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四天王 "必殺"のヴァンディル

 というわけで、ケツワープで滑ること1時間。

 オレは“必殺”のヴァンディルの拠点であるバトローヤの街の外へとたどり着いていた。

 ここバトローヤはかつて闘技街として名を馳せた街であり、街の中心にある巨大なコロシアムが特徴である。

 十数年前に魔族に占領されてからは、ヴァンディルがコロシアムを改造して居城代わりとしているらしい。


「ヴァンディルの性格はとにかく好戦的で、力試しが大好きと聞いている」


 魔族は種族の幅が広いので、その知能にはばらつきがある。

 無論、上位の魔族であれば知能はそれなりに高く、人間と同等かそれ以上ということは知られていた。

 そもそも一定以上の知性を持つ魔族は普通に大陸統一言語を喋るしな。


 もちろん、対話ができるということであれば、魔族と和平を結ぼうと考えた時代もあったらしい。

 しかし、魔族は広い種族を内包しているからこそ、力という明確な指標を示さなくてはすべての者を納得させることは出来ない。

 圧倒的な強さで魔族をまとめあげる魔王のような存在がいなければ、そもそも魔族と和平を結ぶなどということは出来ないわけである。


 じゃあ魔王がいたら和平が結べるのかと言えば、人類に侵攻してきている相手が「はいそうですか」と和平を受け入れるはずはない。


 さて、”必殺”のヴァンディルの話に戻そう。


「ヴァンディルは十数年前にこのバトローヤを占拠した戦いでも、強者を見つけては一対一の力試しを仕掛けていたそうだ。コロシアムがある街を占領したのも、そういう気質あってのことなのかもな」


 魔族が内包する種族が広いということは、その価値観もまた様々であるということだ。

 “必殺”のヴァンディルは人狼と呼ばれている種族であり、戦いを至上の喜びとする。


「しかし、魔族が順調に領土を拡大したことでヴァンディルが前線に出る機会はなくなった。おそらくヴァンディルは戦いに飢えているだろう」


 ヴァンディルを相手に選んだのは、この性格が一番大きな要因である。

 四天王を倒す上で一番オレが困るのは、手下に任せて本人に隠れられることだ。

 これをされると大幅なタイムロスは免れられない。

 だが、ヴァンディルであれば簡単に釣り出すことができるだろう。


 となれば、オレがやるべきことは一つだ。


「すいませーん、勇者ですけどもー!」

「なっ!?」


 オレは堂々とバトローヤ外壁に配置された門番の魔族に向かって歩いていった。

 門番は2人おり、おそらく種族は悪魔かなんかだろうか。

 そうであれば、少なくとも会話は成立すると考えられる。


「四天王のヴァンディルがいるのはここだな」

「貴様、一人で来たというのか……!? 勇者と言ったか!?」

「千年前に相打ちになった勇者フォルツ、その生まれ変わりがオレだ」

「なっ……! にわかに信じられん。それにしても、なぜ、その勇者が平然と話しかけてきたのだ」

「いやなに、オレの目的は四天王のヴァンディルただ一人だ。別にいきなり暴れてもいいんだが……お前らにも家族がいるだろう……?」

「こいつ……ッ!」


 知能が一定以上の魔族であれば、ある程度人間と同程度の水準の生活を送っていることも多い。

 もちろん、中には人間と同様に家族や友人といった者が大切な魔族だっているだろう。

 特に人型に近ければ近いだけ同じような文化を持っていることが多いからな。


 勇者として我ながら酷いやり口だなとは思うが、オレは人類の勇者であって魔族の勇者ではない。

 目的達成のためであれば手段を選ぶつもりはない。

 それに、実際に手を下すような真似はしない。

 タイムロスだし。


「く……どちらにしてもヴァンディル様には報告せねばならない。そこで待っていろ!」


 そう言って1人の門番が門から離れていく。

 もう1人の門番はこちらを睨みながら見張っていた。


 待つこと数分、先程ヴァンディルに報告に行った門番が戻ってくる。


「勇者といったな。ヴァンディル様は貴様との決闘を所望だ。コロシアムまで案内する。通れ!」


 ギィィと音を立てて大きな門がゆっくりと開いていく。


 狙い通り、ヴァンディルの方から一騎打ちを申し込んできた。

 素性の知れぬ自称勇者ではダメかとも思ったが、それだけ戦いに飢えているということだろう。

 オレは門番たちの後ろについていくことにした。


「……もう少し速く歩かないか?」

「敵地だと言うのに余裕だな。ヴァンディル様の強さを知らないからそのような態度でいられるのだ」

「いや、余裕がなくなるから速く歩いてほしいんだが……」

「チッ……まあいい、ヴァンディル様も急いで連れてこいとのことだったしな」

「いっそ駆け足くらいで行かせてくれ」


 門番を急かしながらコロシアムへと向かう。

 こっちの事情も知らないでちんたら歩かないでほしい。


「ほら、ついたぞ」


 そんなことを考えて歩くこと十数分、コロシアムにようやくついた。

 目の前には外壁の門よりも立派な入り口がそびえていた。

 その周りにはここに住んでいるのであろう魔族たちがたくさん集まっており、様々な目線でこちらを見てざわついている。

 周囲はすでに暗いので正確な数は把握できないが、松明の灯りに照らされて見えるだけでもかなりの数がいた。


「おい、あれが勇者なのか?」

「ヴァンディル様が緊急の招集って言うからなにかと思ったが……勇者との決闘とはな」

「最近は暇だったから助かるぜ」

「しかし、一人でここまで来るとは命知らずにもほどがあるだろう」


 魔族たちはどうやらヴァンディルとオレの決闘を観戦する観客のようだ。


「オレはここに入ればいいのか?」

「いや違う。お前はあっちだ」


 そう言って門番が指さした先にあるのは、入り口とは対象的に小さな扉であった。


「あの扉は闘士たちの控室につながっている。控室に入って待機していろ。ヴァンディル様の準備ができ次第、反対側にある扉が開く手筈になっている。そしたら、コロシアムの中央に出てこい」

「わかった」

「本当は見張ってやりたいところだが、控室には闘士しか入れない掟となっている。控室には様々な武器が置かれているから好きなものを選んでおくといいさ。せいぜい震えて待つのだな」


 魔族の領地に一人やってきた勇者だと言うのに、ずいぶん至れり尽くせりだな。

 聞いている感じだとヴァンディルはあくまで正当な一騎打ちを行いたいということだろう。

 また、観客を集めていることから、おそらくこの決闘自体が魔族たちの娯楽となるのだ。

 決闘を娯楽として見るならば公平性というのは必要不可欠だからな。


 オレは扉を開けて控室へと向かう。

 控室は簡素な作りで、いくつもの武器が用意されていた。

 特に使う予定はないが、一応確認しておくと……


「盾はここで入手することが出来たのか。わざわざ騎士団から拝借してきたのだが、それだったらタイムロスだったか。まぁ、知る由もないし仕方ないが」


 壁には盾がかかっていた。

 ヴァンディル攻略の鍵となる装備、それが盾だ。

 オレはせっかくなので壁にかかっている盾を持っていくことにする。


 待つことそのまま数分、ついにコロシアム中央へと通じる扉が開かれた。


「それにしても移動時間や待つ時間というのは本当に無駄だな。ヴァンディルとの決闘は1分で終わらせる」


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