14話 幼馴染2人はギルドに行くことを推奨される
マシュの視線は段々とヒートアップしながら初代キャベッシュ王の素晴らしさについて語るダインに向いている。
増えていく酒瓶を気にすること無く真剣にダインの話を聞いているように見えるがマシュの思考は別の部分に割かれている。
どこか既視感があるのだ。
黄色の髪に黄色の瞳、確実にどこかで見たことがある。
ふとシロが視界に入り思わず「あ」と声に出したことで2人とシロの視線がマシュに向いた。
「ごめん。ちょっとダインさんが誰かに似てるなって思って」
「ほう、儂に似た者と会ったことがあるのか」
「え、誰かいたっけ?」
「ほら、シロと契約したときに説明しに来てくれたタクワさん」
「……あー!確かに!」
「なんじゃ、タクワが言っておった契約前の魔獣に懐かれてた女の子というのはお嬢さんのことじゃったか」
「そういえばタクワさんって冒険者ギルドのサブマスターって言ってましたね」
「そうじゃな。あれは儂の孫でもあるのぉ」
「ギルドって親族経営みたいな感じが多いんですか?ガナッシュもそんな感じだった気がするんですけど」
「ポルコネのような大きな都市であれば血縁など関係なく相応しい者を選ぶシステムが確立されておるじゃろうが、キャロメルやガナッシュのような土地では親族で固めた方が関係者からの信頼を得やすいんじゃよ」
「あ~なるほどです」
そういった部分をすんなりと理解できるのは前世の記憶があるからだろう。
都市部に比べて前世の自分たちが住んでいた国も地域によっては親族経営が多く、コネクションで仕事を貰ってくるのが一般的だったし、何なら業種は違えど蓮と青葉の実家がそうだった。
経営形態に理解を示した2人に同じ疑問が浮かぶ。
それはタクワの両親の存在だ。
一般的に考えるならばサブマスターという地位にはタクワの両親のどちらかがいるはずなのだ。
一代飛ばして孫がその地位にいるということは既に他界している可能性も否めず、マシュは配慮すべきと判斷して別の話題に移そうと口を開き――
「タクワさんのご両親ってどうされてるんですか?」
そう、トリーはそういう子だ。
疑問に思ったことはどんなことでも素直に聞くし、嘘をつくのもつかれるのも嫌いな子だ。
相手に合わせることを苦手にしており、あまりに正直すぎて誤解を生むことも多く友人を作るのは苦手だった。
内向的ではあっても物怖じするタイプではないせいか、我が強く態度がでかいと思われがちだ。
この前世から全く変わらない明け透けな性格はトリーの美徳だとマシュは思っているし、だからこそ絶対的な信頼を置ける人物なのだとも思っている。
心の中で盛大に『おいっ!』とつっこんでいても、良い性格してんねぇとしか思っていないのもまた事実だ。
一方でマシュは本音を隠す癖がある。
愛想笑いも多ければ猫を被ることも多く、信頼できない人物に対しては平気で嘘もつく。
相手に合わせて自分を演じ、上っ面の友人という名の知人が多いタイプだ。
人の懐に入るのは上手いくせに自分のことは上手く嘘と少しの本音を混じえて隠すのだからたちが悪い。
ただ気を許した相手になると途端に精神的な弱さまで曝け出す性格でもあって、トリーいわくいじらしくて可愛い性格なのだとか。
似ているようで全く違う。そこを楽しめるというのが2人の共通点でもある。
「タクワの両親か?父親はギルドで初心者講習を受け持つ教官を務めておる。母親は実家のパン屋で働いとるのお」
ダインの言葉に表情は変えないままホッとした様子を見せるマシュにトリーは少しだけ首を傾げつつも冒険者ギルドの初心者講習というものに興味を示す。
「初心者講習ってなんですか?」
「ふむ。初心者講習とは魔獣と戦ったことのない冒険者に戦い方を教えるものじゃ。ダンジョンの入場許可の取り方、適切な武器や防具の身に付け方から戦闘、受講者の適正によっては初期魔法や従魔契約の方法もじゃな」
「それって誰でも受けられるんですか?」
「コースによるが、最も難しいものでも1人5シルで誰でも受講可能じゃ」
「マシュ!私達も受けたほうがいいんじゃないかな!?強くないとエルフさんに会えないなら強くならなきゃいけないよね?」
「ん?うん?……そ、そうね!そうだわ!強くならんきゃいけんね!」
「ところで強いとか優秀とかって、どこで判斷するんですか?冒険者ランクですか?」
「うむ。それは本人に聞かんとわからんのう」
「基準的なものは無いということですか?」
