24話 幼馴染2人は旅の準備を整える
寝覚めの悪い朝を迎え、疲れの抜けきらない身体を起こしてマシュが朝食の準備をしている間にトリーとゼンが野営道具の片付けを終わらせた。
朝食を終えてから少しの休憩を経てダンジョンの踏破に向けて出発し、見覚えのある色々な魔獣と会っては戦い、様々なトラップに掛かったり回避しながら最後の部屋に到着する。
たった1日で多くのことを学び、充実した時間を送れたことを感謝しながら2人は最後の部屋に入りゼンからの指示を待つ。
「2人とも、これが最後のエリアだ。中央にある宝箱にはこのダンジョンを抜けるための魔法具が入っている。それを取ってくるんだ」
「了解です!」
溌剌とした声音で返事をし、2人で宝箱の前まで進み蓋を開ける。
入っていたのは、外気に晒されないよう加工された緑と紫の魔力石が組み合わさった三角錐形の魔力石に金の台座がついた魔法具だ。
台座にはスイッチのようなものが付いていて、それが起動スイッチなのだと説明があった。
「そのスイッチを押すと魔力石からこの部屋に充満しているのと同じかそれ以上の膨大な魔力が放出される。それによってボスを倒したときと同じ事象を引き起こすことでダンジョンから脱出できるというわけだ」
「なるほど、了解です」
「ちなみにこの脱出アイテムは3回まで使えるが、その後は魔力石の部分が砕けて消える。付け替える魔力石は冒険者ギルドで購入することができるからな。では、これで初心者講習を終了とするが質問はないか?」
「はい、大丈夫だと思います」
「あ、ひとつだけ。クエストって、いくつか同時に受けることは可能なんですか?」
「最多で5個までは同時に受けることができるな」
「わかりました。ありがとうございます」
「では、ルーペとアイテム図鑑、それにダンジョンマップを買い取るかどうかだ。手持ちに余裕があるなら買うことを勧めるが、無いのであればルーペ以外は後回しにしても大丈夫だろう」
「ん~、どうせ後から買うことになるなら今買ってもいいと思うんだけど、マシュ的にはどう?」
「うん。いいんじゃないかな?」
早々に購入を決め、言われた金額をゼンに渡して他の報酬も含めた全てを受け取る。
「2人で幌車に乗ってキャロメルへ戻ることになるからな。俺は、ダンジョンを出たらお別れだ」
「えっ!そうなんですか!?」
「あぁ、そうだ。最初はどうなることかと思ったが、よく成長してくれた。お前達の旅が良いものであることを祈ってるぞ」
「はい!ありがとうございました!」
「それと2人には10階コースの受講を終了した証としてプレゼントがある」
「報酬以外にもあるんですか!?」
プレゼントという言葉に目をキラキラさせた2人の手に高さ30センチほどの彫像が渡される。
トリーの手には赤髪の青年の彫像、マシュの手にはホワイトアッシュの髪色の青年の彫像がある。
「これは?」と聞いたトリーの横でこれが誰の彫像なのかを察したマシュがミシッと音が鳴るほど強く握る。
「これはギルドマスターのダインさんが作ったデスペラードの2人の彫像だ」
「なるほど」
「……顔とか全然知りとうなかったけどね」
そう告げ、問答無用と言わんばかりにマシュが脱出魔道具を起動する。
途端にフォクシー3体を倒した時と同様に周囲の魔力が動き出し、従魔を抱えながら低い姿勢をとりつつ暴風に耐え、瞬く間に出口である扉の前に送られた。
外に出ると既に太陽は真上から傾き始めている。
キャロメルに着く頃には夕暮れ間近になっているだろうと話していると馭者を務める従魔士に声を掛けられて幌車に乗り込み、大きく手を振りながらゼンに改めて感謝と別れを告げてキャロメルへと戻った。
ボロボロの装いのまま宿に戻ると女将さんが満面の笑みで迎えてくれ、一先ず風呂に入るよう促される。
予定より長かった講習の疲れを落とすため、ゆったりと湯船に浸かりながら明日の予定や装備の新調について話し合い、上がった頃には夕食時になっていた。
部屋に戻ってから改めてボロボロになった装備を眺めていたトリーが2人分の廃棄する服を畳み、血痕のついたマシュの服を持ち上げる。
「明日さ、新しい装備買いに行くじゃん?」
「ん?うん」
「回復効果を上昇させるような装飾品とかも買っていいかな?」
「あー、うん。それは全然構わないけど、私が怪我するのとか気にしすぎるのは無しな」
「そうは言ってもさ……」
「まあ、気にするなとか言ったところで気になるとは思うけど、冒険者になって冒険に出るってことは怪我は付き物じゃん」
「まあね」
「治してもらえるだけで有り難いからさ」
そう言ってもトリーはなかなか納得できないようだったが、マシュだってトリーの気持ちがわからないわけではない。
マシュだってトリーが怪我をするのは嫌だし、痛い思いなんかしてほしくはない。
かと言って冒険に出ることを止める選択肢はないのだから、飲み込むしかないのだ。
「んで、明日出発する?それとも明後日にする?」
