うんだよね。それこそ私らも最初、水魔法と風魔法を組み合わせてって考えたじゃん?同じことを考えると思うんだよ。現にこの世界にも冷蔵庫はあるし、保冷庫もある。どっちも水と風を組み合わせたものだよね?それで氷魔法もどきみたいなものは作れるんだよ。あくまでも複合魔法ではあるけど」

 「あ~、なるほどね」

 「ホントたまたま私らは前世の記憶というかゲーム脳というか……そういうのがあるから氷属性っていう可能性に至ったわけで、もし無かったら氷魔法の『こ』の字も思い浮かばんて」

 「じゃあ、もし氷属性があるって確証が得られて公表したら、もっと世の中が便利になるね!」


 明るく発したトリーにマシュが「お前、ホント良い奴だよな」と真顔で返す。


 「なんか、すげぇ自分が性格悪い奴だなって思うわ」

 「え?なんで?」

 「いや、だってさ、これから会いに行くのって王都の貴族で優秀な人か強い人にしか会わないって言われてるエルフなわけよ」

 「うん」

 「それなら稀少性のある氷魔法の存在っていう情報を交渉材料に会う方法とか考えちゃわん?」

 「……全然思い浮かばなかった」

 「それが思い浮かばず、公表してみんなの生活が良くなるようにって考えるトリーが眩しいわ」

 「まあ、私良い奴だからね!」

 「その自分から言ってくスタイル嫌いじゃないわ~」

 「へへっ、よせやい」


 一旦、確証が得られるまでは可能性すら秘密にしてその後のことはその時に相談しようという話で落ち着き、日が昇ったことで2人は近くの村を目指し出発した。

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