ブドン=ジュナの思惑
※注意!今回の話は「ストレンジフィールド」のこの先のストーリーの大きなネタバレを含みます!
また、まだ公開していないシリーズの内容を含みますのでよく分からない会話が含まれています。
いやもうさっさと本編進めろよって話ですよねホント。
その夜、各コロニーの蘇生院の司祭をしているブドン=ジュナ族による定例報告会が行われ、プライベート回線によるネットワークの中心部である「オゥトュミ区域」のコロニーの蘇生院には、壁や天井にまで一面に各コロニーの司祭のホログラムが映し出されていた。
その中で、上部の方に表示されている目元のキツイ女性が、くどくどと仕事の愚痴を呼吸も忘れるほどのマシンガントークで話している。周囲もいつもの事らしく話半分で大人しく聞いている。
そして、女性が気が済むまで話終えると、唯一ホログラムではない小柄な女性で手を叩いて仕切り直しをした。
「と、アンサーネネノルさんの愚痴も終わりましたし、まとめに入りますか。今回はこれだけのインシデントが起きたようですねぇ〜……いやはや、短期間でこれほどのことが起きるなんてぇ……」
「特に、トドンネェスは消滅を体験してしまってビビっちゃてるしね〜」
「ぼ、僕は……あのような少年を悲しませてしまう人間なんです……やっぱり司祭は早かったと……」
「おいおい、あんまり気に病むなよ、オレたちが相手にしてるのは本来死んでる連中なんだぜ?オマエの周りは理解してんだろ?ならいいじゃねえか、オレんところとかゾンビ蘇生しないといけねえし、失敗したら機械どもがいちいち叱ってるくるからやってられな……」
「はいはーい!タゥミカンはもう愚痴ったでしょぉ〜?それよりも……この現状について語るべきですねぇ〜、うんうん」
祭壇の前にネットワーク機材を広げ、情報管理をするオゥトュミコロニーの司祭チナンシェリは、メガネをクイっと上げながら、最近のストレンジフィールド内で様々な動きが活発化していることに興味深そうに頷く。
他の司祭のような綿の布を巻き付けるような服装とは違い、豊満な胸をはだけさせるかのように大きく開いたシャツの上から白衣を羽織っている。しかし低身長な彼女には大きいのか裾や袖がブカブカとなっており、全体的にだらしない印象を受ける格好をしていた。
「この世界で何か起ころうとしている……これの全貌を知っているのはおそらくギルドとわたし達だけ……どうします?族長」
「どうするもこうするも、俺たちが動く理由はないだろ、デジ区域から旅立った巨人と貴族の娘は真っ直ぐな目をしていたし、俺は彼女たちにちょっかいかける気はないぜ」
チナンシェリが族長に問いかけるも、それを遮って横からギルド職員のような近未来のボディスーツをきた青年が、自分の意見を主張する。
「わたくしの担当区域であるラソウ区域でも何か大きな暗雲が立ち込めていました……ああ恐ろしい!これはわたくし達ではどうすることもできません……!陰陽の気が満ちる時まで動くべきではないでしょう……」
薄いベールで顔を隠した女性が大袈裟に騒ぎ立てる、周りはあまり間に受けていないようで、周囲は彼女の言葉をスルー気味の空気になる。
「行動を起こすべきでないというのは私も同意見だ、プレンティカ区域で大きく物事が動いたが、私はプレンティカに呼ばれるような連中の手伝いなど願い下げだ。ただでさえ蘇生すら不快だというのに」
「ハハハ!ピニィンルは相変わらずだな!お前もアルカネラを用いて住人と語り合ってみたらどうだ?」
「オーナイド、お前の区域も酷い有様なのだろう?くだらん札遊びなどにかまけてないで、少しは危機感を持ったらどうだ?」
「相変わらずアルカネラを見下しているな、そんなことだからお前は担当区域でも孤立しているんだ」
「貴様……!プレンティカがどんな所が知りもせずにずけずけと……!」
