表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】ダンジョン大国 日本〜引きニートの俺は部屋を出て危険なダンジョン風の現実を攻略する〜  作者: 坂東太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

セカンドアタック/帰還


=== ダンジョン第二階層〜拠点 ===


 秘宝を包む袋をカサカサと鳴らして、カズヤは帰路を歩いた。

 往路であれほど警戒したダンジョン第三階層を、夢見心地のままに。


 グレイのパーカーに、裾が絞られた黒いズボン、つば付きのキャップにスニーカーという姿は、ダンジョンに挑む勇者の正装の一種だ。

 これに秘宝入りの白い袋とテイムしたモンスターが加われば、モンスターから疑われることもない。

 あ、犬の散歩ついでに、昼時で混む前にコンビニ行ってきたんすね。俺も早めに行こうかなー、などと思われるだけだ。


 何事もなく、モンスターの記憶に残ることも、ふわふわしてるカズヤ自身の記憶に残ることもなく、カズヤはあっさりダンジョン第二階層の頑丈な鉄扉の前にたどり着いた。

 ひょっとしたら、それはカズヤではなく誘導したハス美のファインプレーなのかもしれない。


 出がけに勇気を振り絞って開けた扉を、カズヤはあっけなく開けた。

 第二階層に戻る。

 ハス美がするりと隙間を抜けて、カズヤは後ろ手でガチャリと鉄扉を閉める。


 時間にして1時間45分。

 普通に歩いて片道一時間弱かかることを考えればいいペースだったと言えるだろう。


 長い長い旅は終わった。


 拠点はまだ先だが、ここ二週間の特訓と探索で、ダンジョン第二階層と第一階層は勝手知ったるものだ。実家だし。


 緊張の糸が解けたのか、勇者カズヤは第二階層の段差にどかっと座り込んだ。

 袋越しに木の床に当たった金属筒がガコッと音を立てる。

 気にすることなくカズヤは腰を曲げた。

 足の装備を外すためではない。

 両手で頭を抱える。

 頭皮にチクリと痛みが走る。


 ゆっくり右手を下ろして手を開く。


 勇者の証。


 カズヤは帰路の間ずっと、小さな金属片を握りしめていたらしい。


 ダンジョン最深部を攻略した勇者に与えられる、真の勇者の証。

 離すまいと、カズヤはふたたび手を閉じた。

 拳ごと額に押し当てる。

 嗚咽が漏れる。


 一緒にダンジョンを攻略したハス美は、しばらくカズヤに寄り添っていた。

 カズヤに温もりを与えて、手や頬をペロペロ舐めて。

 やがて、待ちきれなくなったのかハス美がガサゴソ袋を漁る。


 中身を確かめたのち、リードを咥えてカズヤを見つめる。

 もーカズヤったら、ハス美のオヤツわすれてるよ? とでも言っているのか。さっきまでの優しさはなんだったのか。


 行かないよ、とばかりに、カズヤがそっとハス美に触れた。


「ありがとな、ハス美。また今度な」


 絞り出すように言ってハス美を抱きしめる。

 引きこもって交流のなかった期間を越えて、一緒に育った時期を取り戻すかのように。


 ハス美を抱きしめて、背後からさらなるモンスターの足音が聞こえてきても、カズヤは振り返らなかった。振り返れなかった。



 モンスターの()がグレイのパーカーの背をさする。



 それはまるで、泣いた子をなだめるようで。



「ただいま、母ちゃん(・・・・)



 嗚咽まじりで、勇者カズヤが帰還を告げる。



「おかえり、カズヤ」



 勇者の帰還を讃える声は、大歓声ではなく、たった一人の涙声だった。

 ダンジョン第一階層と第二階層を住処とするモンスターの。母親の。




 こうして。


 勇者カズヤの最初の冒険(・・・・・)は終わった。


 だがカズヤの冒険は、ダンジョン攻略はこれで終わりではない。

 これからカズヤは「真の勇者」としてダンジョンに挑んでいくことだろう。

 ダンジョン第一階層と第二階層のモンスターはサポートキャラとなって、拠点は第二階層まで広がって。


 ダンジョン攻略に終わりはない。


 けれど、いまは。



“ただいまお前ら! 勇者の証を手に入れたぞぉぉぉぉおおおおお!!!!”


(自称)陽キャ勇者:おおおおおおお!

真の勇者08:おめでとうテイマー勇者!

脳筋勇者:訓練の成果だな! 筋肉は裏切らない!

犬好き勇者:満場一致でMVPはハス美!

かませ勇者A:けっ、俺ァよ、お前はいつかやると思ってたぜテイマー勇者

かませ勇者B:おいおい、俺らもう抜かされてんぞ?

自宅警備員X:負けてられるか! 俺も攻略するぞ!

ベテラン勇者LV.1:落ち着け勇者。急いては事を仕損ずるだけだ。ダンジョンはそれほど甘くない

脳筋勇者:やっぱ地道な下調べと訓練だよなあ。俺ちょっとスクワットしてくる

勇者足踏中:第三階層の壁は高かっ……え? なになに? また真の勇者?

名無しの勇者:俺もテイマー目指そうかな

雪国勇者:おめでとう、勇者よ!

真の勇者17:次なる冒険が勇者を待つ。だがいまは栄誉を誇って休むといい

仮免勇者:そうそう、禁薬とおにぎ……携帯食料でね!

名無しの勇者:禁薬な時点で休めない件。ところで飛躍の書は? 今週の狩り狩りどうなった?

先輩風勇者:はあ、やっぱがんばったのを知ってるとクルものがあるな。俺もがんばろう

冷やかし勇者:カオスぅ

新人勇者:あの、相談していいですか? ボク最近勇者になったんですけど



 いまは、勇者たちと、サポートキャラ(母親)と、テイムしたモンスター(ハス美)と、ここにはいないサポートキャラ(父親と姉)と、よくわかっていない小型モンスター(甥っ子)からの喝采を一身に浴びるといい。



 勇者カズヤは、ダンジョン最深部を攻略するという偉業を成し遂げたのだから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