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問答無用の指導

個別訓練室は白い壁と床だけが広がるだけのだだっ広い空間だった。


もちろんそんなただの虚無な空間ではない。無料で使える訓練施設とは違って、あらゆる技術が注ぎ込まれたハイテクの塊であり、部屋の前や部屋内部にあるインフォメーションパネルでシュチュエーションやオブジェクトを設定してあらゆる状況を再現できるとんでもない代物なのだ。


そんな訓練室に入り、部屋の中心まで来るとショーンがおもむろに杖を取り出した。


「さて、積もる話もあるがとりあえずは……『専覆』《ザナバラス・バロノ》」


さりげない仕草で杖をあげて小さく呪文を唱えるショーン、そんな謎の行動にアトーナは不思議そうに首を傾げた。


「え、ショーンさん?」


「これは簡単に説明するなら幻影を作り出す魔法、俺たちはその幻影の内部にいる……今からこの部屋に入って来た奴や、部屋の監視カメラからは真面目に訓練している俺たちしか見えないだろう」


「幻影って、何故そんなことを……?」


「時間を掛けたくないので本題に入るぞ、この指導カリキュラムの講習費用は例の化け猫が稼いだものだな?」


いきなり核心を突かれてアトーナの心臓が大きく跳ねる、その様子はアトーナが思っている以上に態度に出たようで、ショーンはアトーナが返事をする間もなくため息をついた。


「はぁ……お前の今までの調査報告と比較して、明らかに異様な内容だったからもしやと思ったが……一体何を考えているんだ、そんなにその端末の機能のことを皆に知らせたいのか」


「そ、そういうわけじゃないです!ただ、入院費とか宿代とか諸々を稼ぐ必要があったのでダンジョンに潜ったんですけど、そしたらミビューが思いの外活躍したのでぇ……」


指を突き合わせながら言い訳をするアトーナに対し、ショーンは黙って睨みを効かせる。


「それで調子に乗って今まで碌な戦闘経験もないのに中級指導カリキュラムを受けたのか、俺からしてみれば増長しているようにしか見えないが?」


事情を知っているショーンに誤魔化しがきかないことを悟ったアトーナは全てを説明するが、それも今の状況では大金を手にして背伸びしているようにしか見えていないショーンは、彼に皮肉の籠った返しをする。


「そんなこと言われても……今の僕はこれがお金の使い方の最適解だと思ったんです、強くなればプレシアやミビューに頼らなくてもいいって、そう思って……」


胸に手を当てしおらしく言葉を返すアトーナ、そのか弱い少女を思わせる仕草に威を削がれてしまい、ショーンは頭を掻きながら天を仰いだ。


「全く、それはズルいだろ……とにかく!下手な真似はするな、そんな得体の知れない力に頼るのはよせ」


「はい……」


「ぐぅ……!そんな顔をするな!分かればいいんだ!もう指導に入るぞ!」


もう指導はしてくれない……そう考えて落ち込むアトーナの憂いを帯びた表情に、タジタジになりながらショーンは話題を切り替える為に指導へと入ろうとする。すると、アトーナはハッとした表情で顔を上げた。


「なんだその顔は、ちゃんと強くなりたい理由があるやつを放置するわけないだろう、それに金を貰ってる以上はそれ相応のことしないと俺の面子とギルドの信用に関わる」


そう言って距離を取る指導者の態度にいまいち状況を理解出来なかったアトーナだったが、理解した途端すぐに顔が明るくなった。


「ありがとうございます!ショーンさん!」


「分かったならさっさと杖を構えるんだ、先ずは『展舞』《ヴァミド》と『展催舞』《ヴァミド=バント》という身体強化の魔法だ」


説明しながらショーンが自分の脚に展舞を唱え、一気に駆け出すとそのまま部屋の壁まで一瞬で到達してしまった。


「速っ!?」


「展舞は身体の一部だけを強化し、一瞬限界を超えた行動を実現させる。自分の手にかけてみろ」


「分かりました」


アトーナの真面目な返答にショーンは頷き、杖の向け方、魔素の操作のやり方をアトーナに分かりやすく教える。そして、ある程度形になった事を確認して実践に入らせる。


「よし、では……『展舞』《ヴァミド》!」


言われた通りにアトーナは杖を自分の左手に向けて呪文を唱える、すると少しだけ左手に不思議な感覚が走ったのが彼自身にも分かった。


「呪文が成功したかどうか、さっき飲み干した缶コーヒーがあるからこれで試してみろ」


そう言ってショーンが差し出した空き缶をアトーナが受け取って思いっきり力を込める、すると缶は簡単にひしゃげてしまった。


「うわあ!?」


「自分でやって驚くな……まあいい、これが基本の身体強化呪文だ。そしてそれの上位魔法に当たるのが『展催舞』《ヴァミド=バント》、全身の身体機能を一定の時間強化するが、直後に凄まじい倦怠感を起こしてしまう、リターンもリスクも大きい魔法だ」


「それは……ちょっと怖いですね」


「そう考えるくらいでちょうど良い、扱いが難しいのもあって、上級カリキュラムでしか教えない代物だからな」


それだけを言いうと、ショーンは再び定位置に戻った。


「次は『反能衣』《ジャタピル》、簡単に言えば透明になれる魔法だ」


「ちょ、ちょっと待って!テンポが早すぎますよ!」


「まだ経験に基づいた指導や教える魔法が山ほどある、最初に時間を使ってしまったから余裕がないんだ、さっさと頭に叩き込め」


それだけ言うと、返事も待たずにショーンは呪文を唱え、アトーナの視界から完全に消え去ってしまう。


「わ、ちょ、待って!」


「シャキッとしろ!呪文は『反能衣』《ジャタピル》!杖の振り方はこう!エーテルの纏わせ方はこうだ!」


「うわ〜!!」


その後、個別訓練室から出てきたアトーナは先輩スペルマスターからのありがたい指導でボロ雑巾のようになっていた。

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