人々の見た星
「やあショーン君、探したぞ」
解明者の集団を見送り、到着した事後処理部隊に引き継ぎをした後、ショーンが今回の襲撃について整理した情報を報告しようとギルドへ帰還している最中、突然後ろから声をかける者がいた。
「貴方は……グランツ少尉じゃないですか」
ショーンが声に反応して振り返ると、見事な白髪と短く生やした顎髭を綺麗に整えた初老の男性、定期監視を行う人型兵器『ヒュージュコンテナー』の部隊を率いているエースパイロット、グランツ・ロミネロが立っていた。
「すまない、少し時間をいただけるかな?」
………………
ショーンとグランツは近くの喫茶店に入り、一番奥のテーブルに向かい合って座った。するとすぐさまウェイトレスが近づき注文受付用の端末を取り出す。
「トニックを一つ、ショーン君は何がいいかね?今日は私の奢りだ」
「ありがとうございます、ですが私はまだ仕事なので……コーヒーを一つ、ブラックで」
注文を復唱し、確認を終えてウェイトレスが下がる。それを確認してグランツが一呼吸おいて口を開いた。
「ふぅ……やはりこの店は落ち着くな、最近じゃどこもタッチパネル式になって趣がなくなってしまっている」
「便利なものが普及して何が不満なんです?技術面がままならなかったあの地獄の時代を、貴方は経験している筈ですが」
業務の最中に連れてこられたのもあってか、ショーンは不満げな様子を隠すそぶりも見せず淡々と返す。
「ははっ、その通りだな、俺のオルフェウスが毎日整備を受けられるようになったのもあの事変の後、ヤマト区域への監視と牽制の為にヒュージュコンテナー部隊を設立されて、予算を回して貰えるようになったからだしな」
「メディーバル区域、スカンディナビア区域、そしてヤマト区域……身の程知らずの野蛮人どもがいる限り、あなた方が食っていくのには困らないでしょうね」
「デゥザリオムにあれだけ打ちのめされてまだ征服を諦めない根性だけは見習いたいものだ、さて無駄話はここまでだ、本題に入ろう」
「そういえば私に何の御用ですか」
「単刀直入に聞く、君はササン街道での騒動をどこまで把握した?」
「どういうことです?何故メヴシダン区域のコロニー所属であるあなたがこの事を把握してるんです?」
グランツの口から出た思わぬ言葉に、ショーンが少し目を丸くするが、すぐに平静を装って質問をする。
「そのメヴシダンコロニーの連中が観測したんだよ、このソレンス区域に落下する、高純度のエーテルを放出しながら落下する物体をな」
「そんなことありえるんですか?流されモノは基本的に外世界からダンジョン内に瞬間転移されるもので、たとえ空中からの出現でも観測出来るものではないと言われているのに」
「お待たせしました、トニックとコーヒーになります」
ずっと平静で姿勢正しい"ギルド職員としての"体裁を守っていたショーンが動揺して前のめりになるが、そこでウェイトレスが注文した物を持ってきて会話が中断される。
それを見てグランツはショーンにコーヒー飲むのを促しながら自分もトニックに口をつけ、そして深く息を吐いてからショーンの問いに答える。
「だが、過去に観測された例はいくつかある、それに落下地点には巨大なクレーターが出来ていたらしいじゃないか、高高度からの落下ならダンジョン外から出現した可能性は十分ある」
「……ソレンスとメヴシダン間は500kmという地区二つ跨ぐ距離です、そこから見えるとなれば他の地区からも報告が上がってるのですか?」
「それら複数の報告を確認するために俺たち高機動特別監視部隊が派遣されたんだ、定期監視の関係でこの地区の出入りも容易な俺たちは適任だったわけだ」
「なるほど、ですが現在進展はありませんね、ギルド本部に報告されていることが、現在我々が把握している全てです」
「そうか……目撃者の一人でもいればよかったのだが……君が担当者だと聞いた時は、既に真相までの道筋を見つけていたと思っていたのだがね」
「買いかぶらないでください、俺は出来ることをやっているだけです」
「出来ることをやる……それが一番難しいんだ」そう言って、グランツがビンに入ったトニックを持って席を立つ。
「さて話は終わりだ、あまり悠長にはしてられなのでね、一応なるべく情報を集める必要があるので我々もしばらく滞在するから、何かあったら連絡してくれ」
「分かりました」
店を出るグランツの背中を見ながらショーンはコーヒーを一口啜り、一息ついて天井を見上げる。
「はぁ〜……個人的に調べなければならない事が山積みだ、これはどっちにしろ徹夜コースだな」