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辺境陰謀編その8

 ここで、カイルがこの辺境の地で、どのような絵図を描いて冒険者ギルドの旗揚げを企図したか整理しよう。

 初めから、カイルの視野は広い。

 冒険者ギルドの存在を、人族領の隅々まで行きわたらせたいと考えていて、このイリアス王国だけでなく、国境すら超えて影響力を持つまでを計画していた。

 しかし無論、それはたやすい事ではない。

 自分でも笑いたくなるほど、夢物語に近い話だ。

 その冒険者ギルドの旗揚げにイリアス王国の辺境の地を選んだのは、知名度のない状況で、まず確かな実績を作るため。そしてそのためには、冒険者ギルドを妨害しえる他勢力の攻撃を受けづらい場所を選んだからだった。

 冒険者ギルド。

 カイルが作った新しい概念ではあるものの、その実情は武力を商品とした者同士の相互互助組織だ。

 同じ武力を売る民間組織という点では傭兵と変わりはないし、そもそも貴族や騎士、兵士といった諸国の軍事力は、傭兵などよりもはるかに敵に回すと厄介な同業他者である。

 それらの目をかいくぐって地盤を築く場所として、あえて片田舎である政治的に不安定なイリアス王国の辺境を選んだ。

 この土地は商業的にも政治的にも見放された土地だ。国王であるアズートには発展を望まれておらず、他国の者も注意を払っていない。

 冒険者ギルドが介入することで副次的に発展して一時的な特需が生まれたものの、それで冒険者ギルドの財政が潤ったかと言えば焼石に水。

 商業的に言えば、冒険者ギルドがやったことは慈善事業に近い範疇である。

 だが冒険者ギルドは一定の実績を上げた。これは紛れもない事実だ。

 そしてそのことが新たな風を生む。

 辺境の地を治めていたのは、アズート王に疎まれた腹違いの弟マグヌス公。

 アズート王は、この弟に手柄を与えないために辺境の地の開拓を任せて、そして反抗できないように満足な兵力を与えなかった。

 しかし冒険者ギルドが代わりに事実的な兵力となることで辺境の魔物たちの駆逐が進み、結果として辺境の地の開拓が進んだ。

 もちろん、マグヌス公とカイルに直接のつながりがないことは散々強調した通り。

 だが他者から見れば、無関係とは映らない。

 冒険者ギルドを詳しく調べれば調べるほど、冒険者ギルドがやっていることに実利らしい実利が見当たらないためだ。

 カイルは、このアズート王の関心が生まれる機会を待っていた。

 なんら面識のない元傭兵に過ぎない自分が、一足飛びに一国の王に面識を得る機会として選んだのが、この辺境の地だったのだ。

 しかしカイルはマグヌス公の子飼いではないし、アズート王と話をつけ許可を得たとて彼らの駒に甘んじるつもりもなかった。

 初めに語った通り、『冒険者』という概念を世の中に広めるためには、イリアス王国一国に留まるわけにはいかず、そのためにあくまで国政とは提携しつつも、独立を維持した絶妙な距離感を保ち続けなければならないのだ。

 そのために、『戦場の鷹』の来襲が来ても、カイルは決して自分からはマグヌス公の手助けを要請せず、独力での解決を目指した。

 それですべてが計画通りにいったかと言えば、はっきり言えば異なる。

 居合という奇策を用いることでビクトールとの決闘に勝利できたのは僥倖だが、結局はローグに介入され命を救われることとなった。これでは完全な独立とは言えないだろう。

 そして、ローグともども、まるで罪人の告訴のように、王都に連れられてアズート王に弁明しろという。

 想定ではもっと状況を整え、そしてマグヌス公とも口裏を合わせるつもりだった。

 しかしカイルがマグヌス公との会談を保留にしたことでその時期を失った。

 今のマグヌス公からすれば、兄王からの糾弾を受けたとしても、部下のローグとカイルが勝手にやったこととして、冒険者ギルドが呼び込んだ"風"、彼にとっては騒動を、なかったことに出来る。


