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15話 幼馴染2人は冒険者ギルドに行く

 朝になって2人は久しぶりに冒険者用の服に着替え、まずは手紙を出すため商業ギルドに向かった。

 ギルド内は清潔に整えられており、品も良く、冒険者ギルドにあった雑さのようなものは見当たらないし働いている者も冒険者ギルドに比べて堅さのようなものがある。

 いくつか並ぶ受付の一番端に手紙配達と書いてある立て看板を見つけ、その前に並んだ。


 「おはようございます。こちらでは書簡の配達を受け付けております。陸路と空路が選べますが、どちらにしますか?」

 「えっと~空路のほうが届くの早いんですか?」

 「はい。陸路は時間がかかる分料金がお安く、空路は早い分高くなっていますね」

 「ガナッシュまでなんですが空路だといくらなんですか?」

 「ガナッシュまでですと……1シルですね」

 「では、空路でお願いします」

 

 シロを腕に抱き手がふさがっているマシュの代わりにトリーが手紙を出す。

 宛名にガナッシュ子爵の名前があったことで不審に思ったのか受付のお姉さんの目が一瞬チラッと2人の顔を覗いた。

 確かに貴族と関わりがあるようには到底見えないだろうが、その行動は失礼じゃないだろうかとマシュの片眉がピクリと上がる。

 しかし、相手も仕事だ。

 追求などはなくスムーズに受付作業を終えて、次は冒険者ギルドに足を運んだ。

 久しぶりに訪れた冒険者ギルドは相変わらず多くの冒険者で溢れている。

 クエストボードに貼られた紙を剥がして受付に持っていく者、足早にクエストに出て行く者などが交差し、その間を抜けてまずは依頼終了書を受付に見せに行ってから初心者講習受付と書かれた看板の前に立った。


 「お、嬢ちゃんたちじゃねーか。よく来たな」

 「タクワさん!お久しぶりです!」

 「昨夜は祖父さんが世話になったそうじゃねーか。年寄りの長話に付き合わせちまってすまねぇな」

 「いいえ!とても有意義な時間でした」

 「そりゃあ良かった。んで、ここに居るってことは初心者講習を受けるのか?」

 「はい。そのつもりなんですけど……もしかして私たちくらいの年齢の子っていない感じです?」


 看板の付近に立っているのは、12歳前後の子供が多く2人は少し浮いた存在のようだ。


 「まぁな。キャロメルのガキ共は大体12歳になる前には一度初心者講習だけ受けに来るんだよ。最下層限定の講習は冒険者にならなくても受けられるからな」

 「最下層?ガナッシュとか他の場所では受けられないんですか?」

 「初心者講習ってのは人工的に造られた塔のダンジョンが使われるんだが、これを管理するのに大量の魔力石と特殊な技能を持った魔獣を使役する従魔士が必要になるんだ。他にも色々条件やら面倒な手続きってのがあってな。小せえギルドじゃ手が回らねえんだ」

 「なるほど」

 「嬢ちゃんたちみたいに他の場所から受けに来る奴もいるから別に大人が受けるのも珍しくはないな」

 「ちなみに人工ダンジョンと自然にできたダンジョンって何が違うんですか?」

 「その質問に答える前に聞きたいんだが、契約の石はどうした?防具屋には行ってないのか?」

 「あ……まだ行ってないです。石は小袋の中に入れてます」

 「人工ダンジョンで命を落とすことはないが、戦闘もトラップもあるから怪我はする。それに嬢ちゃんは既に冒険者登録も済ませてるし、ダンジョン内の魔獣と契約もできるんだ。小袋に入れてるより身に付けておいたほうがいいだろう。まずは防具屋に行って防具を作ってもらってる間に質問に答えてやるよ」

 「サブマスターさん直々にですか!?」

 「おう、そうだ。お得感あるだろ?」

 「なんか恐れ多い感ありますね」

 「マシュ、それ言ったらそもそも契約の説明とかするのにサブマスターさん呼んじゃってた時点で……」

 「それは本当にそう。その節は大変お世話になりました……」

 「いいってことよ。今回は別の用事もあるしな。んじゃ、受講申請だけ終わらせて防具屋に行くか」


 ギルドカードがあると書類を書く手間が省けると言われ受付のお兄さんに二人分のカードを提示しステータスを見せると、とある欄を見たお兄さんの目が見開かれ視線が勢いよくマシュに向けられる。


 「見なかったことにしてくれますか」


 不快そうにワントーン下がったマシュの声があまりに冷たい。

 畏まりましたとお兄さんが言う隣で同じものを見ていたタクワも思わず口を噤んだ。


 「では、初心者講習受講の申請を受け付けました。本日の講習は10時からと15時から開始のものがあります。どちらかを選択してください」

 「タクワさん、今から防具屋に行くとして10時からのって間に合いますか?」

 「作ってもらう物によるがギリギリすぎるな。15時開始のものがいいだろう」

 「では、15時開始の講習受講者名簿に記載しておきますね。もうひとつ、お二人は冒険者登録をされておりますのでクリア目標階層を選択できます。1階のみのコース、1階から6階までのコース、1階から10階までのコースがございますがどれに致しますか?」

