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13話 幼馴染2人は謎の老人に絡まれる

 トリーが見つけたのは、まだこの国がキャベッシュ王国として建国するよりも前に起きた史実をもとにした伝記だった。

 著者はビュッフェンとオーガニクという2名の人物らしい。

 初代キャベッシュ王が建国前に出会ったとされる白銀のドラゴンとの友愛を描いた物語だ。

 かつて魔獣たちの頂点に立つドラゴンは人間と敵対関係にあり、魔獣たちを率いて人間と戦っていたと記されている。

 その作中にドラゴンの呪いによって徐々に氷化していく英傑の妻、後に初代キャベッシュ王妃となる人物の描写があった。

 詳細が描かれているわけではなく、あまりにサラッと記されていて原因などの肝心な部分は一切わからないが漸く見つけた糸口に胸を撫で下ろす。


 「この部分も史実に則って描かれてるんだとしたら本命っぽいよね」

 「原因と解呪方法も書いておけよとツッコミたいところではあるけどね」

 「それはそう。王妃様がどうやって治ったかは大事なところじゃないのかと……」

 「我々のような一般庶民には想像もできないような理由で書いちゃいけないって言われたか、何かあるのかもしれんけどね」

 「あー、ありそー。じゃあ、次はドラゴンで調べたらいいのかな」

 「そもドラゴンってまじでいるのかね?聞いたことないけど」

 「わからん」


 そう言って魔法具でドラゴンの表記がある本を探し始めたものの、あったのは子供向けの絵本や創作物ばかりで存在の有無については信憑性に欠けるものばかりだ。

 

 「これさ、わざわざドラゴンのこと探さなくても王様が知ってる説無い?」

 「その説有力すぎ」

 「領主様に知らせたらすぐに解決するのでは?」

 「でもな、トリーさんや。ひとつ懸念点があるんだが……」

 「おん?言ってみ?」

 「史実をもとにした初代王の伝記がなんで廃棄本リストに入ってるん?普通さ、もっと世に知れ渡ってても良くない?建国に纏わる話って義務教育レベルの話なんじゃないんかね?」

 「……それは、そう」

 「この図書館って国営よな?そこから初代王の伝記が廃棄されるって中々に中々の事態では?」

 「教えてくれない可能性出てきたな」

 

 キャベッシュが建国してから既に三千年近くが経っている。

 国が歴史教育を義務化していないなら国民の中で初代王の逸話が風化しているのは当たり前の話だ。

 さっき見つけた本の初版発行日が千年以上前であることを思うと、史実である割には軽視されているのだろうことがわかる。

 2人は考えた末に初代王について検索し、2冊の本に目を通した。

 マシュが手に取った本は初代王を尊敬しているのであろう者が書いた本。これは伝記に記載された出版商会と同じ国内で最も歴史ある商会名が載っている。

 トリーが手に取った本は初代王を軽視し侮辱した16代前の王の発言が記載された本。こちらは16代前の王が支援して設立した出版商会の名前が記載されている。

 どちらも発行年月日が同じというところから後ろ暗い何かが透けて見えて2人揃って苦笑した。

 

 「こっちは人ならざるものに与した愚王って書いてるわ」

 「こっちはドラゴンの友となり大陸に平穏をもたらした賢王って書いてあるね」

 「……まあ、なんか……ね」

 「まあ、ね。思うところはあるよね」

 「一旦そこは置いておくとして、人ならざるものがドラゴンだとしたら存在の信憑性はあるってことなのかな」

 「そう思っても良さそうよな。ただ、まじで王家に期待はできなさそう」

 「しかも、これ以上の情報の手掛かりもなさそうだし詰んでない?」

 「ポルコネなら何かあるんかなぁ」

 「探してみないことにはわからんけど……とりあえず、さっきの本を買わせてもらえないか交渉してみる?」

 「全部、仕事終わらせてからだな~。あの棚に乗ってるので全部終わるし」

 「じゃあ、普通に今日で仕事も終了か」

 「だね。終業の鐘が鳴ったら司書さんが来るだろうし、その時に本について館長さんと交渉できるか聞いてみようか」

 

 そう話し2人は猛スピードで本の整理を終わらせ、終業時刻を知らせに来た司書と相談の上で館長との交渉の時間を得る。

 始めに契約を終了したことへの労いの言葉と報酬、ギルドに提出する依頼終了書を貰い、続いて廃棄本の売買の交渉に移る。

 国営であることから売買は難しいのではないかと思っていたが存外そうでもないことを知り、少々呆気にとられた。

 本の管理は館長の采配によるらしく快く安価で売ってもらうことに成功すると館長と司書に友好的に送り出され、そのまま夕食をとるため酒場へと移動して今後の行動について相談しながらいくつかのメニューを頼む。

 今日のオススメの欄に載っていたコッコローというコッコよりひと回り大きな鳥型魔獣の肉を使ったステーキをマシュが切り分けては、さきほど買った本を熟読するトリーの皿に乗せていく。


 「なんかわかりそー?」

 「いや、全然」

 「とりあえずわかった範囲の話だけ報告するしかないかぁ……あ、グラタンいる?」

 

