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混乱と本来の姿

二週間ぶりの投稿になってすみません……

「そ、キスだよ」


「な、なんでなんだよ!」


「そりゃお互いの情報を交換するためだよ、コマンダーの魔力とわたしの光素を交換して登録する必要があるんだ」


「だ、だからってキスは……」


「早くしろよお前らぁ!!いつまでわけわかんない話続けるつもりだよ!?」


「ヒィ!?ご、ごめんなさい!それで契約できるならさっさとやってしまおう、あの子すごい怖いし」


「でしょ!というわけで早速始めよう!」


「でも仮の契約だからね?」


「え?仮契約?まぁいいや、ウチのモットーは『まずはお試しください』だからね!」


ミビューはテキトーな感じで返答するとアトーナへと一歩踏み出す。


「じゃあいくよ……んんっ!!」


「すごい顔になってるよコマンダー?」


緊張で不自然なほど顔を絞って目を瞑りその時を待つその姿は非常に滑稽で、触れ合うほど近くでそれを見るミビューは顔を傾げてアトーナにそのことを指摘する。


「僕のことは気にしないで!早くやろう!」


「分かった!それじゃあ来て!コマンダー!」


今からキスをするとは思えないほど気合の入った、非常にムードの無い掛け声を言い合うと二人らそっと触れる程度の、いわゆるフレンチキスをする。


「え……いま何が起きてるの……?」


「僕に聞かれてもわかるわけないだろ、姉さん」


するとミビューの体が光輝き出し、大きな鈴のついた首輪が彼女の首に現れる。


「これが契約の力……これであいつをやっつけることができるよコマンダー!」


「え!?あの子は一体どこから現れたの!?」


「アトーナくんはずっとおかしな動きをしてたし、僕たちに見えてなかっただけかもしれない」


「……彼の言葉は本当だったのか……この世界はまだ俺たちに謎を与えようとしているんだな」


いきなり姿を現した謎の少女に周囲が困惑し、戦場の視線が彼女に注がれる。


「えーと、なんかみんなにも見えてるみたいだけど……これでいいの?」


「はい!じゃあ早速……こいつをとっちめてやろうよ!」


ミビューとアトーナが少年に向き合う。


「やっとかぁ、その気配の変わり様もあのくだらないやりとりのおかげなら待ってた甲斐があったよ」


「ミビュー、これ以上被害を出したくない、すぐに決められる?」


「おまかせを!端末からわたしの情報を開いてアビリティってボタンを押して!」


そう言われたアトーナが端末を取り出すと、いつのまにか項目にミビューの顔をデフォルメしたアイコンが追加されていた。


「い、いつの間に……」


状況に振り回されながらもアトーナがミビューのアイコンをタッチし情報を開くと、その中で主張の激しい点滅をしている【ability】のボタンをタッチする。


「え、え!?か、体が勝手に!?」


すると突然アトーナの体の自由が効かなくなり、意思とは無関係にポーズを決めて口上を叫んだ。


「蠱惑の大怪猫よ!その力解き放ち、小兵を蹂躙せし(あぎと)をもって喰らい尽くせ!【魅猫顕現】!!」


アトーナの口上に呼応するようにミビューの身体から紫色の炎が噴き出し彼女の全身を包む。


そしてそれが払われた時、彼女は幼さと妖艶さをもつ少女の姿ではなくなっていた。


「す、すごい……」


「どうじゃ?妾の本来の姿は」


その姿は……全長が6メートルはある巨大な三毛猫だった。


顔は獅子を思わせる力強いもので、首に巻かれた紅白のしめ縄はそれだけでアトーナの身長より大きく、四肢を覆う漆に金縁の小手や、金の刺繍が施された腰布などは豪華絢爛な装いとして彼女を煌びやかに着飾り、二つに分かれた尾の根元には人間の姿だった頃に付けていた鈴より大きなものが付いていてそれが常に心地よい音色を奏でている。


「う、う〜ん……」


「姉さん!?」


あまりの急展開に戦闘の疲れから限界に達していた精神が持たなくなったようで、ザハリナが気絶してしまう。


「ミビュー……?その姿どうしたの……?」


「これが妾の力を解放した姿……この姿の時は魅猫と呼ぶと良いぞ、安心せい、主と決めた人間を取って喰ったりはせん」


「おもしろいなぁ!お前は人に擬態したバケモノだったんだなぁ!」


「失敬な、これでも福を呼び込む神として祀られていたのじゃぞ?貴様の様な醜陋な獣と一緒にされては困る」


(神として祀られていた……?ガチャから出てきたりミビューって一体何者なんだ……?)


