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驕る者、堕とすモノ

「よっし!ここまで完勝!いやー困るなぁ♪あと何台荷車を頼まないといけないのかなぁ♪」


嬉しそうに声を弾ませるアトーナ、「困る」と言いながらその顔はニヤニヤとだらけきっている。


しかしそれもその筈、ここまで二人は問題なくグロブスタや原生生物を討伐しており、アトーナが陽動してその隙にミビューが倒す、又はミビューがダメージを与えて弱ったところをアトーナがトドメをさすといった具合で連携が取れており、その波状攻撃は単純な思考の生物では対応できなかったのだ。


「コマンダーってば、ほとんどわたしが弱らせているのに調子いいんだから〜、でも喜んでるならそれでいっか!」


ミビューが適当にツッコミを入れるがそんな事を気にする様子もなく、アトーナは次のエリアへ向かおうとする。するとその時、アトーナの端末から通知音が聞こえてきた。


「ん……?おー、もう最初のやつが回収されて、ある程度解析されたみたいだね。ふむふむ、あのグロブスタは『ヴァルハラザウルス』と言う名前みたい、どこかの世界の恐竜?という絶滅した生物に似てるんだって、それで恐竜は独自の研究もされてるし、マニアも多いから高値が付くってさ!」


送られて来た情報を読み上げながらアトーナが段々と声を荒げる、そしてあのグロブスタが実入りがいいと分かるとすぐさま端末をしまった。


「グロブスタって時点で貴重な研究材料でかつ、恐竜に似ているから恐竜以外の他生物との類似性の確認や、他の世界の恐竜との比較の為になるべくサンプルが必要だって書かれてる……よーし、さっきから所々で見かけるやつだからなるべく傷つけないようにして、あわよくば捕獲しよう!」


そう言って、端末をしまい大きく唸りながら天を仰ぎ、アトーナが駆け出す。もはや誰にも止められない状態となった彼の行動をミビューは目を点にしながら見つめていた。


………………


「いた……!しかもこいつは特にデカい……!」


すぐに目標としていたヴァルハラザウルスが見つかり、建築物の物陰から様子を伺うアトーナ。体長がバンジョシュをも越える大物なそれは、周囲一帯では主なのか外敵を気にする様子もなく、街路樹のように生えている樹木の青々とした葉を食んでいる。


「上手く生け取りすればギルドから特別な褒賞も貰える、それに……僕をまだ未熟だと思ってるみんなを見返せる」


そう言ってニヤリと笑うアトーナ、彼の額から頬を伝って一筋の汗が流れる様子から緊張していることがミビューにも伺えた。


「よし、ミビューとにかく脚を狙ってヴァルハラザウルスの動きを止めて欲しい、眠らせる魔法をかけまくって捕まえるから」


「わかった!今日のコマンダーは絶好調だし、絶対上手くいくよ!」


アトーナのシンプルな作戦に対し、ミビューが胸を揺らしながら元気いっぱいに答える。今の二人はテンションが最高潮に達しており、このダンジョンでは敵無しの状態となっていた。


「よし!ミビューは側面から突撃!僕が囮になるよ!」


「らじゃー!それじゃあ……とつげきー!」


指示に従い、ミビューが獲物の側面に回り込み爪を剥き出す。そして飛び掛かろうとしたその時……


「あ、あれ?どこ行くのー!?」


突然、ヴァルハラザウルスが(いしゆみ)にでも弾かれたかの如く、巨体を揺らして走り出した。一体何が起こったのは理解できずアトーナ達が呆然としていると、急に恐竜が逃げた先とは正反対の方面から凄まじい気配を感じ、二人は反射的にそちらへと目線を動かした。


「ん?んんっ?なにこれ……?」


アトーナの目線先、そこにあったのは宙に浮かぶ不可思議な液体で形作られた杯だった。


「な、な、なんだ?これ……グロブスタの類か……?」


アトーナが呆気に取られてそれを眺める、見た目は黄金に輝く杯だが、波打つ表面がその物体を構成しているモノが常に流動している液体だという事を表していた。


そんな不可思議な代物は、ヴァルハラザウルスの消えた方向へと、ゆっくり宙を漂い移動し始めた。


「こ、これって……もしかして意思がある……?なにか意図を感じる動きだ、こんなやつ見たことも聞いたこともない……あいつを捕まえたら、きっと大発見になるはずだ……!」


アトーナが不敵にニヤリと笑う。コロニーにいた時もあんな存在の情報は聞いたことはなく、コロニーに持ち込まれる調査物にもあんなものは見たことはなかったアトーナは、これが特別なモノだと確信したのだ。


「ミビューこっちに来て!おーい!そこのゴブレットー!!止まれー!!」


アトーナはすぐにミビューをそばに呼び、そのまま建物の物陰から飛び出して杯に向かって叫ぶ。


すると、呼びかけに反応したのか杯が立ち止まる。どうやらアトーナの予測通り自我の類いがあるようで、杯は光の粒子を放出し始め、それが集まって杯の周囲に四本の剣が形作られ、ゆっくりとした動きでアトーナ達にそれが向けられた。


