25話 幼馴染2人は長い旅に出る
2人が冒険者ギルドに入ると心なしか人が少ないように思えたが、そもそも冒険者はひとつの場所に留まるものではなかったと思い直してクエストボードの前に立った。
所狭しと貼られた紙には、必要ランク・期日・採取や討伐といったジャンル・報酬などが書かれており、それらに目を通して3枚の紙を手に取った。
1つ目は薬草採取。これは比較的に森林や草原であれば簡単に見つかる薬草で、一般家庭でも痛み止めとして煎じて飲むことも多い。
報酬も20ブルと安価であり、クエストで得られるポイントも最低ラインの5ポイントではあるが、他のクエストのついでに集めるのであれば受けておいて損はない。
2つ目は素材採取。こちらもダンジョンでなくとも棲息しているイエティという魔獣の毛皮だ。真っ白な毛皮は子沢山というイエティの特性から新郎新婦に贈られることが多い。冬に活発に動くイエティは、暑さに弱く雪解けが始まると動きが鈍くなり、毎年この時期に狩猟が始まる冬季のみDランクに属するというEランクの魔獣だ。
3つ目は討伐。こちらはキャロメルの南にある森に大量発生しているというFランクのネズミ型魔獣ラッツを最低30体討伐するというものだ。
ラッツが森の中にある木の実や果物などを食い荒らしていて餌が取れない草食魔獣たちが人里に降りてきてしまっているらしく、早急の対処が求められるといった旨が記載されていた。
ちなみに、このラッツという魔獣は水属性で沼や泥の中に巣を作り、1体発見すると周囲に30から50体はいると言われている。
冒険者ギルドでは害獣にも登録されており、見つけ次第駆除することを求められている魔獣でもある。
この3枚の紙を持っていきギルドカードを提示すると3分と待たずに受付が完了し、次に脱出魔法具の予備を購入してから忙しない仕事の合間だったタクワに会い、明日の朝にはポルコネへ向けて出発する旨と世話になった感謝を述べてギルドを後にした。
その後、2人が向ったのは食材屋と雑貨屋、そして薬屋、最後に製菓店だ。
シロの飴を含む消耗品を買い足し、イナリの好物だという胡桃も大量購入済みだ。
満足いく買い出しができた頃には日が暮れ始めていて、2人は酒場に入る。
毎日のように通っていたこともあって既に店主とは顔馴染みであり、座り慣れたカウンター席に着くと店主が寄ってくる。
「嬢ちゃんたち、今日はカルディアの鍋がオススメメニューだ。どうする?」
「それ食べたい!」
「はぁ~今日でおっちゃんの料理も食べ納めかぁ……明日からは自炊……」
「お?ついに冒険に出るのか?」
「そうなんですよ。一旦ポルコネまで行く感じです」
「ポルコネか。そりゃあ、いいな。あそこはジジィだかババァだかわからねぇ古株のババァが取り仕切ってる地区があるんだが、そこは気前の良い奴らが多い。困ったことがありゃそいつを頼りな。キャロメルの酒場のカーユからの紹介だって言ったら会ってくれるはずだ」
「ジジィだかババァだかわからないババァ……」
「そうだ。あいつは元Sランクの冒険者でな、俺の末の弟なんだが本当に負けん気の強い奴だったんだよ」
「弟……がババァ……」
「まあ、たぶんババァなんだろ。きっと」
疑問が浮かんだ部分に一先ず蓋をして店主の昔話を聞きながら出される食事を平らげ、サービスだと言って出されたデザートに手を伸ばす。
ゆっくりとデザートを味わったあと宿に戻って女将さんと短い談笑をし、部屋に戻る。
「なんか、結構長居したからか寂しい感じあるね」
「そうね~」
「あ、領主様が送ってくれた本読んでみない?」
トリーの提案を二つ返事で受け入れシロに手記を取り出してもらう。
保存魔法のようなものが掛かっているのか、かろうじて文字が読めないということはないが、やや経年劣化はしている。
それもそのはず、これを書いたのは初代ガナッシュ領主だというのだ。
束になった紙をただ紐で綴っているだけということもあって慎重に1ページ目を開く。
「日記……かな?レイシ地方で最初にできた町はガナッシュだったみたい」
「へ~じゃあ、ガナッシュ家は歴史の長い家なんだ」
「だから家督争いが激しいのかな?」
「あぁ……ありそう」
