表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/12

勇者、高速移動するためにケツで滑ることを決意する

 さて、魔王討伐RTAを始める前に状況を整理しよう。


 もちろん一分一秒が惜しい状況ではあるが、あちらの世界のシミュレーション装置であるゲームと違ってこれは現実だ。

 何度もシミュレートして最適解を導き出すことは出来ない。

 一発でゲームクリアまでたどり着かなくてはいけないのだ。


「今の時代でのオレはただの孤児の少年か。転生とは生まれた時から記憶があるものかと思っていたが、まさか違うとは」


 今のオレは孤児の少年であり、名をロゼンといった。

 年齢は正確には分からないが十代前半であることは間違いないだろう。

 目つきの悪い黒髪の少年で、千年前とは結構顔つきが違うようだ。

 まあ、転生なのだから別人になって当たり前か。


 とはいえ、ロゼンとして生きてきた記憶が消えたわけでない。

 不意に忘れていたものを思い出す感覚で、勇者としての記憶を取り戻したのである。

 おそらく、転生する際に記憶が定着するまで時間がかかるとか色々あるんだろう。知らんけど。

 オレは勇者として多種多様な魔法を、多量の魔力を使うことで強引に実現できるが、さすがに転生の原理なぞ知る由もないからイメージだけで使用した。

 正直、転生魔法が成功したのは奇跡に近いかもしれない。

 死の間際でとっさにやったからこそ実現できた魔法で、もう一度同じ魔法を使えと言われてもできない可能性が高いだろう。


「かつては勇者として少なくとも宿には困らなかったものだが、今となってはこのガラクタに等しいあばら屋か……さすがに冷えるな」


 一応は家の形をしているが、隙間風はひどい。

 このあばら家はオレが近くの集落で不要になった木材の切れ端などを集めて、どうにか作った家である。

 中はオレが寝るくらいのスペースしかなく。かろうじて雨が防げるが、それだけだ。


 まぁ、最初のスタートとしてはこんなもんだろう。

 あの世界で見たゲームは、魔族の奴隷としてスタートするようなものもあった。

 それと比べれば、いくぶんかマシといえる。


「暖気の膜で体を温めよ”アッタメル”」


 オレは全身に温かい膜をまとう魔法を使って、寒さを凌ぐ。

 どうやら、魔法は問題なく使えるようだ。

 魔法は体内の魔力を使って使用するものだが、勇者であるオレは大量の魔力を保有している。

 記憶が戻ったことで魔力も当時の水準まで戻ったようだった。


 魔法とは、効果をイメージして使うことで強引にそれを実現する技術である。

 しかし、原理や効果を正確にイメージできればできるほど魔力の効率よく使用できるため、とんでもない無茶苦茶な魔法を実現することはできない。


 例えば「魔王を殺す魔法」をイメージして使用を試みることはできるが、どんな手段で殺すのかを明確にしないとまず発動できない。

 さらに、目の届く範囲であれば目標の指定は不要だが、遠くにいる対象を殺すとなれば位置を突き止める方法も明確にしなくてはならない。

 くわえて、イメージが大切であるために少しでもオレ自身が「それは無理だろ」と思ってしまえば、魔法は発動しない。

 これら制約が想像以上に厳しいため、魔法は思ったよりも万能な技術ではないのだ。


 なお、詠唱はイメージを補強するために使用しているだけで、別に必須ではない。


「ふむ、これなら寝られるだろう。記憶が戻ったことによる精神的な疲労および肉体的な疲れも残っている。作戦を練って明日から動くべきだな」


 RTAにおいて最も大切なのは早さだ。

 しかし、それと同時に正確性も求められる。

 一つのミスは大きなタイムロスに繋がるためだ。

 特にこのような長期にわたるRTAでは致命的なミスを避けなければならない。


「何をするにしても必要なものは情報だ。攻略チャートの構築を行うのが必要不可欠。そのために、明日の朝一番で首都へと向かうとしよう」


 今オレがいるのは辺境の集落であり、入ってくる情報も限りなく少ない。

 このままここにいては攻略チャートなどいつまで経っても構築不可能だ。

 攻略チャート構築はRTAのキモであり、本来はゲーム開始前に行うものであるが、オレの場合はそうもいかない。

 もちろん、千年の間にいくつかのパターンに分けて大雑把な攻略チャートを練ってはある。

 それでも情報を集めて、どんなルートを取るのが最適なのかを導き出さなくてはならない。

 無論、それだけでなく、ときにはアドリブでその場の状況に対処するというのも、RTAでは必須技術だ。


「首都まではそれなりに距離がある……。あの移動方法を試してみるか」


 RTAで学んだ高速移動法。


「ケツワープを!」


評価・ブックマークをよろしくお願いします!


今日中に4話まで投稿します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