(状況は、何も好転してはいない)


 身動きのできぬままに審問台に立たされる、窮地といってもいい状況だ。

 しかしこういう窮地にこそ、活路を見いだせることをカイルは知っている。

 彼が『青十字盾』で呼ばれるようになった真骨頂──それは窮地で見せる一瞬の閃き。

 すなわち、カウンターだからだ。


(この程度の苦難、俺にとってただの前座に過ぎない)


 彼が描いた夢想は、この程度の困難を幾たびも繰り返して、初めて成せる偉業なのだから。

 例えでは絞首台に送られるにも近しい状況でありながら、カイルの内面は水鏡のように落ち着いていた。






(わからん男だ)


 この段にあっても、ついぞマグヌスはカイルという男を測り兼ねていた。

 彼の心中を知らないマグヌスは、『市井から勇者を輩出する』冒険者ギルドの事業をカイルがどれほどの覚悟で望んでいるか知らない。

 なぜかたくなに、自分たちの助力を拒んで独力での解決を目指すかわからぬのだ。

 そしてこの段。

 扱い上は罪人というわけでもなく、特に拘束せずに護送用の馬車に乗せているが、このままでは絞首台送りになる可能性とてないわけではない。

 マグヌスはカイルに、説明不要と思いながらも、自分が兄王に睨まれている立場であること、そして冒険者ギルドが自分の私兵と疑われて反乱の嫌疑をかけられていることを説明し、これから王都でアズート王に自分たちの身の潔白の申し開きをしなければいけないと言った。

 カイルの覚悟をうながす意味もあったし、マグヌスとしてもカイルと口裏を合わせたい意味があった。

 まさかとは思うが、カイルとて反乱など考えていないだろう。それなら2人で口裏を合わせて、兄王の誤解をとく妙策を考えた方がいい。

 ところが、マグヌスの説明を受けたカイルは、しっかりとうなずいて知っていると指し示しながら、戦場に赴く烈士のような顔でこう言った。


「マグヌス様。最初に話した時がきたようです」

「時? 何の話だ?」

「私がこの辺境の地に来たばかりのころに、館まで挨拶に出向いたでしょう。その時にお願いしました。時が来た時にご決断ください。私たちの活動を見て、不要とあらば切って捨て。しかし、もし辺境に光明をもたらすものとあらば、状況をよく見て判断してください、と」

(この段にあって、腹の内を明かさぬか)


 マグヌスは、カイルという男が理解できないことを、()に落ちた。

 この男は、余人では理解できない思考をまとわりつかせている。


「……私は、国を割るのは本意ではない。決して反乱の意思などないことを、陛下に抗弁するつもりだ。その結果として、陛下がもし冒険者ギルドの解散を命じたなら、私は臣下としてそれに従うだろう。よいのだな」

「陛下への弁明の機会は頂けるのでしょう。その時に、アズート陛下を説得して見せます」

(わからん男だ)


 それならこの時間のある間に、マグヌスだけでも説得して味方につけ、弁護をさせればいいのにと思うのだが、カイルは易易泰然として、模範囚のように沈黙を保つのみ。

 この時のカイルの心境を語るのなら、


(小手先の口裏合わせよりも、瞬発力が大事)


 と期していた。


(陛下も、そしてマグヌス様も、俺の冒険者ギルドの理念など、その高みの視点では(はな)から理解できぬものだろう。これを納得させるのには、万の言葉よりも、瞬発力が大事)

(弁明の場で、即興の言葉を用いて説得する。マグヌス様の協力など必要ない。その場で、一緒に説得する)

(俺が辺境で蒔いた種。あとは"風"を起こせるかどうかだ)