 「それぞれの所要時間ってわかりますか?」

 「個人の能力によるところが大きいですが、内部は自然ダンジョンに比べて簡単な造りになっておりますが階層が上がるごとに難易度も上がっていきます。1階のみのコースは40分。6階までのコースは7時間。10階までのコースは22時間です」

 「22時間!?」

 「はい。こちらはダンジョン内での野営の仕方も講習内容に組み込まれております。飲食物やテント等は担当教官が用意しますので準備は必要ありませんよ」

 「なるほど……これ、絶対受けておいたほうがいいやつな気がするんだけどトリーはどう思う?」

 「いや、まじで受けておこう。いざその状況になったら絶対困ると思う」

 「10階までのコースでお願いします」

 「では、お一人5シルになります」


 銀貨10枚をシロに出してもらい支払いを終え、タクワに連れられて防具屋に入る。

 店内には店主夫妻と数人の冒険者がいた。


 「武器はギルド側で用意するが防具は自分で準備しなきゃならねぇ。自分に合うものを慎重に選ぶんだ。それと……おやっさん、この従魔士の嬢ちゃんが契約の石を加工して欲しいってよ」

 「おん?何に加工すんだ?」

 「え、えっと……あの、どんなものに加工できるんですか?」

 「従魔士の多くはバングルだったりペンダントや指輪、それかガントレットに付けることが多いな」

 

 厳格そうな見目をした親父さんはそう言っていくつかのサンプルをマシュの前に出した。

 バングルとガントレットは後々契約の石が増えたときに装着できる箇所があり多くの魔獣と契約することを念頭に入れている冒険者が選ぶという。

 ペンダントや指輪は馭者など少ない魔獣と契約する者が選ぶと説明があった。

 価格はペンダントが最も安価だが、ある程度強さというものを求めなければならないことを考えるとバングルかガントレットを選ぶのが妥当だろうと判断した。


 「トリー、どっちが似合うかな?」

 「え~どっちも似合うけど……ガントレット付けるのめんどくさくなりそうだし、普通に付けるの忘れそう」

 「めちゃくちゃ私の性格を熟知したアドバイスありがとうねッ!」

 「ふふん!まぁね!なんたってお互い忘れるからね!」


 ドヤ顔のトリーと図星を突かれたことを誤魔化そうとするマシュを見たタクワが不安そうにマシュの肩を叩いた。

 

 「嬢ちゃんたち、今回は教官がいるからいいが講習後は助けてくれる奴はいねぇからな?旅支度は念入りにするんだぞ?」

 「うっ……はい」

 「命に関わるからな?わかったか?」

 「はい」

 

 「で、バングルでいいのか?」と親父さんが話を進めろと言いたげに口を挟み、マシュが焦って「はい!バングルでお願いします」と勢いよく返した。

 

 「幅はどうする?女性は細身のバングルにすることが多いが……」

 「そこそこ幅欲しいです。5センチくらいの」

 「厚みは?」

 「1センチ前後で、厚みのある感じがいいです。あと指先が無いタイプのグローブが欲しいです」

 「それなら筋力強化の付加効果があるグローブがいいだろう。従魔士は鞭や蛇腹剣を武器として持つことが多いから握力も必要になるしな。グローブはそこの棚に並んでるから選ぶといい。そっちのお嬢さんは何かあるのか?」

 「白魔法士が身に付けておくと良いものってありますか?」

 「魔法強化と魔力操作速度の上昇だろうな。武器と防具で付加効果を揃えると効果が上昇する。だが、今から初心者講習を受けるならあまり上昇させない方がいいぞ。自分の力量を見誤ることになる」

 「なるほど……じゃあ、今持ってるやつだけで行こうかな……」

 「教官の助けがある間にある程度は知っておきたいもんね」

 「じゃあ、バングルとグローブだけでいいんだな?」

 「はい」

 「契約の石を預からなきゃいけないから、スライムを戻しておけ。完成は昼頃だ」

 「わかりました。支払いは先払いですか?」

 「いいや、商品を渡すときだ」

 「わかりました。じゃあ、シロ。少しの間契約の石のなかで待っててね」

 『はいッス!』


 契約の石が淡く光りシロがその中に吸い込まれて行く。


 「タクワさんも用事があるって言ってませんでした?」

 「あぁ、週末に備品の検査を頼む。いくつか傷んでるのがあるんだ」

 「わかった」

 「所員には話してあるから良きようにしてくれ」


 そう伝えて足早に店を出て行くタクワの背を追った。

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