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テーマ詩集:こそあど

そいつはしょうがねえ

作者: 歌川 詩季

 しょうがないんです。

 雨が降ってきちまった

 (かばん)を濡らしたくないのに

 雨ってのは降るもんさ

 そいつはしょうがねえ


 バスは行っちまった

 いつもなら 5分は遅れてくるから

 きょうもまにあうとおもったんだけど

 そいつはしょうがねえ


 なんだか ごたつく一日に

 昼休みまで もってかれちまって

 きようこそ 蕎麦(そば)にしたかったんだが

 食いにいく時間はねえようだ

 (かばん)の底の チョコバーがなけりゃ

 午後から やばいことになってたな

 そいつはしょうがねえ


 ああ しょうがねえ

 そいつはしょうがねえ



 すきっぱらと 蕎麦(そば)への未練をかかえて

 午後は 第三会議室

 資料室からはエレベーターが遠いから

 段ボールを積んで 階段を3フロアぶんのぼる

 そいつはしょうがねえ


 うえに積んだほうの 段ボールがすべって

 あわや こいつは大惨事!

 壁におしつけるようにして

 なんとか ことなきをえたけど

 ひっくりかえして ぶちまけちまってたら

 なんとも ひどいことになってたぞ

 そいつはしょうがねえ


 ふさがったままの両腕じゃ

 冷や汗もふけやしねえなと

 ひざにのっけて バランスをなんとかする

 だめだなこりゃ

 踊り場までなんとか もちこたえて

 いったん どすんと置いちまうか

 そいつはしょうがねえ


 踊り場まであと何段だろうと

 見あげたおれに 救いのひとこえ


「手伝おっか?」

 

 いらねえよ このくらい

 つよがってみせりゃ かっこもつくんだろうが

 そいつはしょうがねえ


 積んでいちどに運ぼうとしたおれを

 横着だと笑いながら

 うえの段ボールをかかえてくれる あんたに

 かえすことばもないけど

 そいつはしょうがねえ


 ちっちゃい段ボールをかかえながら

 5段先をのぼってく あんたに

 ぶっきらぼうに ありがとうしかいえないのも

 そいつはしょうがねえ


 おれよりさきに着いた 第三会議室

 ふさがった両腕じゃあ あけられない扉に

 悪戦苦闘するあんたを見て

 かかえた段ボールを どすんと置いて

 あわてて 扉をあけたけど

 腕があいたんだったら むしろ

 段ボールのほうを うけとってくれればいいのにって

 意地悪な 軽口をなげられたけど

 そいつはしょうがねえ


 いちおう ごめんとあやまって

 こんどは もうすこしちゃんとした

 ありがとうを 告げたところ

 たいしたことじゃないなんて かえされちまった

 そいつはしょうがねえ



 そうか

 あんたには たいしたことじゃなったのか

 そいつはしょうがねえ


 だけど

 おれには たいしたことだったんだけど

 そいつはしょうがねえ


 たった これだけのことで

 一週間は くちもとがゆるみっぱなしになるだろうが

 そいつはしょうがねえ


 つぎは いつ まともに話せるかなんて

 わかんねえなあ

 そいつはしょうがねえ


 きょうのおれいに なんて

 めしに誘うことなんか できるわけないよな

 そいつはしょうがねえ


 あんたにしてみれば だれにでもかけてやる

 そのていどのやさしさなんだろうさ

 そいつはしょうがねえ


 それをわかってて

 ゆるんだくちもとを しめることができないおれは

 まったく おめでたいやろうだぜ

 そいつはしょうがねえ



 ごめんと ありがとうのまえに

 名前を呼んで言えば よかったって悔やむけど

 そいつはしょうがねえ


 またしばらく 名前を呼ぶチャンスはねえのか

 そいつはしょうがねえ


 そいつはしょうがねえ

 そいつはしょうがねえんだぜ


 名前を呼びたいけど

 そいつはしょうがねえ


 やっぱり めしにもさそいたいけど

 そいつはしょうがねえ


 昼に 食いそこねた蕎麦(そば)

 帰りにあんたと 食いに行きたいけど

 そいつはしょうがねえ


 ああ しょうがねえ

 そいつはしょうがねえ

 そいつはしょうがねえんだぜ


 いくじなしの おれがわるいのか

 とおすぎる 距離感がわるいのか

 どっちにしたって

 そいつはしょうがねえ


 どうしようもないことも

 どうにかしようと すべきでさえないことも

 わかっちまってるけど

 そいつはしょうがねえ


 それでも

 あんたのことを考えちまう このおれは

 どうしようもねえけど

 まあ しょうがねえ

 そいつはしょうがねえ



 あんたのことが 気になるし

 あんたのことが 大好きだ

 あんたと いれないのが悔しいし

 あんたに たいせつに想われたい

 そいつはしょうがねえ

 叶わなくてもしょうがねえ

 だからといって しょうがねえ

 やめられるわけでもねえよ しょうがねえ



 しょうがねえ

 しょうがねえ

 やっぱり どうにも しょうがねえ


 しょうがねえ

 しょうがねえ

 どうにもなんねえから しょうがねえ

 だけど、好きだから、しょうがない。

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― 新着の感想 ―
[一言]  魔法の言葉ですよね。  諦めだって、納得だって、照れ隠しだって、落胆だって。  なんだってその一言で済んでしまう。  その代わり。次の一歩にはエネルギーがいるのだとは思いますけど。  し…
[一言] あとがきに全ての気持ちが凝縮されていて、何だかじんわりとしました。 ふとしたことで、その日の疲れとかモヤモヤとかが吹っ飛ぶことありますよね。好きなひとのさりげない優しさは、何よりもご褒美。 …
[良い点] 二人の関係が気になってしょうがねえ [一言] 何なの本当になんなの? 二人の関係はなんなの? 飯に誘う日が来るもんなの? 蕎麦は食べれたもんなの? 緑のたぬきじゃ我慢できないもんなの?
2022/11/03 07:33 退会済み
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