廃墟街道に降る謎の石
人型兵器とドラゴンたちは役目を終えたあと天高く舞い上がりそのまま姿を消した。
「今日もすごかったー!やっぱりすごいなここは!」
「お兄ちゃんもクリスレイズドラゴンさんが好きなの!?」
急に近くの少年がアトーナに声をかけて来た。
「え?ああ、えーと……君はクリスレイズドラゴンさんが好きなんだね」
「そりゃそうだよ!だって一番かっこいいんだから!」
「おい!一番かっこいいのはグランツ少尉の乗ってるオルフェウスだろ!」
「そんなわけない!クリスレイズドラゴンさんが一番だよ!」
突然横から別の少年が割って入り、アトーナと話していた少年との間で喧嘩が始まった。
「わわ!ちょっと落ち着いて!」
「はいはい僕たち〜ちょっと落ち着きなさい」
と突然どこからか女性の声が掛かり少年たちの喧嘩が止む。
「げっ!ザナリハおばさんじゃん!」
「にげろー!」
少年たちが走り去っていく、その逃げた方向とは反対からカールした金髪を肩まで伸ばした赤い鎧を着た剣士の女性と、青いロングコートを着て槍を携えた少年が歩いてくる。
「おばさんとは心外ね、わたくしはまだ18なんだけど」
「それじゃあ、あと二年猶予があるな」
「バリスト、セリナさんの前でも20歳超えたらおばさんですよねーって言いなさいよ?」
「じょ、冗談だって姉さん……」
そんなくだらない会話をしながら近づいてくる男女、ザハリナと呼ばれた女性とバリストと呼ばれた少年二人組の姿を見て、アトーナがハッとしながら話しかける。
「あなた方はトーガス姉弟……でしたよね?すみません、仲裁に入っていただいて」
アトーナが二人に向き直って軽く頭を下げる。
「あら、わたくし達のことを知っているのね、シヴィリアンは解明者の有名人には疎いと思っていましたが」
「それは偏見が過ぎますよ……それに僕も解明者です、今はパーティ組めないので一人でやってますけど」
「へぇ〜こんな幼い少年なのによくやるよ、でも立派な男子にも見えるな」
バリストの言葉にアトーナが微妙な顔をする。
「え、えーと僕は男では……」
「結局どっちなのよバリスト、まあそれはそれとしてとても前衛ができる体格には見えないけれど、専門職は何を?」
「あっ……そのえーと、スペルマスターです」
アトーナが何かを言おうとするが、すかさず入るザナリハのツッコミによって遮られてしまい流されたまま話が続く。
「なるほどね、浅く広くでもやれることが多い方が一人で活動するなら良いもんな」
「それならわたくし達と組みません?今から『ファミック鉱山』に向かうの、スペルマスターは本来より効果が薄いとはいえ様々な魔法が使えるのでしょう?うちはヒーラーしかいないのでいてもらえると助かるのですが」
「え〜と……すみません、あなた方のような有名人のパーティに入るには僕は力不足なんでやめておきます……それに今日は今からササン街道に行く予定なので」
ザナリハの提案はアトーナにとって非常に魅力的だった、しかし相手は何故か本人に自覚が無いがこの区域では知らない者のいない有名人だ、まだこの世界に来て一ヶ月のアトーナには荷が重く感じてしまったようで、なんとも言えない表情をして言葉を濁しながら断った。
「あら残念……でも仕方ないわね、それじゃあお達者で」
「気をつけて行けよな!」
そう言って去って行く二人に礼をして、アトーナがササン街道へのポータルまで向かう。
ササン街道へのポータルはコロニーの東部、居住施設が建ち並ぶ静かな場所の先にあり、ポータルの前には二人の警備隊員……コロニーガードが立っていた。
「こんにちは、ササン街道に入りたいんですが通してもらえますか?」
そう言いながら端末の裏にあるカードケースに入れた身分証を見せる。
「確認する、よし通っていいぞ」
コロニーガードの一人が前に出て腕のセンサーで身分証を確認する、そして、認証が完了するとガードが下がりポータルが起動した。
アトーナはコロニーガードに軽く会釈すると、青白く輝くポータルをくぐった。すると、一瞬でダンジョン内部に到着し、何事もなったかのようにポータルから飛び出して街道の舗装された道に着出した。
ササン街道は大路の両脇に木造の粗末な家屋が建ち並ぶ寂れたダンジョンだ、ダンジョンの外は明るい荒野が果てしなく続いているらしいが、荒野を彷徨くグロブスタが危険という理由でギルドが暗い色をした柔らかい質感の外壁で囲んでいる。そのためダンジョン全体が薄暗く、建物の陰になっている所は完全な闇を作っていた。
そんな陰険な雰囲気のダンジョンに降り立ったアトーナは、ホールドと呼ばれる解明者専用の装備の胸部分に端末をはめ込み、振り返ってポータルを眺める。
「ふぅ、ホントに便利だなー外壁の外はヤバいグロブスタがうじゃうじゃいるからこのコロニーだけの特権だと聞いたけど、それならありがたすぎるよ」
そんなことを呟きながら杖を取り出す、軽く振って呪文を唱えた。
「『翼眼』《ティピール》」
すると、一定の範囲にいる動くものが視界に強調表示された。
(条件を考えながら唱えるとそれに該当する対象が赤く光る魔法……僕の世界でも魔女さんが使ってたな)
そんなことを考えながら、規則性のない光る物体に警戒するように物陰に隠れながら中腰で移動する、今回つけた条件は「大きく動くもの」とざっくりしているため至る所に赤く光る物体が存在していた。
