進まぬ状況
「えーと……君は誰なのかな……?どこから出てきたの?」
なんとか冷静さを取り戻したアトーナがミビューと名乗る猫少女を指差しながら何者なのか問いかける、声と指先が微かに震えているが猫少女は全く気にせずアトーナに一歩近づき顔を覗き込む。
「ん〜?わたしは君を助けるために出てきたお助けキャラだよ!というか君は助けが欲しくてわたしを呼んだんでしょ?なにを不思議がってるの?」
ミビューはアトーナに近づき身を少しだけ屈めながら出てきたことが当然のことのように言う。
「あの〜その〜……ごめんなさい!実は良く分かってないんです……この端末に不思議な機能が追加されてたから押してしまっただけで……」
そんな彼女にアトーナは自分が端末を弄っていたら謎のアイコンが存在していたので、触ったところ意図せず召喚してしまったと事情を説明する。
「ふーん、ま!そんな不安な顔をしなくても大丈夫!わたしが知ってることを教えてあげる!まずは……」
「アトーナくん!!」
ミビューが説明を始めようとした時、個室のドアが勢いよく開いてセリナが部屋に飛び込んでアトーナを抱きしめた。
「うぇむ!?」
胸に顔が埋まりアトーナがくぐもった悲鳴をあげる、そんな様子を混乱した様子でミビューが眺めており、よくわからない状況はさらに混沌を極めた。
「大丈夫だった!?怖かったでしょう!?もう大丈夫だから!」
「ち、ちょっと!離れてください!」
アトーナが必死になってセリナを引き剥がすと、大人気もなく彼女は涙目になっていた。
「一体どうしたんですか!?まだ業務時間では!?それになんで涙目なんです!?」
「だってぇ……アトーナくんが倒れたって聞いて心配で……」
「僕はなんともありません、ちょっとトラブルがあって疲れから倒れただけですよ」
「ホントに?君に何かあったら私……」
「セリナさん、本当にどうしちゃったんですか、僕のことは心配いりませんって、ホラこの通り」
そう言うと自身の腕を動かして元気アピールをする。
「あまり取り乱さないでください、今からこっちにギルド職員の人が来るんですよ?セリナさんもここにいたらまずいんじゃないですか?」
「うぇ、そうなの……?業務すっぽかして来たから見つかると怒られちゃう……」
「やっぱり、それなら早く戻った方がいいですよ、後から必ず顔を出しますから」
アトーナが半ば強引にセリナを退出させる、出る時に名残惜しそうな表情をしていたが、それでもお構いなしに廊下に押し出して扉を閉めた。
「はぁ〜……びっくりした……」
「嵐のような人だったね〜」
セリナの勢いに目が点になって静観していたミビューが無の表情のままやっとのことで声を出した。
「セリナさんの様子も気になるけど……とりあえずは君のことだね、とりあえず僕が一番疑問に思ってるこの端末の機能について聞きたいな」
「あ、それのこと?それは『summon pieses』っていうアプリでわかりやすくいうと【ガチャ】だね」
「が、がちゃ?あぷり?なんのこと?」
求めた説明の中に元の世界では聞いたこともない単語が出てきたためにアトーナの頭の中はさらに混乱する。
「あれ?ガチャじゃ分からないのか……うーん、平たくいうとランダムに物が手に入るシステムのことだよ、それがその端末にシステムの一部として備わったんだよ、アプリっていうのは難しいこと考えず端末に追加できる機能だと思っておけば大丈夫」
文明の違いからなにも分からないアトーナに、なるべくわかりやすくミビューが説明する。
「ランダムで手に入る……なんでそんなシステムが僕の端末に?」
「それは……実はわたしにも良く分からないんだ。でもそのアプリが持つ機能は説明できるよ!これは起動するとアプリに記録されている人物の情報をランダムに読み込んで君の『駒』として創造することができるんだ!」
アトーナの質問には答えられなかったミビューがパンッ!と手を叩き、話題を戻すように説明を始めた。
「駒……?君もその創造された駒なの?」
「そうだよー、アプリを起動したらまたガチャが回せるはずだよ」
その言葉を聞いてアトーナが端末を開きアプリを開く、確かに[ガチャ回す]と表示されていたがその下には先程まで書かれていなかった文が表示されていた。
「一回1000000SFc……え、もしかしてお金取るの……?というか一回100万もするの!?」
このコロニーで生活するシヴィリアン(一般住人)の月の平均収入は2000SFcほどで、エンゲル係数が60%のこのコロニーでは、普通に労働していても到底届かない数字だった。
解明者としてダンジョンに潜っているとはいえ、やる事が採取とダンジョンの状況報告のアトーナでは収入は一般人と大差なく、とてもじゃないが払える金額ではなかった。
「こんなのポンポン払える金額じゃない……とりあえずこれを試すのは後にして君の事が知りたいな」
「え?わたしのこと?」
「そうだよ、君はさっきから自分のことなにも言ってないじゃないか、だから……」
その時、今度はドアをノックする音が個室に響いた。