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10話 マシュ、初めての契約

 きっとこの宝石のように輝く石が契約の石というやつなんだろう。


 「察してると思うが、これが契約の石だ。本当は自分の好きな色を選べるんだが、緊急だっつって呼び出されたから在庫に1番多くあったやつを持ってきたぜ」

 「めちゃくちゃ綺麗ですね!」

 「だろ?うちのギルドで働いてる従魔士の奴が見栄えするのを選べってうるさくてな。まあ、それでだ、この石で契約できる魔獣は5匹までだ。5匹以上の魔獣と契約したい場合は防具屋に行けば買えるからな。契約の石は防具に付けたり、ピアスや指輪なんかの装飾品にして身に着けることが多いな。何に取り付けるかは防具屋の人間と話し合え。武器に取り付けたい場合は武器屋に持っていきゃやってくれるぜ」

 「わかりました」

 「んで、契約の方法なんだが……今回は既に渡してるみてぇだが、魔獣が望む物を先に渡してから魔獣と一緒に石に触れて自分が付けたいと思った名前を声に出してやったらいい。そんで魔獣が名前を受け入れたら付けた名前が文字としてこの石の中に刻まれる。それで完了だ」

 「あの、質問なんですけど……さっきこのスライムくんが契約の石の中に入りたくないって言ってたんですが、これってどういうことなんですか?」

 「まず契約の石ってのは普段魔獣が住む家みたいなもんだ。そこから出すのに嬢ちゃんの魔力が必要になる。高ランクの魔獣であればあるほど呼び出すときの消費魔力がデカいから気をつけろよ。出した後は嬢ちゃんの魔力は関係ねえから、そこは安心していい」

 「はぁ~なるほどです。ってことは家に帰らず一緒に散歩してたいってことですね?」

 「そうだ。中にはこのスライムみてぇに石に戻るのを嫌がる魔獣もいるから、そこは話し合え」

 「了解です。ちなみに魔獣って町の中を連れ歩いても大丈夫なんですか?」

 「従魔士が登録している魔獣であれば大丈夫っちゃ大丈夫だが稀に従魔を盗もうとするバカもいるし、そこは自己判断だ。ただ、あまりデケェのと好戦的なのは出さねぇほうが賢明だろうな。常識の範疇でって感じだ。受けた依頼が魔獣の捕獲だった場合は専用の檻に入れていれば問題なく入れるぞ。あぁ、あと俺は見たこと無いんだが、かなり高ランクの魔獣になると勝手に従魔士の魔力を消費して出てこようとするやつもいるらしい」

 「なんて厄介な……」

 「確かになぁ!まあ、意欲的に冒険者ランクを上げようと思ってなさそうな嬢ちゃんには関係ねえ話かもしれねえけどな。ついでに言っておくが高ランクの魔獣は自分専用の石を用意してくれない従魔士とは契約しないらしいぞ」

 「おぉ……一軒家じゃないと許さないと……。あと、従魔が言うことを聞かなくなることってあるんですか?」

 「勿論ある。あまりに理不尽な扱いや虐待された従魔が主人を食い殺すなんてのはザラにな。特に飯を与えず餓えさせるのは最悪だな」

 「ご飯は、やっぱりそれぞれ違うんですか?」

 「おぉ、違うぞ。特定の物だけを食べる奴もいれば人間と同じものを食べるやつもいる。そこらへんは契約してから本人に聞くのが一番だな」


 人間も魔獣もそう変わらないらしい。これだけ感情が豊かなのだからそれも当然かとキラキラしたエフェクトが飛び出てそうなスライムを見つめる。

 その姿にどこか既視感があり記憶を探って1匹の犬を思い出した。

 蓮として生きていた頃に飼っていた愛犬のシロ。ちなみに色は薄茶の豆柴だ。

 何にでも全力だったシロと目の前にいるスライムの行動があまりに似通っていて名前を考えるまでもないなとスライムをひと撫でする。


 「契約しよっか」

 『はいッス!』


 かけた言葉に反応して石を持ち、マシュの前に持ってくる姿はボールで遊んでいるときのシロと全く同じだ。

 尻尾があれば千切れんばかりに振っているに違いない。

 スライムが持った石に触れ、一呼吸置いてその名前を呟く。


 「シロ」

 『はいッス!』


 シロが食い気味に名前を受け入れると石の輝きが増し、名前を表す文字が浮かび上がりシロと共に石の中に吸い込まれていった。

 小首をかしげて転がった石を手に取る。

 