 カイルが馬車に乗せられ王都に護送されるのと、ちょうど行き違いの形になって辺境に駆け戻ってきたのは、サーニャだった。

 彼女は文の通りに、カイルとビクトールが決闘をしたこと、そしてそれにカイルが勝利したことを知る。

 一度は安堵したサーニャだが、代わりに王都まで護送され、アズート陛下に申し開きをしなければならないという。

 辺境の人々は、これに関しては楽観視していた。彼らはある意味、自分たちが『田舎者』であることを理解していた。自分たちが反乱など企てる理由もないし、冒険者ギルドやマグヌス公が反乱を企てて活動していたとも思えない。

 どうせ陛下の杞憂(きゆう)で、話し合いの末に元の日常に戻るだろう、とほぼ全員が思っていた。

 しかしカイルの企みを知るサーニャだから、カイルがそこで何かもっと危険なことをやりかねないだろうと、察知していた。

 サブマスターという自分の立場。カイルの意思を汲み取れば、この場は辺境に残って、彼の留守を預かるべきだとはわかる。

 しかしサーニャは、それよりも自分の心を選んだ。

 ギルドの厩舎を預かる職員に、引き締めた表情で言う。


「私も王都にむかいます。代わりの馬を」

「え? ここまで飛ばしてきたのでしょう? 一旦休養して……」

「わかったわ、サーニャちゃん」


 異論を挟もうとする職員を制して、シスターシャが訳知り顔で言った。


「マスターとサブマスターの留守を、ギルドメンバー一同で守ります。どうか、マスターを頼みます」

「はい……。すみません。お願いします」


 ぺこりとお辞儀をすると、サーニャは毅然(きぜん)とした顔で、代わりの馬に騎乗をした。

 青い制服もあって、見送る者の目からすれば男装の騎士のようにも見えた。





 一方、そのころ、イリアス王国の宮廷。

 先立ってマグヌス公よりの文が宮廷には到着し、冒険者ギルドの代表者を連れて弁明しに来ると言う内容が知れ渡っていた。

 これに当たって、多くの者は胸を撫でおろした。


(やはり、国を割るような事はないのならない方がいい)


 まさか面とむかって宣戦布告をしにくるわけでもあるまい。

 マグヌス公に反乱の意図があれば、わざわざ王都まで弁明に来ることはないだろう。

 王都に来る時点で、やはりマグヌス公に反乱の意図はない、と多くの者が納得したのだった。

 そうなると、それまでどこかぴりぴりと張り詰めていた宮廷の空間も弛緩し、肩透かしを食らったような休閑(きゅうかん)の空気に包まれていた。

 中にはこの機会に伸し上がってやる──と機会を伺っていた者もいるが、マグヌス公にその気がなければ実現はしないことは重々承知だし、やはり内乱は国力を削ぎ他国や魔物の跳梁(ちょうりょう)を許すことを考えると、これも悪くない帰結だった。

 何よりも胸を撫でおろしたのは、この男。

 現王アズートの叔父、ロンダル伯で知られるオズワルド・F・ロンダルだった。


(一時はどうにかなるかと思ったが)


 語り掛けてくる他の貴族たちに取り(つくろ)った笑顔で応対をする彼も、内心は冷や汗をかいていた身だ。

 戦場の鷹の背後にいたのは、彼である。正確に言うと彼の子飼いのシンパに代理役をやらせ、その人物がさらに別な人間を間に立てて『戦場の鷹』に資金の援助をしていた。

 誰かが『戦場の鷹』の背後を洗ってもどこかで尻尾切りをされる公算である。

 冒険者ギルドの営業を妨害する。

 マグヌスの近侍の者にあらかじめ間者を忍び込ませていたオズワルドだから、マグヌスの出方もある程度予想できた。

 冒険者ギルドがマグヌスに泣きついたとしても、マグヌスが取り合わず冒険者ギルドは潰える目算が大きかった。

 例えマグヌスが冒険者ギルドを庇護しようとしたとしても、それで特段悪いことはない。

 両者のつながりが明らかになれば、その点を追及することができ、今の荒れる宮廷の陣容に白黒つけて、アズートとマグヌスの主従関係をはっきりとすることができる。


(一抹の不安として、冒険者ギルドをきっかけとして、マグヌスが兄王への反逆を決める、というシナリオも恐れてはいたが)


