僕の婚約者は素敵な人です
『聖女さんは追放されたい!~王家を支えていた宮廷聖女、代わりが出来たとクビにされるが、なぜか王家で病が蔓延!えっ、今更戻って来い?一般の大勢の方々の病を治すのが先決なので無理です』
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僕の名はケイン。この国の第一王子だ。
人は皆、僕のことを羨ましいと言う。
どうやら、僕は人に比べて少し顔が良くて、剣の腕も立つらしい。父上に言わせれば頭脳も明晰なのだそうだ。
でも、僕はそんな自分の人生を、幼い頃に知り、そして絶望した。
将来王となる僕に自由はなく、同年代の友達もいない。近寄ってくる人間は多かったが、それが下心があって近寄って来た者たちだということは、徐々に分かった。
こういうことに気づかなければ、もしかしたらもっと気楽に生きていけたかもしれないが、僕はそういうのが分かってしまう人間だったから、余計に苦しんだんだと思う。
ところで、これは過去形だ。
なぜか?
それは、僕には世界で一番素敵な婚約者であるビルバーク公爵家のルナ令嬢だ。
第一王子の僕に恋愛の自由などあるわけがない。僕はあくまでこの国のための部品であり、絶対に壊れてはいけない歯車なんだ。
だから結婚相手も慎重に慎重を期して選ばれた。政略結婚だが、そんなのは当然で、もし勝手に結婚相手など探し出して来でもしたら、国はおおいに荒れるだろう。
なので、相手が有力なビルバーク公爵家の長女ルナ令嬢になったのは、まったくもって当然の結果だった。
そして当然、僕に恋愛感情はなかった。
そして、それは相手もそうだろう。もしかすると、彼女もまた、他の女性と同様に、僕の権力や財力が目当てかもしれない。
だが、昨今の干ばつや、我が国ではないが、他の国では戦争が起こったりもしていて、我が国の経済にも大きな影を落としていた。
もしかすると、大して贅沢も出来ないと文句ばかり言われるかもしれない。そんなことを考えたりもしたのだった。
しかし。
僕は彼女のことをどれほど侮っていたかを思い知ることになる。
そして、同時に自分すらも、なんと傲慢だったのかと、彼女のことを知れば知るほど。惹かれれば惹かれるほど、思い知ることになるのだった。
ああ。
彼女こそが僕の求めていた唯一の女性だった。
彼女という星を見ていられれば、僕の人生はそれだけで素晴らしいものだと思うほどに、素敵な人だったのである。
まず初対面からして違った。
僕は最初、まったく自分の婚約者ルナ令嬢に興味はなかった。
その日は初顔合わせだというのに、まぁ短時間顔見せさえしたら、後は引き上げようと思っていたのである。どうせつまらないおべんちゃらを言われるだけだろうと思って。どうせ何があろうと、この結婚がなくなったりすることはないのだから。
しかし。
「何をしているんだい?」
僕は目を疑った。そして、次に耳を疑った。
「何って、掃除ですわ。殿下。ほら、このメイド服似合っているでしょう?」
そう言って、彼女は使用人の服をなんの頓着もなく着用し、その上自分の部屋を自分で掃除していたのだ。
ちゃんと雑巾をしぼり、床をみがき、窓を磨いていた。
「いい天気ですからね。布団も干そうと思っているんですよ。本当に良いお天気ですわ」
「天気?」
僕は何だか初めて天気のことなど気にしたと思った。
そうか。今日は晴れだったんだ。そんなことに今さら気づいたのである。どれほど僕は周りを見てるようで見てなかったのだろう。
そして、改めて前を向いて、もう一度驚かされた。
窓から差し込む陽光は、この部屋を。そして何より彼女を美しく照らしていた。
その光景に、なぜかドキドキと胸が早鐘をうつような気がした。
今まで灰色に色あせていた世界が、急に太陽に照らしだされて色づき始めたような。そんな不思議な感覚だったのである。
「ルナ令嬢はいつもこんなことをしているんですか?」
僕は何気なく聞く。すると、ルナ令嬢の言葉はまたしても意外なものだった。
「こんなことって……。これだから偉い方は困りますわ。誰が毎日王子のお部屋を奇麗にされていると思っていますの? きっと他の方が王子が毎日暮らしやすいように、幸せでありますようにと、朝の眠い中、もっと眠っていたい中を起きて、冷たい水に手を震わせながら雑巾をしぼって、拭き掃除をして、シンとした冷たいお城の床を拭き、ベッドを洗って干して埃をはらって取り込んでいるのですわよ?」
「!」
確かにそうだ。と僕は思った。
僕は王子で、何かをしてもらうのが当たり前だと思っていた。
食事が出るのも、奇麗な天蓋つきのベッドで眠るのも、部屋が常に清潔であるのも当然のことだと思っていたのだ。
でも、それが当たり前のことではないのだと、目の前のルナ令嬢が身をもって教えてくれた。
本当は全部やって当たり前なのだ。
もちろん、公務があるし、仕事もある。だからすべてをやることは本当は難しいだろう。でもそれを代わりにやってくれる人がいるのだ。お給金は出しているが、それは元々民から集めた税金だ。それを何の疑問もなく使用していた。だが、そこに本来は感謝するべきなんじゃないのか?
何より、ルナ令嬢のように、自分で布団を干そうと思ったことや、自分で床を磨こう、ゴミを拾おうとしたことがあっただろうか?
僕は自分で出来ることなどない、などとうそぶいていた。
だが、彼女だって公爵令嬢で自由何て本当はないはずなのだ。
だというのに、彼女は自分がすべきだと思ったことを、出来る範囲でやっているじゃないか!
僕は自分が今まで言い訳を重ねて来ただけなのだと、初めて理解したのだった。
そして、彼女に大きな興味を持つ。
彼女の見ている景色はきっと美しい。
僕は今日の天気すら気づかなかった。
布団や洗濯ものを干したら気持ちの良い日だなんて、考えもつかなかった。
こんなに世界が美しいなんて。そしてそれに照らされた彼女がキラキラとしているなんて……。
だが、彼女は違う。
そんな小さな日常の変化に心を弾ませられる、とても素敵な目を持った女性なのだ。彼女の見ている風景を自分も見てみたい。
ただ、そう自分の考えがまとまったのは、お城に戻ってからのこと。
彼女との最初の出会いは、僕が彼女の行動をぽかんと見守るような感じになってしまったように思う。
なんてことだろう。
今まで他人に興味を抱いたり、何気ない会話をすることを怠ってきたせいで、彼女との会話をすることが出来なかったのだ。
今度こそ彼女ともっとたくさんの話をしてみたい。
そんな風に僕は思ったのだった。
そして、そんな風に思う僕のこの心の昂りがなんなのか、まだこの時の僕は分かってはいなかったのである。
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