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11話 幼馴染2人は手紙を読む

 久しぶりにスッキリと目覚めた朝、未だ夢の中で起きる気配すら見せないマシュの身体を揺らすと「うぅっ」とくぐもった声が聞こえる。


「マシュ、大丈夫?」

「ねむい……」


 マシュの寝穢さはいつものことだが、今日はトリーも身体が重いと感じる。

 意識ばかりはスッキリとしているが連日の移動は確実に2人の身体にダメージを与えていたようだ。

 だからといって丸一日を休養にあてるわけにもいかないのでマシュの身体を大きく揺さぶった。


「マシュ~起きてよ~」

「起きるぅ……起きるよぉ……」


 マシュがのそのそと動き出したことを確認して出掛ける支度をしているとシロがいないことに気付く。


「ねぇ、シロは?」

「ん~?ここ~」


 大雑把に捲られた毛布の中からぶにょっと転がってきたシロはなすがままで反応はない。

 何度かトリーがつつくとプルルと身体を震わせただけで昨日のような賑やかな声は聞こえてこなかった。


「生きてるよね?」

「うん、寝てるだけ。リュックに入れて連れて行くから寝かせといて」

「りょ~」

「そうそう、図書館行く前に飴買いに行っていい?足しておかないとシロのご飯なくなっちゃうわ」

「本人が持てるなら大瓶で買っちゃったほうが楽かな?」

「そうだね、腐るもんでもないし。あと、今日じゃなくてもいいから近々冒険者ギルドに行きたいかな」

「あ~、依頼の受注とかの説明があるって言ってたっけ?」

「うん、図書館のデカさから考えると一日でお目当ての本に辿り着くわけないだろうし、そこそこの時間が必要になると思うんだよ。宿代とか食費の方は領主様がくれたお金で余裕で2ヶ月は大丈夫なんだけど雑費を考えるとね……」

「一番低いランクでも行ける依頼受けて小金稼ぎも必要になるかもしれないのか」

「シロがいるから可能になったことではあるんだけど流石に服も買いたくない?一着をずっと着るのは絶対傷むし」

「たしかにね。冒険者の格好で調べ物するのも変に目立っちゃいそうだし普段着る用の服を洗い替えを考慮して2・3着買っておきたいね」

「実はトリーが冒険者登録してる間にさら~っとクエストボードのとこ見てたんだけど、武器屋とか防具屋の在庫整理とか酒場のホールとかの日雇いみたいなのもあってさ。そういうのなら私らにもできるんじゃないかと思ったんだよね」

「最悪のケース考えると尚更か……キャロメルで見つからなかったらポルコネまで行って欲しいって言ってたもんね」

「そうなんだよね。できれば2週間前後でキャロメルでの情報収集は終えたいのが本音」

「ん~だとすると魔法に関する本を探す時間ないかなぁ?」

「それなんだけどさ、あって困るもんでもないし魔法本は支給されたお金使って買ってもいいんじゃない?服とかは出来る限り自分たちの稼いだお金で買いたいけどさ」

「いや、それなら今日で服とか滞在するのに必要な物の買い出しとかギルド関係を終わらせて、明日からは図書館に入り浸る感じがいいかも。んで、依頼受けたらそこから経費の方に補填していく感じかな?」

「あ~、何度も買い出し行くより楽か。じゃあ、今日は買い物してギルドだね」

 

 会話を繰り広げながら早々に支度を終えた2人は各々軽くなった鞄を持ち、マシュのリュックには未だ夢の中にいるシロを入れる。


「さて、行きますか」

「おっけ~ぃ」


 部屋を出てから女将さんに挨拶がてら連泊交渉をすると快諾の返事を貰うことができ、心置きなく買い物に出ることが出来た。

 明るい時間帯の町並みは昨夜の光景とは違い爽やかな印象を受ける。

 そこそこ早い時間ではあるが、人は多くそれぞれが目的の場所に向かって颯爽と歩いていく。

 若干の余裕がある人並みを抜けて早々にシロのご飯になる飴と糖分補給用の摘めるお菓子や服などを買う。

 迷いがなく即断即決の傾向がある2人の買い物はあまりに早かった。

 店が近いこともあったとはいえ昼前には終わっており、露店に売っていた野菜たっぷりのサンドを頬張りながら歩いて自然と辿り着いたのは図書館だ。


「あれ?ギルドに行くんじゃなかったっけ?」

「確かにそんなことも言ってたわ」

「今からギルド向かうのだりぃ〜。今日はもう図書館でいいっしょ」

「さんせー。依頼受ける時に行こうや」

 

