22話 幼馴染2人はダンジョンに挑む5
ルーペを覗いては強い魔力がある方に進み、途中にあった小部屋で武器や魔法を扱う練習をしながら漸く6階の最奥の部屋に辿り着く。
部屋自体がかなり広く、壁や床から赤い色をした魔力石がいくつも飛び出しており自生しているようにも見える。
部屋の奥の方では、成体のフォクシーが3匹こちらの様子を窺っていた。
見た目はイナリを二回りほど大きく成長させ、ややほっそりとしたフォルムだ。
飛び起き方から察するに俊敏性は高いものの体力値は高くないタイプだろうと前世のオタク知識から理解する。
「教官、まずは自分たちだけで戦わせてもらえますか?」
シロを降ろしたマシュが臨戦態勢を取りながら言うとゼンが驚いたように一度目を見開いてから大きく笑った。
「はっはっはっ!その心意気や良し!やってみるんだ!」
その声の大きさに驚いたのはマシュとトリーだけではなく、イナリや警戒態勢に入っていたフォクシーもだった。
三本の尾をピンッと立たせ警戒を解いてはいないが頭を伏せて耳を折りたたんでいる。
マシュが「声だけで威圧するのマ~?」と呟いている横でトリーが手で両耳を塞いでは手を外す行為を繰り返し、若干の耳鳴りを直していた。
「トリー、行けそう?」
「うん。大丈夫」
「じゃあ、最初は私とイナリで追い込むから、それ目掛けて魔法撃ってほしい」
「りょ」
「イナリ、いくよ!」
『承知なのじゃ!』
マシュとイナリが駆け出し、縦横無尽に動きつつフォクシーを徐々に追い込んでいく。
イナリの繰り出した火の玉を避けた1匹がマシュの鞭が届く範囲内に入り孤立した個体を捕まえると同時にトリーが無数の小さな水球を浮かび上がらせる。
「イナリ!そっちの2匹の気を引いて!」
『任せるのじゃ』
「トリー、今だよ!」
「ウォーターバレット」
それは水鉄砲と呼んでいたものとは明らかに殺傷力が違う。
散弾した小さな水球は捕らえたフォクシーに向って放たれ、そのいくつかが命中すると鞭に捕らえられたフォクシーが藻掻いた後に動きを止めた。
「やった……」
「トリー!次ッ!」
「わ、わかった!」
鞭を解いたマシュは既にイナリが気を引いていた2匹に向っている。
一息つく暇もなく次の1匹を捕らえ同じ要領で倒そうとしたがマシュの視界の端でイナリが鳴き声を上げて蹴り飛ばされる姿が見えた。
右手に握った鞭を放せば捕らえているフォクシーを逃がすことになるし、トリーは距離が遠い上に魔法を使う態勢に入っていて援護を頼める状態ではない。
ゼンに頼めば助けて貰えるだろうが、今後のことを考えると助けを求めるべきではないと無意識に判断していた。
その間にもイナリを蹴り飛ばしたフォクシーはマシュに向って牙を剥き出しにして突っ込んできている。
ハッと左手を腰につけたショートソードにのばす。
「マシュ――」
「そのまま撃って!」
右手に持った鞭に魔力を注ぎながら足を踏ん張り、左手でショートソードを抜き取って飛び掛かってきたフォクシーを左手一本で受け止め、その姿を見たトリーは先程と同じ魔法を繰り出して捕らえていたフォクシーに止めを刺してマシュの方に駆け出した。
「マシュ!もういいよ!」
『主様!わっちに任せるのじゃ』
フォクシーの爪が左腕に食い込み口からくぐもった声を零したマシュがほぼ同時にかけられた声に反応して右手に握っていた鞭を放し、刃に噛み付いたまま離れないフォクシーをショートソードごと地面に叩きつけるとイナリが仰向けに倒れたフォクシーの喉元に噛み付いた。
「マシュ!こっちに下がって!」
皮膚と肉の裂けた場所からボタボタと血が滴り落ちる。
駆け寄ったトリーが裂傷箇所を手で覆い「ヒール」と唱えると傷が瞬く間に消え、マシュの額に浮かんでいた脂汗が引いていく。
その間にイナリの牙は自身よりも大きなフォクシーを押さえつけ絶命に追いやっている。
床に滴った鮮血が視界に入ったトリーが深く息を吸い、安堵したのか肺に入った空気をすべて吐き切るように深呼吸を繰り返す。
「マシュ、大丈夫?」
「ん。大丈夫。ありがとね」
「いや……うん。……魔法、同時に発動することができれば良かったんだけど。それか、せめて遠距離でもかけられる回復魔法があれば……」
「まあまあ、今の私らじゃ無理っしょ。致命傷じゃなくて良かったってことでここはひとつ」
そう言ってカラッと笑ったマシュの背後からゼンの声がかかる。
「マシュ、よく耐えたな。素晴らしい対応だった。それにトリーもよくやった。傷跡すら残っていないところを見ると回復魔法の精度が高いんだろう。腰を据えて休める時に改めて2人のスキルの確認をしてみてもいいかもしれないな。今の戦闘でわかったように2人は近距離戦に弱い。その弱点を補う行動や作戦が必要だ」
「はい」
「それはこの次の階から徐々に身に付けていこう」
「わかりました」
「さあ、あまり時間がないから素材の剥ぎ取り方法を教える。丁度3匹いるから手本を見ながら2人も同じように捌くんだ」
「了解です。ほら、トリー!やるよ!」
「うん……」
いくら鈍いトリーでも流石にマシュが強がっているのは理解できた。
いくら傷跡すら消えたと言っても全身から脂汗をかくほどの痛みがあった事実までは消えない。
ゼンが剥ぎ取りの手本を見せてくれている間も頭の中はマシュの負った怪我のことでいっぱいだった。
近距離のショートソードと中距離の鞭、それに従魔を使役して戦うマシュは魔法を使うトリーよりも前衛にいることが多い。
きっと今後も怪我を多く負うのはマシュなのだ。
不格好な剥ぎ取りを終えるだけの時間が経っても尚、どうにかしなきゃと頭の中で今使える回復魔法よりも一段階上の魔法を考え始め、ふと周囲にある魔力の異様な変化に気付く。
「なんか……ゾワゾワする?」
「え?そう?」
「トリーは魔力感知の才能があるのかもしれないな」
「魔力感知ですか?」
「あぁ、そうだ。ボスが倒されてから一定時間が経ったことでボスエリアにある魔力石がより活性化し、室内にいる人間や従魔を強制的に別の場所に放出しようとしているんだ」
「へぇ~放出……放出ッ!?」
「暴風が来るから従魔を契約の石に戻すか抱いておくんだ。さあ、身を低くして暴風に耐えろ」
「ちょちょちょっ!シロはトリーの鞄の中に入って!イナリはこっちおいで!」
急いでシロを鞄の中に詰め、イナリを抱きかかえると床に伏すように身を屈める。
けたたましい音と暴風に耐え、全てが止んでから顔を上げると魔力石が生えていない以外はボスエリアと何が違うのか全くわからない同じような部屋にいた。




