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向上心は懐事情と共に

更新サボってごめんなさい……

今月から頑張ります。

調査物収集場、そこは解明者がダンジョンから持ち帰った収集物や情報をギルドに納品する場所だ。


そこにミビューが蹴散らしたグロブスタの亡骸を納品して端末に表示された金額を見て、アトーナは思わず手が震えてしまった。


「12万……?な、なんだよこの数字……」


治療費と宿代分を稼ぐどころか、あと100回は治療院のベッドを使わせて貰っても問題ない数字が財布に入っている。そんな現実にアトーナは、(出店で食べたハンバーガーとかいう料理が美味しかったけど、一個80SFcだから特別な日のご褒美かなー)などと考えて生活していたことを馬鹿馬鹿しく感じていた。


「回収作業用の自立可動式荷車のレンタル代を差し引いてこの金額とか、ミビューがいなかったら一生見ることはなかっただろうな」


最初にミビューに仕留められていたエンレミクスはともかく、大量に討伐したバノデスは危険性もそこそこあったからか、合計金額がバカに出来ない数字に膨らんでいたのだ。


しかしなによりも報酬の大半を占めているのはバンジョシュで、ササン街道では最も危険なグロブスタということもあってギルドに持ち込まれることは少なかった。


そんな怪物の左手と頸椎の損傷だけで済ませた個体を持ち込んだのだから、ギルドは喜んで多額の報酬をアトーナに振り込んだのだ。


「端末が記録していた当時の状況では、識別不能な存在がバンジョシュを倒して、その存在が消えたから回収を行った僕のものになったけど、その識別不能な存在が僕の端末から出たものだってギルドに知られたらどんな目に遭うか分かったもんじゃないぞ……」


アトーナたち解明者にはstrange field livelihood assistance tablet、略称SFLA tabletという情報端末が支給されている、これは解明者の生活のサポートの他にダンジョン内で何が起こったのか簡易的ではあるが常に記録しており、それを参照して回収物が強奪されたものではないかなどの照合をギルドは行っている。


「端末は逐一状況を記録しているにも関わらずミビューのこともアプリのことも記録されていなかった……やっぱりこのガチャってアプリは特別なんだろうな……でも、とりあえず先にこのお金の使い道を考えよう」


アトーナは首を傾げながらも手に入った非現実的な報酬の額に内心浮かれており、あまり考えることなく収集場を出て行った。


………………


『スペルマスターのアトーナ様、危険物ナシ、お疲れ様です』


いつもの検査を終えてギルドの中に入ったアトーナはカウンターにいる見知った顔の女性の元へ駆け寄る。


「こんにちはセリナさん!」


「あっ!アトーナくん!退院おめでとう!病み上がりなのになんだかすごい活躍してるみたいね!」


「まあ、はい……でも偶然みたいなものです、というかセリナさんもギルド職員とはいえ情報早いですね、まだ午前中の話なのに」


「アトーナくんの情報ならきっかりチェックしてるからね!というのは冗談で、他の職員も私がアトーナくんの世話をしてたのを知ってるから教えてくれるのよ」


「そうですか……まあ、僕の情報を逐一仕入れられるほど、そんな暇じゃないですよね」


あまりの情報把握能力の高さに恐怖するアトーナだったが、セリナがあっさりネタバラシしてくれたお陰で自分が慕っている女性がストーカー気質ではないことを理解して小さく安堵した。


