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アイテムボックスに人は入れない。だったら蘇生するから死んでもらってもいいかな?

「今、なんとおっしゃいましたか……?」

「だから、アイテムボックスに入ってもらう」

「聞き間違いではないと……」


 この女騎士のミラは今回の魔王討伐RTAでは非常に重要な役割を担ってもらおうと思っている。

 そのため、ミラには今回の冒険にはついてきて貰う必要があるのだ。

 しかし、ケツワープやデスルーラと言った技術を利用して移動する際、ミラではついてくることができない。

 ミラの移動速度にあわせていたのでは、何週間ものタイムロスになってしまうだろう。


 そこで、ミラにはアイテムボックスに入ってもらうことにした。


「ミラ、オレは2日で魔王を倒すといったな」

「冗談ではなかったのですか?」

「本気だ。2日で魔王を倒すためには高速で移動する必要がある。しかし、それについてくるためには、オレのアイテムボックスに入ってもらう必要がある」

「え、しかし……アイテムボックスは生き物を入れることは出来ないのでは?」


 そのとおりだ。

 アイテムボックスは無生物しか入れることができない魔法である。

 だから、解決方法は一つしかない。


「ミラ、死んでくれ」

「ええ!?」

「死んでいれば生き物ではない。よって、アイテムボックスに入れることができるはずだ」

「正気ですか!? 魔族と戦って死ぬ覚悟はできていますが、まさか勇者様に死ねと言われるとは……」

「いや、大丈夫だ。アイテムボックスに保管したモノは時間が経過しないことは知っているな?」

「知っていますけど、それがどう関係あるのですか!」

「オレは蘇生魔法を使うことができる」


 蘇生魔法……それは死んだ人間を生き返らせる魔法だ。

 人間は死ぬと魂が抜けてしまうが、死んですぐの肉体に魂が残っている状態に限っては蘇生することができる。

 その猶予時間はだいたい30秒といったところか。

 もちろん、この魔法は魔力の消耗が大きく連発することができない。

 魔法使いの中でもごく限られた一部の人間や、勇者であるオレくらいにしか使うことは出来ないだろう。


「蘇生魔法……今の時代には使い手のいない高度な魔法と聞いています。本当に死者の蘇生が可能なのですか?」

「千年前に蘇生魔法は使うことが出来たから間違いなく使用できる。魔力の消耗が大きいから一日に4回程度が限度だろうが、死後すぐなら蘇生することができるだろう」

「なるほど……」

「だから、1日4回までは死んでも大丈夫だ。それに、アイテムボックスに保存している間は時間が経過しないから、死後すぐでなくても蘇生が可能になる。つまり、オレが生きている限り何度でも死んで大丈夫だ」

「…………」


 ミラが白い目でこちらを見ていた。


「それでも、さすがにアイテムボックスの中に入るために死ぬというのは……」


 明らかに嫌そうな顔をしているミラ。

 当然の反応だろう。

 しかし、ここで断られては困る。


「これは人類を救うために必要なことなんだ。ミラ、お前の力が必要だ」

「勇者様……」

「勇者とは人を救うためにその身すら犠牲にする必要がある。勇盟騎士団はその意志を継いでいると聞いた。世界を救うためには、絶対に必要なことなんだ」


 ミラの顔を見るともうひと押しという感じがするので、このまま続ける。


「魔王が生きていることで、多くの民の明日を生きる機会が奪われる。そんな暗澹たる世界の中で、勇者は希望であらねばならない。そのために力を貸してくれ。ミラ」

「……分かりました。勇者様がそこまで言うのであれば、私は命を賭けます。人類の未来を切り拓くためであれば、この身を捧げる覚悟はあります……!」

「よく言った。それでこそ勇者の意志を継ぐ者だ」


 この女騎士、チョロいな。

 だが、本当にこれは必要なことだ。

 ミラを連れていけるかどうかで魔王討伐RTAのクリアタイムが2時間は変わってくるだろう。

 四天王のうち1体を攻略するキーパーソンとなる予定だ。

 それに、アイテム集めといった雑用は自分でやるには無駄が大きすぎるからな。


 実際、ミラが素材を集めてくれている間に、蘇生魔法の実験を行っていた。

 そこら辺に居たネズミを魔法でショック死させて、アイテムボックスに30秒以上保管した後、取り出して蘇生魔法をかけてみる実験だ。

 結果として、ネズミは何事もなかったかのように動き始めた。

 つまり、人であっても死んですぐにアイテムボックスに保存しておけば、いつでも蘇生ができるというわけである。

 さすがにいきなり人でやるような真似はしない。


「よし、ミラの覚悟が決まったところで、今すぐ死んでもらうわけではない。必要になったら頼むとしよう。それでは、次に聖剣の名前を変えるぞ」

「ええ!? 聖剣の名前を!?」


 オレはアイテムボックスから聖剣アスティマ・ベルグレドを取り出す。


 以前説明した通り、聖剣アスティマ・ベルグレドには2つの機能がある。

 1つは魔力を吸い取って聖剣内部に貯蔵する機能。

 もう1つは名前を呼ぶことで活性化状態となり、次に魔法を使う際に聖剣内部の魔力を消費して魔法が使えるようになる機能だ。


 つまり、聖剣内部の魔力を使う際にはアスティマ・ベルグレドの名を呼ぶことが必要不可欠なのだが、冷静に考えてこの名前は長過ぎる。

 これでは、1回名前を呼ぶごとに1秒ほどのタイムロスが生まれるだろう。

 RTA的に考えてもロスだし、戦闘においても不利になるに違いない。

 そこで、聖剣の名前を変更することにしたのだ。


「ときにミラ。今の魔王の名前はなんというんだ?」

「魔王の名前ですか? 魔王はアトラ・マキシガイザーと名乗っています」

「ふむ、アトラか……」


 先程の理論で言えば、聖剣の名前は短ければ短いほどよい。

 しかし、あまりに短くしすぎてしまうと、発動させたくないタイミングで聖剣の機能を使用してしまいかねない。

 そこで……


「じゃあ、聖剣の名前はアトラに決定」

「えええええ!? 正気ですか!? 魔王の名前ですよ!?」


 聖剣アスティマ・ベルグレド改め、聖剣アトラだ。

 これで魔王との戦闘中、魔王の名前を呼ぶと同時に聖剣の機能を使用できる。

 不意打ちはもちろんのこと、相手に聖剣の機能の使用タイミングを悟られないようにできるだろう。


「聖剣アスティマ・ベルグレドは千年前から伝わる由緒正しき聖剣なのですよ! それをよりによって魔王の名前にしてしまうとは!」

「別に名前なんてどうでもいいだろう。オレだって千年前はフォルツだったが、今はロゼンと名乗っているぞ。名前なんて飾りに過ぎない」

「そういうものなのでしょうか……」

「名前は可能な限り短いほうがいいぞ。なんて言ったって、長いだけでタイムロスだからな」

「本当に勇者様は正気なのでしょうか……」


 よし、順調だ。

 勇盟騎士団に勇者と認められたおかげでスムーズに情報集めができた。

 四天王が拠点を構えている場所もわかったし、魔王城の場所も把握した。

 できるかわからなかった無の取得もできたし、聖剣の名前も変更した。

 ここまでに2日かかると思っていたが、1日で終わったのは僥倖だ。


 ふと外を見れば、すでに日は落ちて暗くなってきていた。


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