「そうじゃな。彼奴が認めるか認めないか次第じゃからなぁ。しかし、お嬢さん方が魔獣との戦闘に不安があるというなら初心者講習は受けて損はないじゃろう」
「確かにそうですね」
「うむ。20年程前、お嬢さん方と同じように従魔士と白魔法士という組み合わせの少年2人がこの地で冒険者となり旅立った。各地で仲間を増やし、今や彼らはキャベッシュ王国を代表する冒険者パーティーとなって各国で名を馳せておる。いずれお嬢さん方がこのキャロメルを出発地としたジェノとボロネ率いるSランクの冒険者パーティー『デスペラード』と肩を並べる冒険者となることを期待しておるよ」
「ありがとうございます。後日お世話になります」
深々と頭を下げた2人を見てダインは気分良さげに今夜の食事代にしては多すぎる銀貨を残して去っていく。
「流石にSランクは無理無理!期待しすぎだよね~……って、マシュ?どした?」
杖をつきながら去っていったダインを見送ってから振り向いたトリーの視界に表情を失ったマシュが入る。
いや、マシュをよく知らない人物が見れば笑顔で老人を見送っているように見えるだろう。
口角はしっかり上がっているし、赤紫の瞳は柔らかく細められている。
ただ、その瞳に温かさがないのだ。
「ジェノ……」
自分たちのことを好意的に受け入れてくれたからこそ出た名前だということはマシュも理解している。
期待されるのも悪くはないとも思っている。
ただ、期待に対する感謝よりもその人物に対する怒りと嫌悪が勝っただけだ。
胸元の内ポケットに入っているギルドカードにその名前が記載されたこと事態が不快だった。
いっそ名前が載らなければ生前の母がいくら恋しそうに待っていようと帰ってこれなかった理由もはっきりしたというのに。
テーブルの上に置いた手を無意識のうちに強く握りしめていた。
手の平に爪が深く食い込んで熱を帯び、いそいそと近寄ったシロがその手を冷やそうと身体で覆う。
「おいおいおいおい、どしたぁ?大丈夫かぁ?」
「いや……うん、大丈夫」
「いやいや、全然大丈夫って顔してないからね?」
「ちょっと……いや、かなりイラッとしただけ。まじで誰も悪くないのにホントすまん。シロもありがとうね。もう大丈夫だよ」
『無理しないでほしいッス』
「そうそう。まぁ、一旦話してみてよ?」
「……ジェノってさ、たぶん父親なんだよね」
「……なるほど。あー、うん。なるほどね」
マシュが父親の話を極端に嫌がる理由をトリーは知っていた。
いっそ死んでいて欲しいとまで思っていることも。
マシュは父親の顔を知らないし、きっとギルドカードを貰うまでは名前すら忘れていただろう。
電撃的な大恋愛の末に結婚してすぐに妻を置き去りにして旅立った男だ。
子供が出来ていたことすら知らないだろう。
生前の母は夫の帰りを心待ちにしていたし、夜毎明るく夫のことを語っていた。
それが空元気であることは子供のマシュにも理解できたと以前話していたのだ。
結局父親は母が亡くなった後も帰ってきていない。
他人の幸福や恋愛事情に関しては祝福できる寛容さを持ち合わせているが自身にその矛先が向くと不快感を隠しきれないほど愛というものに不信感を抱いているということをトリーは重々理解しているのだ。
「っしゃ、宿に帰るか。明日はギルドで初心者講習の受講したいし、早めに寝よ!」
「はぁぁぁぁぁ……そうだね。寝て忘れるわ!」
「それがいい!」
「あ、そういえばだけどさ」
「おん?なした?」
「めちゃくちゃ普通にタクワさんの両親のこと聞いてたけどさ」
「うん!」
「亡くなってる可能性あったの気づいてた?」
「……あ」
「もし亡くなってても乗り越えられるくらい年数経ってたらまだいいけど直近だったらどうするよ」
「お、おぉ……困る」
「気をつけような」
「はい」
支払いを終えて宿に到着する頃には、いつもと変わらないマシュに戻っていた。
湯に浸かりながら受講するのが楽しみだと話し、部屋に戻ってからは領主に手紙を書いた。
ドラゴンの呪いである可能性があること。
王都にいるキャプ公爵がドラゴンの呪いについて知っている可能性があること。
キャプ公爵は強者か優秀な者にしか会わないということ。
初心者講習を受けること。
返信が届き次第ポルコネに向かい他の手掛かりがないか探すこと。
ポルコネで見つからなければ冒険者として強さを求めながら王都に向かうことを書き、部屋の明かりを消した。