 「え……あ、最初は魔獣も入っちゃうのか」

 「そうだ。石に触れたまま呼ぶと出てくるぞ」

 「おぉ~……シロ、おいで」


 そう呼びかけると魔力が吸われていく感覚に襲われ、水色の石が透明な光を帯び、シロが机の上に現れる。


 『姐さん!よろしくッス!』

 「うん。よろしくね!」

 「シロくん、トリーだよ!よろしくね!」

 『こちらこそッス、トリーさん!』

 

 簡単な挨拶を交わした後、次はギルドに登録するための行動に移る。

 台座のついた水晶玉に手を乗せると水晶玉がぼんやりと光り、徐々に温かくなる。

 2~3分でそれは終わり、問題なく必要なものが揃ったとタクワに言われた。


 「そっちの嬢ちゃんも登録したければ一緒にギルドに来い。魔法具をひとつしか持ってきてねぇから今はできねぇがギルドでやっても30分もせずにカードはできる」

 「あ、はい!わかりました」


 シロを抱えてタクワと長時間付き合ってくれた憲兵に頭を下げる。


 「無知なもので多大なご迷惑をお掛けしました。契約の石の代金はいつお支払いすれば宜しいでしょうか」

 「まあ、気にすんな。最初がキャロメルで嬢ちゃんらはラッキーだったな。融通の利かねえ憲兵もギルド所員も世の中には多いから、これからは気をつけろよ?」

 「はい」

 「契約の石の代金はあとで冒険者カードを取りに来る時に支払ってくれ。それじゃあ、俺は一足先に戻る」


 早々に立ち去っていくタクワに感謝しながら改めて憲兵に頭を下げると彼も気にするなと笑った。


 「いやぁ、珍しいものを見せてもらったよ。ついでに聞くが、キャロメルには何をしに来たんだ?」

 「えぇと……大きな図書館?資料館?があると聞いて。薬学の勉強がしたいな~と。1人だと心細いんで幼馴染のマシュについてきて貰ったらこんなことに」

 「はははっ、そりゃ大変だったな。でも、従魔との出会いがあったのは幸先がいいのかもしれないぞ?」

 「確かに!こんな機会でもなければ従魔士になんてならなかったかもだし」

 「そうだね!私もギルドに登録してみようかなぁ……」

 「それはいい。ギルドに登録しておけば魔獣を狩った時に採れる素材を店に売ることも可能だし、あって損はないぞ」

 「無い今までのほうが不便だったまであるね」

 「うん。あ、そういえばその図書館ってどこにありますか」

 「図書館は検問所を出て商店街を道なりに進むと噴水広場がある。そこから見える一番大きな建物がそうだ」

 「ありがとうございます!」

 「あぁ、でも先に宿をとったほうがいいかもしれないな。もうすぐ夕暮れだから図書館も閉館が近い」

 「それじゃあ、今日は一泊して明日の朝から図書館にしようか」

 「だね。先に宿とってからギルドにカードとりに行って、晩ごはんかな?」

 「そうね~」

 「ギルドは噴水広場の手前にある。看板があるからわかりやすいはずだ。庶民用の宿は噴水広場を左に進むと5軒ほどあるが、一番安いのは噴水広場から最も離れたプクレという宿だ。小さい宿だが女将さんが元Aランク冒険者で新人には特に優しい。食事処は宿の近くに沢山あるが、ヒードという酒場が一番安いし量も多い。ただ、酒場は荒くれ者も多いから気をつけたほうがいいぞ」

 「わかりました!ありがとうございます!」


 元気に返事をして2人はついにキャロメルに足を踏み入れる。

 見たことがないほど建ち並ぶ家屋、人の多さに気圧されて大きな道の端を歩き、まず目指したのは冒険者ギルド。

 そこではタクワから言伝を受けていた女性所員が丁寧に対応してくれたが、閉館時間が近かったことからダンジョンや依頼の受注に関する説明は後日になった。

 そこから向かったプクレという宿は憲兵の説明通り小さかったが豪快な女将さんが最後の一室を1人用から2人用にしてくれて無事に部屋を借りることができ、そのあと見たことのない建物が建ち並ぶ広い道を見回しながら歩いて入った酒場は確かに荒くれ者もいたものの強面の店主のおかげで安全な席に案内され料理を味わう余裕もあった。

 戻った宿で漸く腰を落ち着け領主とブルーベルからの手紙を読もうという話になったのだが、入浴を終えた2人は急激な眠気に襲われベッドに倒れ込むように眠りについた。

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