 無言で差し出された皿をみてマシュが「なるほどね?」と言いながら皿を受け取りグラタンとついでにナッツが多く使われたサラダも取り分ける。

 トリーが読んでいた本をシロに渡すのを確認してから2人で出来たてホカホカの食事をゆっくりと味わい始めた。

 雑談を交わす間も脳内は呪いに関することで埋め尽くされ、気もそぞろだ。

 そんな中、デザートに頼んだフルーツタルトを頬張っていると杖をついた黄色の髪の老父がシロの持つ本を見て声を掛けてきた。


 「お嬢さん方は初代キャベッシュ王に興味がおありかな?」

 「えっと……」

 「ふむ。王でなくばドラゴンかな?」

 「はい。そうですが……」

 「儂の名はダイン。その本の著者オーガニクを祖先に持つ者であり、キャロメルの冒険者ギルドではマスターを務めておる。本を読んでは難しい顔をしておったが儂がわかることであればお教えしよう」

 「ぜひお願いします!」


 身を乗り出したトリーが空いていた椅子を引いて、どうぞと腰を下ろすよう促すとダインは杖を立て掛けて椅子に座る。

 

 「ほうほう、元気の良いお嬢さん方じゃ。して、何を悩んでおったのかの?」

 「英傑の妻がかかったとされるドラゴンの呪いについてなんですけど……」

 

 トリーの言葉を誤魔化すように咳払いしたマシュが会話を引き継いだ。


 「この子は今回復魔法について勉強していてドラゴンの呪いに興味を持ったみたいなんですけど、そもそもドラゴンって実在するんですか?」

 「なるほどのぅ……ドラゴンはおる」


 断言したダインの強い言葉にトリーが身を乗り出し、逆にマシュは懐疑的な内心を取り繕った。

 

 「今も実在してるんですか!?」

 「見たことあるんですか?」

 「儂は、ない」


 スッと冷静になったトリーが椅子に座り直すのを見てマシュはフルーツタルトの最後の一欠片を口に入れる。

 

 「じゃが、西の国ルァーメンの冒険者ギルドでは度々ドラゴンと思しき影を見たという報告も上がっておる。ドラゴンについてはビュッフェンの孫なら何か知っているかもしれんのう」

 「……孫、ですか?」

 「うむ。ビュッフェンはエルフであり、千年という天寿を全うした者じゃ。エルフというのは気位が高く、ドラゴンについて詳しいであろうビュッフェンの孫はエルフの中でも気難しい性格じゃ」


 目的が初代キャベッシュ王ではなくドラゴンの方だったことを知って些か残念そうではあるが目尻の皺を深めながらエルフという存在に会える期待感に再び身を乗り出したトリーの疑問に答えてくれる。

 

 「……エルフですか?!あの、そのエルフさんにお話を聞くことは可能ですか?」

 「今も王都ロマーネにおるじゃろうが、今のお嬢さん方では会ってもらえんじゃろうな」

 「えっ、そうなんですか?」

 「うむ。彼奴は強者か優れたる者でなくては顔すら見せんことで有名なんじゃよ」

 「えぇ……どうしよう……」

 「エルフは里の外に出ることを厭う者が多いんじゃが、彼奴は変わり者でな。里の在り処もわからず、冒険者たちも見つけられておらん今では唯一人間が会える機会のあるエルフであることは間違いないんじゃ。ドラゴンに関して知りたいならば彼奴に聞く他ないじゃろうな」

 「そんなレアな存在がキャベッシュの王都にいるんですか?」

 「そうじゃ。彼奴の祖先は初代キャベッシュ王の最側近じゃった。そこから脈々と意志を継ぎ公爵の位を賜っておるはずじゃが……彼奴が現王陛下に黙って従っているかは微妙なところじゃのう」

 「現王陛下はお孫さんのお眼鏡に適ってないんですね……」

 「うむ。王太子がかなり切れ者と噂されておるから、そちらに期待している者も多いじゃろう」

 「なるほど……もし宜しければエルフさんのお名前を教えてもらえますか?」

 「デュバリーじゃ。王都ではキャプ公爵という方が知れ渡っておるじゃろうが」

 「ありがとうございます。それとドラゴンに関する文献って他には残ってないんですか?」

 「ないのう。この本が書かれた当時の王が初代キャベッシュ王に纏わる文献の多くを焼き、歴史から消そうとしたのじゃ。当時のキャベッシュ王は人間こそが万物の中で最も優れた生物であると豪語しておったそうじゃ。しかし、その思想は多くの反発を生みエルフやドワーフといった人語を操る種族から批難を受けた。当時の王が玉座に座した期間はあまりに短いものじゃったが多くの歴史を潰えさせるには十分な期間でもあったんじゃよ。何せ王座を継いだ王子もまた近しい思想を隠し持っていたというからのう」

 

 そう語るダインは代々受け継いできた古き王たちの話を真剣に耳を傾けるトリーに聞かせ始める。

 止まらない話にトリーが圧を感じ始めた一方で向かいの席に座るマシュは自分の記憶と戦っていた。

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