「明日は準備と休息に専念したほうが良くない?ずっと動き続けてるから疲れも溜まってるし」
「確かに。じゃあ、明日はスカッと買い物しよ!」
トリーの気分を変えるべく明るく言って聞かせると、トリーも小さく頷いた。
翌朝、町娘の装いをして宿を出ようとしたところに何か訝しむような表情をした商業ギルドの職員が訪れる。
渡されたのはガナッシュの領主から送られてきた手紙と一冊の本だった。
一度部屋に戻って手紙に目を通すと路銀の追加金の受け取り方法とポルコネへ向かうことへの理解、ポルコネには領主が商う製菓店の支店があるのでポルコネにいる間の手紙のやり取りは彼らを介して行うこと、先日親族間で何やら秘密裏に情報の伝達などがあったこと、今後の連絡を取る方法についてはポルコネに到着してから話し合おうということ、そして急いで書庫から掘り起こしたのだという初代キャベッシュ王に纏わる手記を同梱したという旨が書かれていた。
まずは手紙に書かれていた通り、商業ギルドへ向かい手紙に同封されていた一枚のコインを受付に渡すとコインに書かれていた金額が手渡される。
商業ギルドは銀行のような役割も果たしているらしい。
領主の心遣いに感謝し、2人が向ったのは防具屋。
相変わらず気難しそうな店主が眉間にシワを寄せて椅子に腰掛けている。
「契約の石も追加で買っておいてもいいかもしれないよね。5体契約できるって言っても既に2体は契約してるわけだし」
「確かにポルコネに向かう道中で契約することもあるかもしれないもんね」
「予備で1つあればいいんじゃない?」
「装備選ぶ前に契約の石を先に選んで加工してもらってる間に装備選ぶ感じでオーケー?」
「だね~」
そう言って契約の石が置いてある棚に向かい、選んだのは琥珀色の石だ。
シロとイナリを石に戻してバングルを預け、2人は女性用の防具が陳列された棚に向かった。
チラチラと周囲に人がいないことを確認したマシュがトリーの耳元に顔を寄せる。
「ねえ、トリー」
「ん?」
「今朝の商業ギルドの人さ、なんか微妙な表情してなかった?」
「おん?んー、あんま覚えてないけど、そうだった?」
「やっぱ、こんな名もない冒険者が領主と個人的にやり取りしてるのって怪しいんじゃないか?」
「……もしかして領主様が言ってた親族間での情報の伝達って……そういうこと?」
「可能性あるよね」
「え~、流石にそれはどうにかしないと……」
「なんか他の手段考えた方がいいのかな」
神妙な面持ちで話す2人は手に防具を持っては棚に戻すという行動を繰り返している。
「それこそ鳥型の魔獣と契約して手紙運んでもらうとか出来ないのかな」
「あ~伝書鳩的な?」
「そうそう。伝書鳩のケースだと、帰巣本能とかで行き来させてるんだと思うけど、従魔の場合は会話ができるし難しくないんじゃない?」
「有りだな」
そう話しつつ各々が防具を手に取って体に当てては互いにチェックし合う。
トリーはショート丈のコートと膝丈のワンピース、それに厚手のタイツとショートブーツと装飾品に回復効果を上昇させるネックレスを選び、リボンがついた大きめの三角帽子は魔法攻撃力を上昇させる効果があるものを選んだ。
続いてマシュは色違いのショート丈のコートにショートパンツタイプのオールインワンを選び、追加で伸縮性のあるトレンカレギンスとショートブーツ、そこに薬品を入れる小さめのウエストポーチと魔法防御を上昇させる長めのバンダナを店主のもとに持っていく。
基本として上着は耐毒効果のあるもの、服は耐麻痺効果のあるもの、靴には疲労軽減効果のあるものを選んでいる。
同じコートになったのは耐毒効果が付与されている品がこのコートしかなかったからで、ワンピースとオールインワンも耐麻痺効果を持っているものの中から選んでいる。
耐性効果の付与されているものにした理由もわかりやすいもので、2人きりだからだ。
戦闘中にどちらかが動けない状態になってしまうと乗り切れる自信が無かったからに他ならない。
キャロメルからポルコネへの道程は森や山の中を通っていくことになるので虫型魔獣との遭遇は避けられないだろうし、虫型魔獣の多くは毒や麻痺といった追加効果を持つ攻撃が多いというのは広く知られた知識であり、マシュが猟の手伝いをする度にポター村の親父たちから口酸っぱく言い聞かされてきたからである。
できる限り肌の露出面積を減らしたのも毒草などに触れて怪我をしないようにと考えていたからだ。
とはいえ、好む色合いや装いの趣向の違いなどに適応した防具が揃っているのは有り難いことだと思う。
2人が防具を揃えた頃にはバングルも出来上がっていてそれを受け取り、次は武器屋へと向かう。
トリーは既にガナッシュで買った武器があるためマシュの武器装備を揃えるためだ。
講習で使ったのと同じ武器とウエストポーチのベルト部分に鞭を掛ける道具を購入し、2人は次の目的地である冒険者ギルドに向かう。




