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夢想の闇と召喚の光

…………


まどろみの中、アトーナは元の世界での最後の瞬間を夢として思い出していた。


火が完全に回ってしまう中、少女の手を引いて必死に屋敷を駆け回り出口を探していたあの時の自分を……


どれだけ走っても逃げ道が見つからず、最後に辿り着いたのは大きなホールだった。


「アトーナ……」


後ろの少女が自分のシャツの裾を握り不安な面持ちで見つめる。


「大丈夫だよ……必ず助かる」


震える手で少女の頭を撫で優しく励ます、それはどこか自分自身に言い聞かせるようでもあった。


「きっとここからなら外に出られる、ここに魔法薬の効果は届いてないはずだから」


そう言って庭園へと通じる扉へと走って飛びつくとノブに手をかける、だが鍵が掛かってる様子もないのに押しても引いても扉は開かない。


「そんな!ここにまでまじないの影響があるなんて!?」


扉に体当たりをするがアトーナの小さく軽い体ではびくともしない。


「どうすればいいんだ……」


アトーナの中に絶望が広がっていく……その時、


「おーい!こっちだよー!」


どこからか大声で呼ぶ声が響き、二人が見回すとちょうど天窓から女性が覗き込んで中に入ってくるのが見えた。


窓から飛び降りた女性をすかさず彼女の周囲を飛んでいた筒状の魔道具が受け止め、女性はそれを操りながら降りてくる。


「あなたは……アルドヴィダ様!」


「大丈夫!?今そっちに行くから!」


助かった……!そんな言葉が聞こえそうなほど二人の顔に希望が満ちる。


しかしその時、炎によって壁が崩落し柱の一つがアトーナの位置に倒れてきた。


「……!!危ない!」


油断から反応に遅れたアトーナを少女が突き飛ばす、床を転がり一瞬状況が理解出来なかったアトーナだがすぐに起き上がり少女の方を見た。


「アレシア!!」


アトーナは少女の名を呼びすぐに駆け寄ろうとするが崩落する天井の瓦礫によって遮られる、よく見たら彼女の華奢な足は柱に完全に潰されていた。


「アトーナ……足が……痛い……」


「アレシアちゃん!?くっ!」


アルドヴィダと呼ばれた女性が杖を構える、しかしその前に天井が決壊し二人を瓦礫が飲み込んでしまい魔法が間に合ったかどうかはアトーナから分からなかった。


「アレシア……」


アトーナの目に瓦礫の中に消えゆくアレシアの姿が焼き付く、この悲劇の原因は自分だという事実に絶望し、その場に膝をつく。


「ああ……ああぁぁ!!」


床に拳を何度もぶつけて自分自身への後悔と怒りを涙と共にぶちまける。


「アトーナ……」


そんな時何か自分の呼ぶ声が聞こえた気がしてアトーナが顔を上げる。


「アレシア!?」


しかし、アトーナの目の前にあったのは黒い物体だった、それが降り注ぐ瓦礫だったのかどうかは分からない、ひとつだけ確実なのは……それがアトーナの見た最期の景色だったということだ。


………………


「あれ?ここはどこ……?なんでこんな所にいるんだ……?」


(久しぶりね……貴方が死んだ時以来かしら……)


「……え?」


記憶の情景が終わり、闇の中に取り残され途方に暮れているアトーナの頭の中に謎の声が響いた。


「あなたは……誰でしたっけ?」


(え……?う〜ん……覚えていないの?それは少し困るわ……)


「え、あ、ごめんなさい……」


謎の声の悩むような声にアトーナが申し訳なさを感じ謝罪する。


(別に謝らなくてもいいわ……そんなことよりもよっぽど面白い物が見つかったからね……)


「面白いもの……?」


(貴方の手に入れた虹色のお宝……それは複数の世界の強い思念が集まり形となった物なの……)


その言葉を聞いてアトーナがハッとする、自分は七色に輝く謎の物体のせいで散々な目に遭い、なんとか切り抜けたもののその後気絶してしまったのだ。


「あの時僕は気を失って……じゃあこれは夢……?」


(そう、夢の中……そろそろ起きてもらおうかしら……貴方のことはそんなに興味なかったけど、これからは面白くなりそうね……)


その言葉と同時にどこかに引っ張られる感覚がアトーナを襲う。


「待って!君の名前は……」


(そういえば名乗っていなかったわね……今の私は『グリザイユの貴婦人』……それじゃあまた今度ね……)


