追求〜圧力を添えて〜
「失礼するぞ、君は解明者のアトーナ・ベリニエルだな、ギルド調査局から来たショーン・マクだ、少し時間をもらう」
アトーナの言葉を遮るようにドアがノックされ、ギルド職員の制服を着た男が入ってくる。
「う……ギルドの方ですよね、話は聞いています」
「どうした?随分と険しい表情をしているがまだどこか痛むのか?」
またもや会話を遮られたアトーナの表情は何も知らない人にも伝わるほど曇っていた。
「いえ、なんでもありません……それよりササン街道の件ですよね?」
眉間に寄せた皺を見ながら心配するギルド職員に対してはぐらかそうとアトーナが本題を切り出す。
「おお、そうだったな。アトーナ君、君は気絶する前にササン街道の様子がおかしいと脱出直後にコロニーガードに報告した……間違いないな?」
「はい」
「それですぐさま我々は区域内の解明者に状況の確認を依頼し、報告を聞いた解明者たちは大挙して押し寄せポータル付近で巨大な群れを作っていたエンレミクスを駆逐した」
「でしょうね……グロブスタの群れとか良い稼ぎになりますから」
「最近はあのエリアを調査する人間も少なかったのもあってか内部でグロブスタや野生生物が大量発生していたようでな、我々のギルドはエンレミクス以外にも数種類のグロブスタや野生生物が大量に持ち込まれて大忙しだったよ」
「それは災難でしたね……」
「でだ、それはそれとして我々が君に聞きたいのはあの大規模な崩落とその中心地にある何かの落下物によるクレーターについてだ」
(来た……!)アトーナが生唾を飲み込む。
「魔法による崩落も考えられたが君はスペルマスターだからな、君たちの使う魔法ではあれほどの威力を出せない、だからといって君以外にあの近辺に魔法が使える存在は記録を辿ったり、調査を行っても確認できなかっためその線は消えたんだ」
ギルド職員が言っていることは正しかった、攻撃に使える魔法を専門に扱うウィザードとは違いスペルマスターは様々な種類の魔法が使える代わりに性能に関しては劣化を免れない。
もし仮に崩落を起こせるような魔法が使えてもあそこまでの被害は出せないためギルドはアトーナが原因とは考えなかったのだ。
「それにそもそもあの衝撃の地点は不可解なことばかりだった」
「不可解……?」
「ああ、俺も化学者じゃないから良くは分からないが普通あれほどの衝撃を発する物が落ちれば摩擦熱なんかで周囲は高温に晒されて痕跡が残るそうだ、だが落下の中心地はおろか周囲にすら熱による変質が起きていなかった、この世界の物理法則は特殊とはいえ……これはどう見ても普通じゃない」
それを聞いてアトーナがあの七色の物体を拾った時、全く熱くなかったことを思い出す。
「つまり、あの時なにが起こって何が地面に衝突したのかを一番近くにいたであろう君に説明してもらわければならない、あの時の状況を詳しく説明してくれ」
そういってギルド職員はホログラムパネルを出現させるとタッチペンを取り出して事情聴取の姿勢に入った。
「分かりました」
秘密にしていても何も利がないと判断したアトーナはその時の状況を詳しく説明しはじめる。
エンレミクスの群れに遭遇したこと、離れようとして落下の衝撃に巻き込まれたこと、崩落の原因が七色の物体だったこと、その騒動でエンレミクスの群れに襲われ逃げるために家屋を崩したこと全てを話した。
だが一つだけ嘘をついた、七色の物体は回収せずに慌ててその場から離れたためその物体のことはそれ以上知らないと……
「ふむ……つまり全ての原因である七色の物体は回収し忘れてしまって分からないと」
「はい、そうです」
「アトーナくん、君は嘘をついてるな」
「ふぇ!?そ、そ、そ、そんなことないです!」
アトーナの返事に間髪入れずにギルド職員が指摘をし、それを聞いたアトーナが大きく動揺する。
「君は本当に正直ものだな、七色の物体を取り逃がしたと言った時も今の瞬間も君は目が泳ぎ言葉を発するのに遅れが生じていた」
「うぐっ!?うぅ〜……」
「まあ悪いことじゃないが……なぜ嘘をついた、その物体はどこにある」
急にギルド職員の声色が変わる、先程の隙のある雰囲気から一転、低い威嚇するような喋り方だった。
「ひっ……!その物体はポケットにしまってポータルをくぐったはずなんですけど無くしてしまって……無くしたって言ったら怒られると思って黙ってたんです!ごめんなさい!」
ギルド職員の圧に負けてしまったアトーナは今度こそ正直に話し弁明する。
「ふーむ、それでは次の質問に答えてくれ、ポータルを脱出してからおかしな事はなかったか?」
「ふぇ!?ええっとぉ……」
「あるんだな?」
「はいぃ!なぜか端末にガチャとかいうアプリ?というのが追加されてたんです!」
「何?見せてみろ」
アトーナはギルド職員に猛烈な勢いで端末を渡す、それを手慣れた手つきで職員が操作するが徐々に彼の顔に困惑の色が出始めた。
「ん?そんなおかしなアプリは入ってないぞ?」
「そ、そんな!?確かにガチャを回してこのミビューって子が出てきたんです!」
「……大丈夫か?そんなのどこにもいないぞ?」
アトーナがミビューを指差すがギルド職員には見えていないようで困惑した表情で心配する。
「そんな!だってここに……」
「落ち着け、とりあえず聞きたいことは全部聞いた、だがお前が耄碌している可能性がある、とりあえずこの件はギルドに報告しておくからお前はしっかり休んでいろ、では失礼した」
そういうとギルド職員はアトーナの端末を持ったまま扉を開けて出て行った。
「あ〜なんでこんな目に……というかなんで他の人には見えないの?」
「それは多分コマンダーが『契約』を済ませてないからじゃないかなー?、さっきのお姉さんが見えてなかったのも合点がいくし」
「え?どういうこと……?」
「ええっとね、実は『契約』っていうのをしてコマンダーのクオリアと繋がることで、わたしたちは現界し能力を発揮できるようになるんだ、逆にそれをしないとわたしたちは何もできないの」
「『契約』……?なんかやばそうだな……」
アトーナはこのアプリから薄々感じていた「恐ろしさ」を『契約』という単語でさらに強く感じ不安に駆られる。
「でも契約しないとわたしはコマンダーを守れないよ?だから契約だけでもしようよ!」
「やるかやらないかは別として、その契約ってどうやるの?」
「それは……」
その時、窓の外から凄まじい爆発音と共に人々の悲鳴が鳴り響いた。