か弱い解明者と実力者たち
「アトーナさん、検査の結果に異常はありませんでしたよ、あの気絶も急激なストレスによるものでした」
動きやすい近未来的なナース服を着た看護師がホログラムパネルをアトーナに見せながら軽く説明をする。
「そうですか……ありがとうございます……」
「まあ健康で何よりです、両性の種族なんてこの区域にはいませんから、生体データを他所の区域から送って貰う必要がありましたけど」
「ご、ごめんなさい……」
少し嫌味っぽく看護師が裏事情を語る、アトーナはそれに対して謝ることしかできなかった。
………………
「全く、なんですのあの看護師は、命懸けで戦った者に対してあの態度なんて」
「ザハリナさん落ち着いてください、あの……僕は気にしてませんから」
「まあまあ姉さん、あんな忙しない状況じゃピリピリしてても仕方ないさ、僕たちの検査を先にしてもらっただけありがたいだろ?でも、確かにあんな態度取られるくらいなら後にしてもらった方が良かったし、ありがたくはなかったかもしれないな」
「相変わらずバリストくんってば、わけわかんないこと言うねー」
治療院を出てすぐ、アトーナへの対応の悪さにザハリナが怒りを露わにするが、それをアトーナとバリストが宥め、その際に出たバリストの要領を得ない言葉に、アドマースがケラケラと笑った。
「なんでもいいけどさー、今回初めて資料取り寄せたって事はさ、アトーナって今まで診察記録がなかったんだね、怪我して治療院で診てもらうとかなかったの?」
「僕は君たちみたいに治療費や蘇生費を賄えるほど稼げないから、なるべく怪我しないようにしてたんだよ、軽い怪我なら自分で治せるし」
「つまり……今まで大きな傷を負わずに一人で活動していたのか?その幼い身でそれはすごいな……」
「それだけ自衛出来るなんて、やはりわたくし達のパーティに入っていただきたいですわ、身を守る術に長けている後衛というだけでも能力として十分ですし」
プレシアからの疑問にアトーナが何気なく答えると、大きな損害を出さずに単独行動をしていたことをトーガス姉弟が驚きながら評価して、再び勧誘の話を持ち掛けてきた。
「え!?いえいえとんでもない!僕は一人だから状況整理が出来てただけです!皆さんの援護をしながら自衛なんて出来ませんよ!」
「そーそー、こんな雑魚にそんな器用なこと出来っこないって、それにさー、自衛を後衛に求めるのもどうかと思うよー?」
「それはどういう意味ですの?態度だけは大きいおチビさん?」
「だって、後衛自身に身を守らせるとかなんの為の前衛だってハナシ、要するに『自分たちは後衛もろくに守れない無能前衛です』って言ってるようなもんじゃん」
先ほどからプレシアのアトーナに対する態度が悪かったのもあってか、ザハリナがプレシアの言葉につっかかる、するとプレシアもザハリナの問いかけに歯に衣着せぬ物言いで返した。二人の間に最悪の空気が流れる。
「二人とも落ち着いて!……その、ありがたいお言葉ですが僕は皆さんのような実力者のパーティに入れる立場じゃないと思うんです、だから……」
「うーん、無理強いはしたくないし仕方ないな……」
バリストが残念そうな表情をしてそれ以上何も言わずに下がる、正直嬉しい申し出だったのを断ったことにアトーナは申し訳ない気持ちになったが、それでも身の程知らずの行動はしたくない彼は、押し黙ることしか出来ない。
そんな空気の中、アトーナの端末が鳴り出し、彼が画面を見るとそれは治療院からの連絡からの連絡だった。
「あっ!!しまった!」
「なによ、急にうるさいって」
「よく考えたら治療院を抜け出したんだった!なんでさっきの看護師さんは普通に帰したんだ!?」
そう叫んで踵を返すアトーナ。
「ごめんなさい!治療院に戻って謝らないと!」
「そんなの、端末で言っとけば……」「それは失礼だし、持ち物とか残ってるんだよ!すみません!僕はこれで!」
プレシアの呆れたような物言いに、ぶっきらぼうな返しをするとアトーナは治療院への道を駆けていった。
「忙しない子ですわね……」
「でもすっごいかわいい〜、男の子としても女の子としても可愛がれるし、ちょっとつまみ食いしてもいいかな〜」
「ちょっとアドマース、背中を割ってそのイカれた中身を綺麗に洗われたくなかったら、勝手にアトーナに近づかないでよ」
アドマースの発情顔を見て、プレシアが睨みながら鯖の処理のような事を言いながら警告する。
「冗談冗談、だってプレシアは……」
「もう黙ってて!」
アドマースが笑いながら何かを言おうとしたが、それをプレシアが必死に遮った。
「はぁ……全く皆さん元気のいいことで……」
ため息を吐きながらザハリナがそう呟いた。