読み進めたページに初代ガナッシュ領主はオーガニクの何番目かの子供であることも記載されており、そこにはドラゴンを守護する者として生きるための決意などが記されている。
「まじでドラゴンいるっぽい感じだけど呪いに関しての記載はないね。てゆか、初代ガナッシュ領主がドラゴンの守護者ってことは、昔はこの近くにドラゴンがいたのかな?」
「むしろ、今もいるから呪いが消えてないんじゃね?守護者がどういう役割を担ってたかはわからないけど、現在ドラゴンがお伽噺レベルの架空の存在として扱われてることを考えると守護者としての役割をサボってるから呪われたとか、そういうのもありそう」
「それだとお嬢様よりも前の人達がならないの不思議じゃない?」
「例えばサボり続けてたせいでドラゴン自体が最近になってなにがしかの病気になったとか、死んだとかだと今になって呪いが掛かるのもあるんじゃない?全部推測の域を出ないけどさ。あ、そこに祭壇がどうとか書いてない?」
「えっと……」
文字が掠れ読めない部分はあるが、確かにそこには祭壇や捧げる供物に関する記載がある。
トリーが何とかそれを読み解こうと手記を持ち上げ顔に近づけた時にページの間から折りたたまれた1枚の紙が床に落ちた。
「なんか落ちたよ」
マシュが拾い、それを丁寧に広げると地図のようなものが書かれていた。
「これ、キャベッシュの地図かな?」
「そうっぽいね」
「このバツ印ってなんだろ?」
「うーん、なんだろ。そっちの供物に関する部分は読めそう?」
「うん、なんとかね。魔鏡?を捧げないとドラゴンに会えなくて……んで、その魔鏡を作るのに必要な素材が書いてあるんだけど……一部が全く読めん。なんか……なんとかの麗水?とクリスタルディア?の角と鏡花ってのが必要みたい」
「……3種の素材?」
「うん」
「この地図のバツ印と合うね」
「まじ?じゃあ、それ探しながら王都に向かうのありじゃない?もしお嬢様の病気っていうか呪いが本当にドラゴンに関係するなら後々必要になるかもだし」
「一番近いのは……ちょっと現在の地図と照らし合わせよ」
現在の地図を取り出し照らし合わせると一番近くのバツ印がついているのはキャロメルの南東でありポルコネの北に位置する湖付近であることがわかった。
「ポルコネ行く前に寄ってみる?マシュ的にはあり?」
「……周りの敵が強くなければじゃない?」
「あぁ、私ら雑魚だった……」
「これがレアアイテムなんだとしたら強い魔獣とかが守ってるとかありがちなパターンじゃない?」
「あるある過ぎ」
「しかも、この時代はどうか知らないけど今はダンジョンが出来てますパターンもありえるし、近くに行ってから考えよ」
「キャロメルからポルコネに行く間に村もいくつかあるみたいだし、クエストやりつついくつか村を経由しながら進もうか」
「それが良さそう」
「じゃあ、明日からは動きっぱなしになるし寝るか!」
そう言って2人はものの数秒で眠りにつき、翌朝思いも寄らない来客によって予定よりも早く目を覚ます事になった。
女将さんから声を掛けられ、旅立ちの準備を終えた2人が宿から出るとダインが待っていた。
杖をついた細身のダインは、マシュに視線を向けると何度か頷いて目を細めた。
「早くにすまんのう。お嬢さんらが旅立つと聞いて見送りに来たんじゃよ」
「わざわざありがとうございます」
「お嬢さんがあのやんちゃ坊主の娘さんだったとは思いもよらなんだ。ところで、どうやら父親との間に何やら確執があるようじゃが、何か事情がおありかな?いやなに、言いたくなければ無理に言わなくてもいいんじゃがな」
「そう、ですね……まあ、端的に言うと捨てられただけです」
「ふむ……老婆心と思って聞き流してくれてかまわないんじゃが、もし機会があるのであれば父親に会ってみると良いじゃろうな。お嬢さんにそう思わせている時点であやつが愚かなのは変わりないんじゃがな」
ダインはそう言って目を伏せ、一呼吸置いてから2人の旅が良いものであるようにと声を掛け去っていく。
「まあ、機会があれば会ってみてもいいんじゃない?4・5発殴っておけば案外気が紛れるかもしれないし」
「踏むか~」
「まさかの足か~」
「手は痛くなりそうだからね」
「んまぁ、行くか!」
先に歩き出したトリーを追い、一度真っ青な空を見上げたマシュもまた長い旅の一歩を踏み出した。




