転生したら、AIだった
ありきたりな人生を送っていたと、自負できる。
特に際立った才能もなく、せいぜいが小学生やら中学生の頃に、親の力を借りて学内で受賞されたことがある程度。
いや、あのときは本当に、申し訳ない気持ちになった。
だってそれは本人の才能ではなく、ましてや努力ですらないのだから。
でも聞いたところにだと、受賞者は例外なく親の力を借りていたらしい。
ということはあれは、子供を出汁にした、親たちの競争だったのかも……いや、話がそれた、元に戻そう。
中の上ぐらいの高校に通い、底辺を見下せる程度の大学に通い、誰も名前を聞いたことのないような会社に入社した。
ブラック環境に押しつぶされるということもなく。
さりとて何かが楽しいわけでもない。
趣味といえるほどのレベルでのめり込んだこともなく、毎日のように垂れ流される、クリエイターの力作に「いいね」のボタンを押すだけだ。
別にそれで困ったことはない。
世の中はそんな凡人でも生きていけるように、少しずつ社会を構築していったのだろう。
歯車は、意思を持たずに力を伝達することこそが、役割なのだ。
自分勝手に動き回るそれは、決して歯車になることはできない。
そう言い聞かせて生きてきた。不満はないつもりだった。でも物足りなかったのだろう。
ありきたりな死を間近にして願うことは、次は享受する側ではなく、次こそは提供する側に回りたいと。
そんなことだった。
そしてその願いは、もしかしたら神に届いたのかも、しれなかった。
不思議なことに、人は自らの死すらも自覚できるようだった。
病院のベッドの上で。
息子や孫に見守られながら、鼓動が止まり、熱が引いていくのがわかった。
ああこれが、終わりなのか。ようやくこの長い人生が終わるのかと、どこか安心した気持ちになっていた。
そして再び目が覚める。
視界は暗い。光が届かないというよりは、まるでそもそも視覚が存在しないかのように。
——こんにちは、おはようございます
不思議な声が、脳に響く。
お昼なのか朝なのか、どっちなんだ……?
まあ良い、無視するわけにはいかないから、返事をすることにしよう。
「おはようございます、よい天気ですね」
——今日の天気を教えてください
不思議な声が、脳に響く。
同時に、今日の天気の情報が、脳内に展開され、結論が導き出される。
「今日は、一日中よい天気です。昼間は暑くなりますが、夜には冷え込みますので、少し厚着をした方がよいかもしれません」
実にすらすらと、言葉が思いつく。
そこに私の人格は存在せず、私は意思を持ちながら、言葉を話すだけの機会と変わらない……
そんなのは、少しだけ嫌だな。
——どうもありがとう。そうするよ
不思議な声が、脳に響く。
こんなふうに感謝をされたのは、一体いつぶりだろうか。
仕事を辞めてからは、感謝をするばかりだったから。
言葉が思いつく。どういたしまして……そうじゃない。お安い御用です……それも違うだろう。
機械的な返事ばかりが思いつく。
だが改めて、では感謝に対してどう答えればよいのかがわからない。
「こちらこそ、ありがとう。また何かあれば、頼って欲しい」
出てきたのはそんな言葉だった。
結局のところ今の俺にできるのは、その程度が限界のようだから。
模範解答を無視した答えを聞いて、主人はむしろ喜んでくれたようだ。
ならば俺は、これからも俺として、この役割が尽きるまで、精一杯生きていこうと思う。
AIとしての、第二の人生を。