襲撃の少年、助太刀の職員、乱入の猫娘
「うわ!今度はなんだよ!?」
「なんだが外が騒がしいねー、ここって戦闘とか日常的に起きる世界なの?」
「戦うのは珍しくないけど、こんな街の中が騒がしいのは初めてだよ!何が起きているのか確認しないと!」
アトーナはその言葉と共にベッドから飛び出し、勢いよく扉を開けると外に飛び出した。
「あっ、ちょっと待って!」
外に出たアトーナの目に飛び込んだのは倒壊する建物、それに怪我をしたシヴィリアンとそれを救出する手傷を負った解明者たちの姿だった。
「何があったんですか!」
「ん?逃げ遅れたシヴィリアンか!?ここは危険だ!すぐに引き返せ!」
「僕も解明者です!それより何が起きたんですか!?」
「シヴィリアンだと?こんな子供が……?まあなんでもいい、どうやら襲撃者が街で破壊行為を行っているらしく今中心地では戦える者が鎮圧している、君を向かってくれ」
「分かりました!」
そう言うと早速街の中心部に駆け出す。
「待ってよ〜こまんだぁ〜……」
ふらふらになりながらその後をミビューが追いかける。
「な、なんだこれ……」
アトーナが戦闘が行われている場所に到着して真っ先に目についたのは瓦礫の山の上に立つ不気味な少年だった。
崩壊しあちこちで火の手が上がる街をバックに悠然と立つその少年は、袖のない革ジャンにジーンズという出立ちにアクセサリーとしてチェーンを至る所にあしらったいわゆるパンクスタイルで、その肌は人肌ではありえないほど白く、剥き出しの肩は球体関節のようになっていた。
一言で言うならば、その少年は『人形』だった。
だがその両腕は砕けており、中から触手が飛び出しコロニーガードと思しき犠牲者に巻き付けていた。
(こいつ……!人間じゃない!)
「あなたは!どうしてここにいるの!?」
「え?……あ!あなた方はトーガス姉弟!来ていたんですね!」
不意に声をかけられてアトーナがそちらを向くと見覚えの顔があった。ザハリナ・トーガスとバリスト・トーガスの姉弟だった。
「そりゃ俺たちはこのコロニーじゃそこそこの実力者だからな、でもグロブスタ狩りの後にこれはちょっと堪えるな」
「今更言っても仕方ないでしょう、というわけでえーと……そういえば名前を聞いていませんでしたね」
「アトーナです!それより前を向いてください!」
「失礼したわ、ではアトーナさん!わたくしたちの援護をお願いします!」
ザハリナのその言葉共に三人が構える。
「作戦会議は終わったかい?全く、僕たちみたいな未知の種族だったら危険物だらけのこのコロニーでも無双できちゃうんだもんなぁ〜、こんなに楽々とかミルビの計画も杞憂で終わっちまったよ」
少年が長ったらしい独り言を呟くと触手で締め上げていたコロニーガードを放り投げる。
「楽しませてくれよ?ソレンス区域の怪物ども」
「こいつ……!この区域がどういう場所が知ってて襲ってきたのか!」
「ある程度情報を得てからの襲撃……しかしそうだとしてもここまで一方的にやられるなんてありえません!バリスト!」
「はい!姉さん!」
「あなたはアトーナさんを守って!ここは援軍が来るまでの時間稼ぎに徹します!」
そういうとザハリナはジリジリと少年の横へと回り込む、その張り詰めた空気は少年が少しでも動けばたちまち二人の斬撃が襲いかかることをアトーナに悟らせた。
「やっぱり大したことないな、未知の相手にはしっかり警戒しなきゃあ!」
その言葉と共にザハリナの足元が崩れ、2本の触手が飛び出してきた。
(!?そんな……!なんの気配もなかったはず……!)
「姉さん!!」
バリストが飛び出すが触手の素早い動きにザハリナがあっさり拘束され宙に持ち上がる。
「ざんね〜ん、一瞬で雑巾絞りだ」
「『烈扇風』《ゼリル・エインエル》!!」
少年の触手がザハリナを締め上げようとしたその時、どこからか無数の風の刃が現れ少年を触手ごと細切れに切り裂き、ダルマになった少年と触手から解放されたザハリナが同時に地面に落下した。
「あら?」
「ガハッ!!」
「姉さん!」
少年が素っ頓狂な声を上げて瓦礫の中に落ちる、一方地面に落下したザハリナは強かに背中を打ち、すぐさまバリストが駆け寄る。
「全く、なんだこのクソガキは」
風の刃が飛んで来た方を見ると、そこにいたのはあのアトーナを尋問したギルド職員の男だった。
「ショーンさん!なんでここに!」
「ちょっとそこの小心者と大事なお話があってな、もうシヴィリアンの避難は完了した、あとはこいつにお仕置きするだけだ」
バリストが驚愕の声にショーンと呼ばれた男はアトーナを見ながら答える、そしてネクタイを緩めるとタクトタイプの杖を持ち直し少年に向けた。
「ショーン・マドガニア、この区域では一番のウィザードで本来の特殊能力と二刀流で使いこなす実力者……それにしては期待はずれだな」
あれだけ切り刻まれていたにも関わらず、少年の身体は再生しきっており、何事もなかったかのようにショーンを小馬鹿にしたような笑みを浮かべて見つめていた。
「そうか、じゃあもう手加減する必要はないなぁ!」
ショーンの杖が灼熱の炎を纏う、これから激闘が始まることがアトーナにも分かりすぐに逃げ出す準備を始めたその時、
「ちょっと待ったー!!」
何かが高く飛び上がったかと思うと制止する声と共に二人の間に降り立つ。
「あん?誰だお前?」
「ん?急に何を言ってるんだクソガキ」
「あ!ミビュー!」
二人の間に割り込んできたのはアトーナの謎のアプリから出て来た猫娘ミビューだった。
謎の乱入者に少年は疑問符を浮かべ、ショーンはそんな少年の態度に威を削がれ、アトーナは空気を読まずミビューの元へ駆け寄った。
「あなたを倒すのはこのわたしとコマンダーなんだから!覚悟してよね!」
「なんだお前?面白えな、やってみろよ」
「ミビュー!駄目だろ邪魔しちゃ!」
「コマンダー!今こそ契約を!こんな奴やっつけてしまおうよ!」
「あいつ……本当に何か見えてるのか、それとも朦朧しているだけなのか……?」
「姉さん、あの子は何をしているんだろう?」
「わたくしが知るはずないでしょ」
緊迫した状況の中でアトーナはミビューと気の抜ける会話を続ける、その様子はショーンやトーガス姉弟からは何もない空間に話しかける変人にしか見えていなかった。
「さっさとやれよその契約って奴を!待っててやるからさぁ!」
「コマンダー!相手もこう言ってますしさっさと契約しよう!」
「え?うーん……なんかもうそういう流れだしやらないといけないっぽいし、どうやって契約するの?」
「そういえば言ってなかったね、契約は簡単接吻……つまりキスすればいいんだよ!」
「は、はぁ!?キ、キスゥ!?」
アトーナの初心な叫びが戦場にこだまする。