「皆の者、静かに」
オーナイドとピニィンルと呼ばれた体格の良い男二人は、互いを罵り合い一触即発の状況になる。それを中央に鎮座していた最も年長と思しき男が、厳粛な声で制する。
「この世界で何か変革が起きようとしている、それは間違いないでしょう。私の担当区域であるイファスでも大きな出来事が起きました」
「トユナエィン族長、なんですか?改まっちゃってぇ」
先ほどの報告では敢えて言わなかったのか、改まったようにトユナエィンと呼ばれた男が立ち上がる。そんな珍しい行動にマイペース気味だったチナンシェリも、不思議そうに首を傾げた。
「実は先日、我が蘇生院の院徒が参加したパーティがコロニーの地下に未知のストレンジダンジョンを見つけたのです」
それを聞いた周囲は、なんとも言えない反応を示す。
「あー、それはよかったですね」
「相変わらず、族長はユーエインさんに甘いですね。それにしてもついに彼女も解明者デビューですかー」
「いやはや、鍛錬だけで実戦経験のなかった彼女もそのような大きな成果を出せるほどになったとは、我々としても嬉しい限りです」
恒例の族長の院徒自慢だと把握した面々は、やれやれと思いつつも純粋に祝福の言葉をかけて喜ぶ。しかし、当のトユナエィンは周囲のその反応に返す様子はない。
「確かにユーエインのその成果は大変嬉しく思います。しかし、本題はその発見されたストレンジダンジョンなのです」
「そのダンジョンが……?」「一体我々とどう関係するのです?」
「そのダンジョンは……どうやらこの世界で身体が朽ちてしまった者達のクオリアを保管する性質のあるダンジョンのようなのです。もし、このダンジョンの性質を上手く利用できれば、蘇生に失敗した場合でも甦らせることができる……いえ、失敗しない蘇生術を実現できるかとしれません」
族長のその言葉にその場の全員がざわつく。
「失敗しない蘇生……!?」「それが実現すれば……」「失敗によるトラブルが起きなくなる」「もう悲しむ人はいなくなるのですね……!」「再生の洞窟に頼らずに済むのですか!」「コロニーガードの方々も、犯罪の取り締まりの際の不殺の負担が無くなりますね!」「族長!そのダンジョンの性質はどれほど分かっているのですか!?」
「皆の者、落ち着くのです」
トユナエィンが手を前に出して騒ぎ立てる司祭達を制止する。それによって再びピタリと静まりかえったのを確認すると、トユナエィンは姿勢を正して口を開く。
「これはあくまでそうなるかもしれないという、私の単なる希望でしかありません。しかし、やらない理由などなく、私が業務の合間に研究をすることを、イファスコロニーのギルド長と発見したクランのリーダーと話し合って決めたばかりの段階です」
それを聞いた司祭たちは、少しがっかりしたような態度のもの、変革についていけなかったのかどこか安心したような仕草をするもの、態度こそ落ち着いているが表情は明るいものなど、様々な反応をしていたが、皆が一様に期待していることは場の雰囲気から伺い知ることができた。
そして、その話を聞いてむしろ険しい表情になっているものが一人いた、ソレンス区域の司祭トドンネェスだ。
(そのダンジョンには、あの失敗した子のクオリアもいるかもしれない……ならばそこにいけばあの少年はその子に会えるかも……)
「ここまでが私の話したいことです。今はまだ、私達が関わるのはそのストレンジダンジョンだけにしておきましょう。それでは、解散」
「はいは〜い、みんなおつかれぇ〜」
族長の号令は確実な終了を意味する、その合図と共にチナンシェリが通信を切ると、トドンネェスの前面にあったモニターは真っ暗になり、こそには決意と緊張の混じった表情が映し出された。
「…………よし」
拳を握り、天を仰ぎながら、まだ若い司祭は決心したように呟いた。