未だに正体のはっきりしないミビューにアトーナが一人首を傾げている間にも二人の怪物は向き合って互いに出方を伺っている。


「なんだよ、そんなナリになったのに来ないのか?」


「先に動くのは小物のやることじゃ、お前からかかってくるが良い」


「それなら……遠慮なくいくよ!」


少年が触手を素早く伸ばし魅猫との距離を詰める、しかしそれは当然のように避けられそのまま少年を巨大な爪が引き裂く。


「え!?もう終わり!?」


「そんなわけがないだろう主殿、この程度でくたばるような者ではない」


魅猫の読み通り、少年が真っ二つになったまま目だけを動かしてアトーナの方を見つめる。


「主殿に触れられると思うか!」


少年の触手の動きを読んでいた魅猫が素早い動きで先端を切り落とすと、そのまま触手を口で咥えて振り回し遠心力で少年をビルに叩きつける。


「なんで動きだ……あんなの、このコロニーでも上位者でしか対応できない挙動だ」


次元の違う戦いにショーンは眺めることしか出来ず、バリストも眠る姉を胸に抱きながら、呆気にとられるしかなかった。


「このまま一気にかたをつけてやるかのぉ!」


魅猫が体から再び紫色の炎を出すとそれが猫の形となり少年に襲い掛かる。


「おいおい、敵を叩くことしか頭にないのかこの畜生はぁ!」


魅猫が攻撃に夢中になったことを確認した少年がニタリと笑って目の前の大猫を煽る。


それと同時に切り落としたはずの触手が蠢き出し、急激に再生した触手が単独でアトーナに遅いかかった。


「!?そんな!主殿逃げろ!」


一瞬何が起きたのか理解できなかったアトーナだったが、迫り来る触手にハッとなり躱そうとするが、避けきれず吹っ飛ばされてしまう。


「主殿!!」


「よそ見してんね!」


完全に気を取られてしまっていた魅猫は目の前の少年の攻撃を避けきれず首を触手で絞められ、そのまま地面に叩きつけられるように吹っ飛んだ。


「おいおい、このままトドメまでいっちゃうぞぉ!?」


「ぐっ……しまった……」


「くそっ!もう十分だ!みんな逃げろ!」


衝撃を逃せず、攻撃をモロに受けてしまった魅猫を庇うようにショーンが割り込む。


「妾はまだ何も出来ていない!倒すことも!守ることも!このままおずおずと逃げるくらいならば腹を切るわ!」


「何者かは知らないがくだらないプライドは捨てろ!お前はさっさとガキを連れて逃げるんだ!」


「二人だけでお話しとは連れないなぁ、俺も混ぜてくれよ!」


危機を前に言い合いをする二人、そんな様を見た少年は触手を絡めて一本化すると、大きく振り上げ二人に叩きつけようとした。


「調子に乗るな!『浮巻』《ユシュバル》!」


ショーンが魔法を唱えると、触手が近くの建物に引きつけられてまるで接着でもしているかのようにくっつく、それで隙が出来たのを確認した魅猫がショーンのシャツの襟首を咥えてなるべく安全な方向へ放り投げ、そのまま少年に突進した。