「なにを言ってるの、アトーナくんのことを知るのは私にとっては業務より重要なことなんだから、まあそれはともかくギルドに来たってことは何か用事があるんでしょう?」


「あ、はい……実は、スペルマスターの中級指導カリキュラムを申請したいんですけど……」


「え!?アトーナくんってば、もしかして危険な所に行くつもりなの!?」


アトーナからの出た言葉にセリナが驚いて大声を上げる。


指導カリキュラム……それは同じ専門職の中でもそのコロニーで指折りの実力を持つ者を指導員として指名し、その者の経験や技術を教えてもらうという後進支援プログラムだ。


このカリキュラムを受ける者のほとんどが、ダンジョンの更なる調査の為に危険なエリアへ向かう為……という理由なせいで、セリナは早とちりしてしまったのだ。


「え!?ち、違いますよ!お金が集まったのでより生き残れるように魔法の練習をしたいだけです!」


「そ、そうなの……?じゃあ危険なところへはいかないのね?」


「はい、心配しなくても大丈夫ですよ」


「はぁ〜……よかったぁ……」


セリナの取り乱しようにアトーナは驚くが、すぐに事情を話して落ち着かせる。


「それで、今指導してくれる人がいるかどうか確認してもらえますか?出来れば指名までそちらでお願いします」


「もちろん!このコロニーで一番強い人を紹介するわね!」


危険な理由ではないと理解したセリナはウキウキとした態度で検索を始め、すぐに目星をつけた相手に連絡を取った。


「よし、すぐ来てくれるよう頼んだわ」


「そ、そうですか……ありがとうございます」(結構強引な感じで指名してたけど、そこまでしなくてもいいのに……)


「それにしても安心したわ、アトーナくんが『隠遁するベルバ』の襲撃に対応していたって聞いた時は、心配で心配で眠れなかったもの」


「隠遁するベルバ?なんですかそれ」


「あ、アトーナくんは知らないのね、最近いろんな区域で暴れてるっていう危険な連中よ、リーダーの『夜閉 景野(やとじ けいや)』は指名手配されてるほどなの」


「へぇ〜……外の世界にはそんな人たちもいるんですね」


他人事のように言うアトーナにセリナは少し困ったような顔をする。


「何言ってるの、きみもそれに襲われたのよ」


「あ、そうでした」


「もう……それにしても、メンバーはドルイドで構成されているって聞いてたけど、今回襲撃してきたのは謎の化け物だったわ、もうあんなの相手になんてしちゃダメよ、アマムラ商会にまでちょっかいかけているような連中みたいだし」


「大丈夫です、僕はこれから強くなるんですから」


そう言って、サラシをキツく締めて平たくなった胸を張るアトーナの頭に何か大きなものが乗っかってきた。


「そうか、ならお前が強くなれるようこれからビシバシ鍛えてやる」


「えっ……?え゛!?ショーンさん!?」


「あら、やっと来たのね」


アトーナが振り返るとそこには、『ガチャ』と手に入れた時からお世話になっている、ギルド職員のショーン・マクが立っていた。


「今回指導するポンコツはお前か、ちょっと大物と戯れたくらいで随分と自信をつけたみたいだな」


「そんなんじゃないです!運良くまとまったお金が手に入ったんで、みんなや自分を守る為に技術を高めようと思っただけですよ!」


「ちょっとショーンさん、せっかくアトーナくんがやる気出してるんだから余計な事言わないでください」


ショーンの少し皮肉のこもった言葉にアトーナがムキになって返すと、更にセリナまで険しい口調でアトーナの肩を持った。


「ほぉ……良い心がけだなアトーナくん、初めて会った時の頼りなさが嘘みたいだ。嫌味を言って済まなかった、本気で強くなりたいんだな」


(あれ?ショーンさん、いつもみたいに険しい感じがしない……)


静かにそう言い、軽く頭を下げるショーンにアトーナはいつもと違う雰囲気を感じて戸惑う。実際、ショーンはアトーナへの尋問やテロ鎮圧の中で常に緊張感のある雰囲気を放っていた、その時のイメージしかないアトーナは普段の彼の態度を不思議がっているのだ。


「どうした、そんなにピリピリしてないのが不思議か?」


「い、いえ!別に!そんなつもりじゃ……!」


「はいはい!もう無駄な会話をする必要ないでしょ、個別訓練室Cを開放したのでそちらでの指導に移ってください」


アトーナと親しげに会話しているのが面白くないのか、二人の間にセリナが割って入り不機嫌そうに移動を促す。


「そうだな、ではアトーナくんすぐに移動しよう」


「あ、はい」


すぐに行動を開始したショーンの後をアトーナはなんとも言えない気持ちのままついていった。

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