「今回の目的は解明が進んでいるこのダンジョンでお金になるものを回収すること、無理なことは絶対にしない」
自分に言い聞かせるように、独り言を呟きながらアトーナが進む。すると何やら音が聞こえ、アトーナがすぐさま警戒しながらそちらを物陰から覗く、確認した先では下半身が犬で上半身が鶏のような異形の生物が何かを啄んでいるのが見えた。
「あれは……確かエンレミクスとかいうグロブスタだったはず」
そんなことを言いながら、アトーナは右手にナイフを、左手に杖を、それぞれ構えて相手の動きを観察する。
(グロブスタ……どこの世界から来たのか不明で自我を持つように振る舞うが、僕らとは意思の疎通を行わず敵対行動を取る物体たちの総称……)
そんなことを考えながらアトーナはナイフを握る手に力を込める。
(見つけたら討伐か捕獲のどちらかが推奨されてるし、ギルドに持ち込めば基本良い値で買い取ってくれる……なんとかして討伐したいかな)
「『翼眼』《ティピール》」
アトーナが別条件で表示させるために呪文を唱え直す、今度の条件は「自分の体温以上の熱を持つ物体」、そして魔法が機能している状態で周りを見渡すと、周囲の至る所に寝ていると思われるエンレミクスの姿が表示された。
「うわっ、こんなにいるんじゃ戦うのは自殺行為だな……大人しく引き下がって別の場所を調査しよう」
「石橋を叩いて渡る」という言葉をセリナから聞き、それを座右の銘にしているアトーナにとって無謀な行動は選択肢にない、今まで一人で活動していながら死ぬことがなかったのも、この慎重さが命を救ってきたからなのだ。
そして、アトーナが寝ている群れを避けるように大きく迂回して別のエリアを捜索しようとしたその時、
ドガァッ!!
と何かがアトーナの10mほど離れた場所に落下し、凄まじい破壊音を轟かせながら家屋を破壊して地面にめり込んだ。
「え?え?え?何、何、何、何がおきたの!?」
突然のトラブルによって起こった凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、近くのゴミの山に埋まってしまい腰を抜かしたアトーナだったが、混乱しながも落下地点に大急ぎで這い寄り、その正体を確認する。
「……え?これ、なんだろう?」
それは、虹色に輝く多面体のようなもので、細やかな色彩をアトーナの目に映していた。
「ようなもの」という表現になったのも、その多面体は具体的な形状を把握しようとしても上手く認識できない奇妙な物体で、現実に存在するのかも疑わしい非現実な雰囲気を出していたのだ。
それをアトーナは恐る恐る拾い上げる、あれだけの衝撃を発していたにも関わらず物体は傷一つついておらず、高温どころか人肌より冷たかった。
触って形を確認しようとするが、何故か触るたびに形状が違うように感じ、そして先ほど触った時の形状が触るたびにうまく思い出せなくなってしまい、どういう形か認識しにくいもので、アトーナは把握するのを諦めてしまった。
「うわぁ……何かは分からないけど多分すごい物だ、これは高く売れるぞ」
セリナから聞いた「棚からぼた餅」というか言葉を脳裏に浮かべながらアトーナが目を輝かせる、そんな駆け出し解明者の後ろで何かの唸り声が聞こえた。
「え?もしかしてこれって……」
嫌な予感を感じながらアトーナが振り返るとそこには先ほどの衝撃で目を覚ましたエンレミクスの群れが口から涎を溢れさせながら立っていた。
「どーも……お邪魔しました〜……」
アトーナは無駄な笑顔作って挨拶をすると脱兎の如く走り出す、それを皮切りにエンレミクスの群れも吠えながら追いかけてきた。
「はぁっ、はぁっ、ポータルまでの距離は遠くない!追いつかれる前に脱出しないと!」
よく見ると家屋の隙間からさらにエンレミクスが出現し、その数は先程の倍になっていた。
「くっ、囲まれた!『浮巻』《ユシュバル》!」
道を挟むように建ち並ぶ家屋の中で風化のひどいものに呪文を唱えると、磁石でくっ付くかのように反対側の家屋と引き合いその運動で崩れて倒壊し、多数のエンレミクスを巻き込んだ。
「よし!これで数はかなり減った!」
そう言って走るアトーナの左右を二頭のエンレミクスが挟み込んで並走する。
「ま、まずい!『扇風』《エインエル》!」
杖から風の刃が吹き出し右側を走るエンレミクスの体を裂く、しかし威力が弱く怯ませることしかできなかったがそれでも威を削ぐことに成功し、勢いが操作できなくなった怪物がバランスを崩し転倒する。
「あとは一匹!『掌撃』《チバラ》!」
そしてもう片方のエンレミクスが飛びかかる瞬間に杖を構えて簡単な衝撃魔法を撃ち迎撃する、そしてそのまま全力疾走しポータルの中に飛び込んだ。
「はぁ……はぁ……た、助かった……?」
ポータルを超え、街の中の舗装された道を転がり肩で呼吸する。
「おい、どうした、中で何があった」
「ポータル付近にグロブスタの群れがいます!他の解明者に通達するようギルドに連絡してくださ……い……」
その場から動かず厳粛な声のままコロニーガードが声をかける、それに対しアトーナは今ダンジョンの入り口が危険なことを伝えるとそのまま気を失ってしまった。