………………


「はっ!!」


引っ張られる感覚が終わると同時にアトーナが衝動的にベットから跳ね起きる、どうやら気絶したあと治療院まで運ばれたようで目の前の景色は病室だった。


「…………なんだ?あの夢……」


「おはよ、元気いっぱいのお目覚めね」


やたらと鮮明に覚えている夢の内容を頭の中で反芻していると、真横でアトーナにとって拒否感を感じる声が聞こえてきた。


「げっ、プレシア……」


「毎度毎度その反応って、もっと他に言い方とかないの?」


アトーナがそちらを向くと、プレシアが呆れたような表情で果物の皮を剥いていた。


「せっかくあんたがバカなことして倒れたって聞いて茶化しにきたのになんか拍子抜け、ほらリンゴ食べて」


プレシアが綺麗にカットされたリンゴを一切れ差し出す、アトーナはそれを渋々受け取ると一口嚙って咀嚼する。


「というか一体なにがあったの?今のササン街道はもうめちゃくちゃよ、ギルドが報酬を出すから端末の提示と当時の状況の報告をしてもらいたいって言ってたわ」


それを聞いてアトーナの口が止まる、あの時拾った物体はどこにいったのか確認しようと体をずらしポケットの中を探る。


「…………ない!」


ないないと叫びながら自身のあらゆる場所を弄るがあの七色の物体はどこにもなかった。


「……何してるの?」


プレシアが引き気味に問いかける。


「え、あ、いや……そういえばさ、僕をここに運んできたのって誰?」


「多分コロニーガードなんじゃない?というか何探してんの……って、もしかしてあの大惨事の原因が見つからないのはあんたが何が拾ったからでしょ」


アトーナは鋭い推理に動揺したのか顔にありありと焦りが現れたようで、それを見たプレシアがまたもや呆れたような顔をし、クスクスを笑う。


「まぁそれがどこいったかなんて私には関係ないし、これからくるギルド職員に全部話せばいいんじゃない?原因見つけましたー!けど無くしましたー!って、それでも証言報酬で生活費くらいのお金は貰えるでしょ」


「うぅ……」


プレシアの意地悪な言葉に何も言い返せない屈辱がアトーナのちっぽけなプライドを傷つける、だがそれ以上に摩訶不思議なお宝を無くしたことがアトーナにとってはショックだった。


「まあ元気そうだしどうせギルドの連中が来たら追い出させるから私はここらで退散するわね、それじゃお疲れ様」


そう言って意地悪な表情で軽く手を振ってプレシアが個室から出ていく、一人で残されたアトーナは無気力な表情でリンゴを食べて、逃した魚の大きさを思い出し後悔していた。


(ああ、ただただ悲しい……せっかくこの世界にきて初めてすごい物を発見できたと興奮したのに……)


「まぁ、残念だけどそう上手くいくわけないよね……無くしたなんて言ったら怒られるかもしれないからそれだけは言わないでおこう……そうだ、ギルドに端末を提示しないといけないなら今のうちに情報を確認をしておかなきゃ」


そう言ってアトーナが端末を起動させる。


「ん……?なんだろうこれ?」


するとメイン画面に見たことないアイコンが表示されていた、何やら歯車のような、それかダーツのターゲットのような十二角形の不思議な形のしているものでアイコン名は「summon pieses」と表示されていた。


「こんなものなかったよね……?どういうことだろう……」


迂闊にもアトーナは恐る恐るアイコンに触れてその謎の機能を開く、すると機能の説明と思しき文章が表示された。

「summon piesesへようこそ!このサービスであなたは駒として戦う乙女たちを召集し、使役できるようになります!初回限定無料&最高レア確定!まずはお試しください!」


音声付きの説明になってない説明文が終わると今度はアイコンにもなっている十二角形の謎の紋章のような物が画面に映し出され、下の方にplayと書かれたボタンが表示された。


「……押していいのかな、うう……気になりすぎる」


あまりにも不可解さしかないこのページにアトーナは警戒しつつも好奇心を抑えられずにいた。


「というかどこ押しても戻らないし……ええいままよ!」

意を決してアトーナがボタンを押す、すると十二角形が高速で回り出ししばらくすると動きが完全に止まり、全体が虹色に輝き中心が徐々に開いていく……


と、同時に画面内にdanger!!の文字が流れ、警告文が音声付きで表示される。


「警告、ガチャ結果が召喚されます。お近くの広い場所に画面を向けてください」


「わわわ!!なんだこれ!とにかく画面を!」


淡々と同じ音声が流れる端末の画面を個室のなるべく広そうな場所に向ける。


すると……画面から虹色に輝く光の粒子が発せられ、それは画面を向けた場所に集まり塊を作り始める。


「わぁ……」


あまりのことに言葉を失うアトーナを置いてきぼりにして状況は進み、ついに光の粒子は人を形作りはじめそれが完成すると少しずつ光が収まり、その正体が明らかになった。


「ふぅ……あ!君がコマンダー?わたしはミビューっていうの!よろしく!」


それは、猫を思わせる耳と尻尾を付けた小さい女の子だった。


短いスカートのついたレオタードと、その幼い体格に不釣り合いなバストを押さえつけるように丈の短い着物のようなものを着て、腰や頭には巨大な鈴を付けており、手には猫手をイメージしたグローブをはめて足も猫をイメージした大きめのブーツを履いている。


そんな幼い少女がまるで当然かのようにアトーナに親しげな挨拶をしてきた。


「な、なんだよこれ……」


驚きの連続の中で目を丸くしたままアトーナは呟いた。

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