「うわっ!?こいつやっぱりグロブスタだな!それなら話は早い、ミビュー!こいつを撹乱してくれ!」


「らじゃー!何者か知らないけど、そんなゆっくりとした動きじゃわたしをつかま……」


敵に向けた言葉を言い終わらず黙るミビュー、それを不思議に思ったアトーナが横にいるミビューを見ると……


「え……?」


そこにあったのは、敵を指差し立ったままのミビューの胴体と、その背後の白い床を赤く彩るミビューの頭部を構成していたと思しき飛沫だった。


「な……え……あ、そ……あれ?なんか地面が傾く……」


状況を理解できず思考停止するアトーナの身体が、本人の意思とは関係なく傾きだし床に仰向けに倒れる。それに少し遅れるようにミビューの体もガクガクと痙攣を起こしながらアトーナと同じように倒れてそのまま光の粒子となってしまった。


「ミ、ミビュー?とりあえず起きないと……あ……れ……?なに、これ……」


アトーナは足を踏ん張って起きようとするが、脚に違和感を感じて立ち上がれない、反射的に自分の体を見たアトーナはすぐにその違和感に気づいた。彼のふくらはぎから下は、いつのまにか綺麗に切断されていた。


「あ……?あ、あ、あ、ああぁぁあ゛ア゛ア゛ァァァァ!!?!痛い!!痛い!!い゛た゛い゛ぃぃぃぃぃ!!!!」


状況を理解したと同時に脚の断面から血が噴き出し、激痛に脚をばたつかせるアトーナ、それが更に出血を酷くし、彼を痛みで悶え苦しませる。


そんな戦闘不能と化したアトーナに、杯のグロブスタは再び剣を向けた。煌びやかに光る剣は嫌でもアトーナの視界に入り、それが彼に死を実感させる。


「ひいっ……!!」


痛みから溢れる涙と涎と鼻水で顔を汚しながらそれを見つめ、アトーナは小さな悲鳴をあげる。それと同時に失禁してしまい、血溜まりと混ざったプールを彼の腰と足が接地した場所に作り上げる。


「このっ!そこの子!早く逃げて!」


「あっ!ばかっ……!ああもう!そこの化け物!私が相手よ!!」


剣がアトーナの鼻先に触れようとしたその時、突然別の物陰から少女が石をグロブスタに投げながら飛び出してきた、そして遅れるようにもう一人の少女が飛び出し、やぶれかぶれになりながら剣を抜いて助太刀のために前へと躍り出る。


一人は長い黒髪の、戦えそうな装備ではない少女で、もう一人はオレンジの髪色に合わせた黄色の装備を身につけた剣士の少女であり、このダンジョンに到着した際にアトーナが見かけた外部から来た二人組だった。


「あの時の……はぁ……!その、ぐうっ!!な、なんでいきなり……?」


「あんただって私達より先回りしてグロブスタの観察をしてたでしょ!私たちも同じことやってたのよ!そしたら明らかにやばいのが現れたから逃げようとしてたのに、あんたたちが飛び出すから!」


痛みに息も絶え絶えになりながらアトーナが問いかけると、黄色の少女が杯のグロブスタを睨みながら説明する。


(そそぐ)!私が前に出るからあなたは歌で支援して!さっき救援を呼んだからそれが来るまで耐えるわよ!」


「はいっ!」


濯と呼ばれた少女は、黄色の少女の言葉にすぐに返事を返してマイクを取り出し、そのスピーカー部分に並んでいるスイッチの一つを押す。


すると、この場の雰囲気に似合わないハツラツとしたメロディが流れ出し、それに合わせて彼女は鈴の鳴るような透き通った声で、アトーナが聞いたことのないタイプの歌を歌い始める。


すると、あっという間にアトーナの足の切断面から血が止まり、黄色の少女が明るいオーラのようなものを纏ったような気配を放ち始める。そして、まるで歌声に呼応するようにグロブスタの杯の体が震えだした。


「……ッ!来る!」


先ほど二人を瞬殺した時とは違う、剣筋の見える動きでグロブスタが襲いかかる。だが、その程度なら問題ないのか、黄色の少女は素早くレイピアで剣を打ち払い、拮抗した状況を作り上げる。


「濯!早くその子を連れて救援を呼んできて!これくらいなら一人で大丈夫だから!」


「分かりました!」


実力的に問題ない相手だと判断し、黄色の少女が状況を見て濯に指示をすると、彼女はすぐに歌うのをやめてアトーナを抱えようとする。


すると、動きが緩やかだった杯の身体が再び波打ち、その動きがまた俊敏なものとなって肉眼では捉えられない動きで剣を振り切った。


「えっ!?はや……」


そして、黄色の少女が理解する間もなく高速の剣筋は彼女の横を通り過ぎ、複数の剣はアトーナ目掛けて飛んでいく。


圧倒するように迫る刃に、アトーナが声も出せずにその瞬間を待つ。そして、それが鼻先まで近づいた時、不思議な事にその剣の刺突が急に停止した。

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