 頭の片隅によぎらない話ではなかったが、しかし間者たちの話からして、マグヌスはそのように浅慮(せんりょ)な人物ではないと思っていた。

 その冒険者ギルドが、独力で『戦場の鷹』と対抗したというのは予想外であったが──マグヌスはオズワルドの読み通り、兄王への服従の道を選んだようだ。


(思えばその点では、似た兄弟かもしれんな)


 ふとそう思い立って、オズワルドは玉座に深々と腰をおろして沈黙するアズート王を見た。

 叔父として、そして臣下の立場からすれば、とにかく聞き分けのいい、と評せる相手だった。

 愚鈍というほどでもないが、取り立てて優秀というわけでもない。独断を強硬に推し進めようとする独裁性はなく、臣下の意見を率直に聞く。

 あまりに聞き分けのいいものだから、現状、オズワルド一派の傀儡(かいらい)に近い存在になっている。

 その現状に抗わぬ従順さが、マグヌスもアズートも似ているかもしれないと皮肉気に思ったのだ。


(しかし、それが愚かだとは思わん。人にはそれぞれ器がある)


 オズワルドもオズワルドなりに、考え悩み抜いた末の最善の策を訴状にしているにすぎない。

 他の派閥の人間や皮肉気な人間は、先王と比較してそのアズートの姿を情けないと言ったり、オズワルドを奸臣のように言う。そう言うのなら、自分をうならせるような妙策を口にしてみせよ、と怒鳴りたい気持ちを抑えて、オズワルドは鷹揚に余裕があるように振る舞っていた。

 もしアズートが聞き分けなく、臣下の言葉を無視して独断で政治を進めたり、それらしいことを言う者の言うことを全て聞いていったら、国政はとんでもないことになるだろう。

 アズートの従順さは、ある種の賢明さだとオズワルドは思っていた。


(はてさて何の戯曲だったが。人は自然と与えられた器にふさわしい仮面を被る、とは)


 そのような物語を耳にした覚えがある。

 本人が生まれついての立場、つけられた役職、そういった器──役割を演じている内に自然とふさわしい仮面を身に着けていくというような内容だったはずだ。

 凡庸な自分が大貴族として生まれた以上は、凡庸ながら無い知恵をひねって国の舵取りをせねばらないように、同じく凡庸なアズートは王として臣下たちが目で見、耳で聞いたことを信じて、よりよく取り計らうしかない。

 いかに兄王より才覚で秀でていたとしても、マグヌスは妾腹の立場であれば、兄王の忠臣として振る舞う必要がある。

 器を気に入らないと誰かがエゴを振り回してしまえば──それぞれの立場が重大だからこそ、本人だけの問題にとどまらず、大きな災禍を呼び込むことになる。


(これが、もっとも賢い帰結だ)