「うぐっ!?おい何を!」


「お前は魔術の類が使えるのだろう!?それならば妾がこいつを相手をするから主殿を癒してやってくれ!」


「美しい自己犠牲の精神だねぇ!だけど……やっぱり読みが浅い!」


建物に張り付いた触手の先端が成長しさらに長さが延長される、そしてその鋭い先端が魅猫の背後から襲いかかる。


「これは避けられない!終わりだ!」


「くっ……!」


正面からの攻撃ならば受けきれると踏んでの突進だったが焦りから更なる隠しだまを予測できず背後からの攻撃に魅猫が敗北を覚悟する。


「『氷剣』《スタリミカ》!」


しかしどこからか魔法の詠唱と共に飛んできた氷柱が四つの触手に突き刺さり、その動きを凍らせる事で封じた。


「なにぃ!?」


「……!隙が出来たぞ!!」


無警戒の方向からの攻撃に不意をつかれた動揺を見逃さず、魅猫が観音開きの要領で少年を切り裂く。


身体の殆どを破壊するほどの攻撃と共に少年が吹っ飛ぶ。


「この氷柱が飛んできた方向……主殿!」


瓦礫を押し除けアトーナが出てくる、しかし足取りはどこか力無く、怪我をしたのか右腕を左腕で庇うように掴んでいた。


しかしその目はむしろ活力に溢れており、ボロボロになった上着を脱ぎ捨て上半身はインナーだけになっていた。


「ミビュー!僕が援護するから君があいつをやっつけてくれ!」


「まだ生きてたのか、おもしろいねぇ!でも消えろ!」


起き上がった少年はダメージを再生しきれてないのか身体に大きな穴が空いている状態で、その穴から覗ける中身は黒い闇だけが存在していた。


そしてその腹に開いた穴から触手を出して二人に攻撃を仕掛ける。


「主殿!さっきの術を!」


「よし!」


魅猫の合図でアトーナが杖を触手に向けたその時……


「え?きゃあ!?」


突如アトーナの脇の辺りからビリッ!という音が鳴り、その直後……なんとアトーナの胸の辺りが大きく膨らんだのだ。


「な!?」


「ええ!?アトーナくん!?」


「あ、主殿!?」


「んあ……?」


その場の全員がその光景に視線が固定される、敵の少年すら触手の攻撃をやめて状況を理解しようとしていた。

その瞬間、何かがその戦場に姿を現し少年に一瞬で近づき強烈な斬撃を放った。


「ぐあっ!?な、なんだぁ!?」


なんとか着地には成功しすぐさま自分を攻撃したものを確認しようと少年が視界を向けると、そこに立っていたのはアトーナに付き纏っていた少女プレシアだった。


「プ、プレシア……?」


先程までの勇敢な姿勢はどこにいったのかアトーナが胸を抑え、顔を赤らめながらプレシアを見る。


「おやおや〜?雑魚アトーナじゃん、こんなところで遊んでたら危ないよ〜?」


「なんで君がここにいるんだよ!ここは危険なんだよ!?早く逃げるんだ!」


「それ、あんたが言っちゃう?それにギルドからの通達を聞いて急いでダンジョンから帰還したのに逃げるわけないじゃん」


「ふーん、どうやらもう時間切れのようだな、面倒な連中に囲まれる前にさっさとおさらばさせてもらう」


そういうと追っ手が来ないようショーンの魔法によって建物に張り付いている触手をそのまま強引に引っ張って建物を雪崩のように崩壊させ、瓦礫と土煙で道を塞ぐとそのまま触手を切り離しプレシアたちから逃げ出す。


「逃すか!『雷槍』《ドラギミス》!」


ショーンがすかさず魔法で追撃するが切り落とした触手が盾となり取り逃してしまう。


「くっ!聞こえているか!?こちらギルド調査局員のショーン・マクだ!対象が居住地区へと逃走!中央からの進路は絶たれた!商業地区から迂回して追跡にあたれ!」


「了解したよショーンの旦那、後は俺たちに任せてアンタはそっちの世話をしてくれ」


ショーンがすぐさま通信で他の解明者に連絡をすると、それに対し軽快な喋り口調の男の反応が返ってくる。


「これで一旦はよし……プレシア、怪我人の手当てをするからちょっと手伝ってくれ」


「りょーかい」


「あとお前のところのアバズレはどこにいる?お前だけが来たのか?」


「ここにいるわよ、相変わらずツンツンしてわねー、ショーンちゃん?」


「アドマース……」


ショーンの問いかけに対しプレシアではなく、いきなり出てきた女性が代わって返答する、その姿を見たショーンの元々眉間に皺が寄った表情がさらに険しくなった。


「来てくれたんだな、それはそれとしてその呼び方はやめろ」


「いいじゃない可愛い呼び名で、それより何を手伝えばいいの?」


「アドマース、ちょっとこの子を治療してあげて」


「すみませんアドマースさん、姉さんの様子を見てもらってもいいですか?」


ショーンと与太話をするアドマースと呼ばれた女性のもとにプレシアがアトーナを、バリストがザハリナを連れてくる。


「はいはい、そーれ『エインユーラ』」


アドマースが呪文を唱えると二人の状態が文章となって空中に表示される。


「ふむふむ、ザハリナちゃんは急激なストレスで気絶したみたいね、安静にしておけば大丈夫だと思うけど念のため触診を……」


「いえ結構です、ありがとうございました」


怪しい手つきで迫るアドマースをバリストが突っぱねながら淡々とお礼をいう。


「冷たいなぁ、じゃあこっちの子は……というかすごい立派なものをお持ちねー、私ほどじゃないけど」


「あの、あんまり見ないでください……」


アトーナが乙女の仕草で胸を隠して恥ずかしがる、そこに魅猫がすごい剣幕で近づいてきた。


「どういうことだ主殿!お主は殿方ではなかったのか!?」


「うわなにこの猫!?」


「主って……どういうことよアトーナ」


「アトーナくん、君は男じゃなかったのか?それならそうと言ってくれればいいのに」


「おいお前ら、こういうことはデリケートなんだからもっと自重し……」


「みなさん静かにしてください!!ちゃんと説明しますから!!」


各々が自由に振る舞い、収拾のつかない状態となる中でアトーナが人一倍叫ぶ。


「僕の性別はギルドには特別区分のものとして登録しています、この区域のコロニーの人達は知らないかもしれませんが僕の種族はシュトラルです」


「シュトラル……そうかお前がそのコロニー唯一の特別区分の人間だったんだな」


「なんだ、ショーンは知ってたんじゃん」


「いや、俺もそこまで興味はなかったからな……誰かまでは知らなかった、そうかお前が……」


「まあそれはどうでもいいけど、そのシュトラルってどんな種族なの?」


自分から問いかけておきながら、適当なレスポンスで返すアドマースの態度にショーンが僅かに震える。


「ええっと……僕たちシュトラルはお互いがお互いをその……する生き物でその……」


「はっきり言ってくれぬか主殿、あまり隠し事はしてほしくないのでな」


「僕は……男でもあり女でもある両性の種族なんです!繁殖も互いが孕ませあって妊娠する種族なんです!!」


「はい、よくできました♪」


アトーナの絶叫に近い説明に皆が沈黙する中、プレシアだけがニヤつきながら顔を赤くした彼とも彼女ともつかないか弱い少年の頭を撫でた。

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