 気分屋なところのある2人の外出は大半がスケジュール通りには進まない。

 それもいつもの事なので2人は気にすることなく図書館に足を踏み入れる。

 ガナッシュの領主邸よりは小さいがかなり立派なもので所狭しと詰まった本の総蔵書数を見てため息が出た。


「眼が痛くなったらヒールお願いするわ」

「任せとけ」


 ひとまず空いている日当たりの良い席を選んでどこから探すかを話し合っているとマシュの隣に置いたリュックがモゾモゾと動き出す。


「あ、おはようシロ」

『おはようッス……』

「まだ眠そうだね?寝ててもいいんだよ?」

『起きるッス〜』

「じゃあ、はい。朝ごはん」


 小瓶の方から飴を取り出しアーンと声に出して開いた口にそれを入れると満足そうにシロが膝に乗る。


『そういえば読むって言ってたッスよね』


 シロがそう言って身体から取り出したのは2通の手紙だ。


「あ、助かる。シロが寝てる時にどうやってインベントリ開いたらいいのか分からなくてさ」

『オイラが寝てる時はオイラに触れながらインベントリって言うと開けるッスよ〜。今やってみて欲しいッス』


 シロが言った通りの行動をし、インベントリと呟くとマシュの目の前に既視感のある画面が浮かび上がった。


「圧倒的に使いやすいアイテム画面……」


 正方形の中に収納されている物のアイコンが載り、縦4マス横7マスに並んでいる。

 取り出すにはアイテムを枠外にドロップし、そのマス目より多く収納していた場合は、マス目をスライドしていくと次のマス目が表れるというシステムだ。

 しかし、残念なことにトリーにはその画面が見えていないという。

 トリーからしてみればマシュが空を撫でるように手を動かしているだけで、珍妙な行動にしか見えない。


「今そこにインベントリが見えてるの?」

「うん……ある」

「マシュとシロしか取り出せないってことは、私は私で荷物持てるようにしないとダメだね」

「薬系は各自持つようにしようか」

 

 そう話して2人はまず手紙を読むことにした。

 領主からの手紙は雇えなかったことへの改めての謝罪と道中の無事を祈る内容が綴られており、それを丁寧に封筒に戻してからもう一通の可愛らしい封筒を開ける。

 ふわりと香る甘やかな優しい匂いは気持ちを落ち着かせる効果があるハーブのもの。

 

 「なんか甘い匂いする!」

 「女の子からの手紙感がすごい!」

 「気遣いすげぇ~」

 「んで、なんて書いてあるん?」

 「隣に座ったほうが読みやすいか」


 トリーが隣に座ってから手紙を開くと、シュッとしたトリーの癖字とも丸みのあるマシュの癖字とも違う洗練されたブルーベルの文字が並んでいる。

 手紙には奉公の約束を守れなかったことへの謝罪、父が治療の手がかりを探すという無理なお願いをしてしまったことへの謝罪などが記載されており、文末には『3年ぶりに2人の姿を見れて本当に嬉しかったわ。私は自分の運命を受け入れて残りの人生を穏やかに過ごすことにします。2人には私のことなど心配せず、自分の人生を歩んでほしいの。マシュとトリーに多くの幸せがあることを祈ります。』と書かれていた。

 

 2人の間に沈黙が流れる。

 ブルーベルは、諦めてしまっているのだ。

 ただ心配しないでと言われても心配は勝手にするもの。

 この手がかりを探す旅もブルーベルにとっては余計なお世話なのかもしれない。

 だからなんだというのか。

 2人の中に別の感情を持った同じ言葉が浮かぶ。


 「ブルーベルお嬢様に元気でいてもらわなきゃ幸せじゃないんだよ」


 トリーは悲しそうに、マシュは若干の怒りが混じった声音で一言一句違わず同じテンポで呟き席を立つと二手に分かれ目的のものを探し始めた。

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