 と、オズワルドは満足げに(ひた)っていた。

 賞賛していたのは、マグヌスに対してでもある。彼の賢明さが、国の内乱を救ったとも思っていた。

 姉であるマリーネの存在が無ければ、彼とはもっと違う付き合い方もできただろうに、と思う。

 この時オズワルドは、事態はこれで終いだろうと思い、後は後始末をどう片付けるか、という算段に心の中は移っていた。

 この時ただの一介の元傭兵が、一国への反乱よりも壮大な野望を抱いてやってくるのだとは、露とも思っていなかったのである。





「カイル、お前には何か企みがあるのだろう?」


 護送用の馬車の中、カイルと2人、押し込まれたような状況にあるローグが言ったのは、王都の城壁が目前へと迫ってきたころだった。


「お前さんの横顔、日増しに凄みが増してきているぜ」


 そう言うローグも覚悟を決めたように、白い歯を見せながら、目だけは戦のただ中のように爛々と輝いている。


「今さら、深くは聞かねぇ。たぶん、お前が企んでいることは俺には理解できないから話さないのだろう」


 ローグはそう言うと、視線を馬車の窓の外へとむけた。


「腹の内を、思うままにぶちまけてやろうぜ。あの城壁の中でぬくぬくとたかをくくっている奴らにな」

「ローグ殿。すまないと思っている」


 突然と言えば突然の謝罪に、ローグは不思議そうな顔をした。


「私は、最初からこの状況を予見していた。最初から、あなたを利用して、巻き込むつもりだった」

「はっはっは。何を言っている。お互いを利用しようとしていたのは、お互い様の話さ」


 ローグは闊達に笑うと、カイルの肩を叩いた。


「一丁、派手にやってやろうぜ。俺たちの戦争(ケンカ)をな」





 カイルとローグを含んだマグヌス一行が王都についたのに少し遅れて、単身馬に乗ったサーニャも王都にたどり着いた。

 しかしサーニャが王都にたどり着いた時、マグヌスたちは既に来客用の別館に移動していて、半ば軟禁に近い状況で、国王アズートの面会の時間を待っていた。

 当然、サーニャが王城などに訪れて、見張りの門番などに会わせてくれと訴えても、まともにとりあってもらえず追い払われた。


(どうしよう……)


 追い返されたサーニャは途方にくれた。

 マグヌス達やカイルが今どこにいるのか、どういう状況なのかも知れない。

 冒険者ギルドのサブマスターという肩書も、この王都ではなんら意味をなさない。

 そしてサーニャの疲労は限界に達していた。ぎりぎりまで睡眠時間を削って馬を飛ばしたせいで、意識が朦朧とし、頭も働かない。ふと、店舗のガラスに映り込んだ自分の姿を見ると、青い制服は埃に塗れ、髪はちぢれて顔色が悪く、そこらの浮浪者のような姿をしていた。


(……一旦、宿をとって仮眠しよう)


 疲れがとれて脳がリフレッシュすれば、また何かいい考えが浮かぶかもしれない。

 サーニャがそう思った時に、目の前を球が跳ねながら転がった。遅れて横の辻から、それを追いかける少年が横ぎった。

 転がる球は、大通りの真ん中の馬車道まで飛び出した。

 少年は転がる球を追いかけるのに夢中で、他に目がいっていない様子である。そして間の悪いことに、速度ののった馬車が迫っていた。


「危ない!!」


 馬車にひかれれば子どもなどひとたまりもない。

 思わず飛び出したサーニャだが、突き飛ばすのも間に合わず、せめても覆いかぶさるようにかばうことしかできなかった。

 馬のいななきが耳に響き、サーニャは自らが轢かれるのを覚悟した。そのために、張り詰めた神経がふるりと立ち消え、自分が死んだと錯覚したかのように失神してしまった。

 結論を言うと、御者が咄嗟に馬の手綱を引き絞ることで馬車は急停車し、間一髪、サーニャと抱え込んだ少年は無事だった。

 2人の無事を確認しようと降りてきた御者は、目をぱちくりとする少年を抱え込んだまま、失神したサーニャを見つけて、どうしたものかと困った顔をする。


「何があったの?」


 そこに降りかかってきた声は、馬車の客車から顔を出した主人である。

 御者がかしこまって言った。


「お騒がせしてすみません奥様。それが馬車の目の前に、子どもが飛び込んできたもので」

「まぁ……無事なの?」

「はい。当たる前に馬は止まったはず……なのですが」

「どうかしたの?」

「その……当たってはないようですが、気を失ってしまったようで」

「そう。なんにしろ見捨てておけないわ。後宮に連れて行って、医者に診てもらいましょう」

「はぁ……」


 サーニャを気遣う主人の言葉に御者は気乗りしない風であったが、主人の指示を断ることもできない様子で、気絶したサーニャを抱えた。

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