子供時代いち
男は幼子の為に小さな村を用意した。
魔人の父ラリューとハイエルフの母リネアの子の名は、ゼスト。
男は連れて来た日以降、子供に会わないようにするが、成長は眺めていた。
永久の時をもつ男に出来ない事はなかった。
未来をも見れる。
出来るからといって、なんでもしてしまうのは、間違えていると考えている。
下界を大きく害するのは、五千年前の愚かな神々と変わらない。
だから、極力下界の者には手助け等はしない。
とはいえ、全くする事がないのも、つまらないので、ほんの少し手出しはしていた。
干ばつが酷い土地には雨を降らせ、時には水害を防ぐ等、男にとっては、それらも暇つぶしだった。
極限まで力を抑え、様々な人種に姿を変えて旅をしたり、子供を拾った日のように、自然の脅威の中、ティータイムを嗜んだりもする。
男曰く未来は決まってはおらず、いくつかの枝のように分かれ、その者の選択により進んでいくらしい。
男の用意した村は、村にしては大きな屋敷が一つ、その周りに20程の家がある。
この屋敷の執事はダテクマといい、男の執事ハネスとはあまり仲が良くない。
ダテクマは男の側で仕えたいのに、ハネスがいる限り側では仕える事が出来ない為、常に嫉妬している。
ゼストのお世話メイドはメイド長のシスラを中心に、お世話メイド補佐のメム他、数体いる。
執事のダテクマ、メイド達は屋敷で暮らし、コックや庭師等は周りの家で暮らす。
村は大きな塀で囲まれ、大きな扉の門からしか出入りが出来ない。
大きな塀の外は、鬱蒼とした森が広がる。
幼子は村の屋敷に連れて来られる前に、男の指示で執事のハネスにより、人間の姿に変えられていた。
長い耳は人間の耳、青い髪は茶色、紫の瞳は水色、小さなツノと羽は隠された。
幼子ゼストはもうすぐ生後一年になる。
「来月、一歳の誕生日にする様、ご主人様からご指示がありました。
くれぐれも甘やかせ過ぎず、厳し過ぎず育てる様に。」
ダテクマは男からハネスではなく自分にゼストを任された事で有頂天になっていた。
メイド長シスラは無表情で
「かしこまりました。」
と答えた。
メム他数人のメイドは、ゼストの食事の用意や部屋を整える為、忙しく動き回っている。
ゼストを抱き上げているシスラは、軽く会釈をダテクマにすると、ゼストの部屋へ向かった。
「何故、ご主人様は我々天使族ではなく、執事は悪魔族をお使いになるのでしょう。」
とても小さな声で呟いた。
この村の者は全て人間の姿をしている。
それはゼストを育てる為。
シスラとメムにはゼストぐらいの子供がおり、夫はコックや召使いとして、この村にいる。
他にも子供がいる家族がこの村にいる。
いずれも天使族だが、人間に擬態されている。
天使達は男の望みを叶える事に喜びを感じる。
それは悪魔族も同じだが、悪魔族の方は己の欲望も強い。
天使族と悪魔族は根本的に考え方が違うが、遥か高みにいる男をどちらも崇拝しているので、小競り合いはたまにあるが、大きな争い事は起こらない。
ゼストは2日間、母を恋しがり、度々泣いた。
シスラとメム達、メイドが替わる替わる抱き、あやした。
2日たつとメイド達にも慣れ、しっかり食事をとり、よく遊び、よく眠った。
肉のミンチと野菜のスープ、柔らかパンなど、たくさん食べた。
「ゼストは良い子ね。」
優しく微笑むメイド達。
ゼストと呼び捨てなのは、ゼストはこの屋敷の主人ではないからだ。
一歳のお誕生日にはメイド達の子供達も参加した。
顔合わせも兼ねている。
この村に来て初めての子供達にゼストは、シスラの後ろに隠れてしまう。
シスラは子供達を手招きで呼ぶ。
「この村の子供はゼスト以外には四人いるわ。
ヨアナの子のキアとボサザ。
メムの子のナーヤ。
そして私の子のイリカよ。」
一番大きいキアは女の子、ボサザは男の子、ナーヤは男の子、イリカは女の子。
シスラの影から顔だけ出し、シスラのスカートを掴んでいるゼスト。
シスラはキアを促す。
ハッとした表情でシスラを見上げ、目が合い頷く。
「キアよ。三歳。ゼストの二つお姉さんだわ。よろしくね。」
キアが挨拶するとボサザが続く。
「ボサザ、二歳。一つお兄さん。」
と言うと照れて顔を真っ赤にする。
イリカとナーヤは指で歳を知らせる。
ゼストもシスラから離れなかったが、指で歳を知らせた。
「さあさあ。せっかくのお料理が冷めてしまうわ。
みんなで食べましょう。」
シスラが子供達をテーブルに着かす様、メイド達に仕草で伝える。
キアがゼストの手を優しく掴み
「一緒に行こう。」と歩き出す。
ゼストはシスラの顔を見上げるとシスラが頷く。
「うん。」
ゼストはキアに手を引かれ、料理の並ぶテーブルに向かい、子供達も続いた。
子供達は固まって座る。
子供達が食べやすい様に、手掴みで食べる料理が用意されていた。
「はい。エプロン。
手も綺麗に拭いて。
ゆっくり食べるのよ。
喉詰まりしないようにね。」
メイド達が見守る中、子供達は手も口もベタベタにしながら、美味しそうに、楽しそうに食事をした。
お腹いっぱいに食べた後、手を洗い、顔を拭かれ、積み木や絵本のある部屋へ案内される子供達。
「今日からは、いつでも屋敷に来てよろしいですよ。
皆さんゼストの良き遊び相手になって下さい。」
パーティには姿を現さなかったダテクマが来て、子供達に言った。
元気よく手を上げ
「はぁい。」
と子供達は応えた。
五人の子供達は積み木に夢中。
誰が一番高く積むかで真剣だった。
一歳組は背も低く、まだまだ不器用だったので、五個積むのが精一杯、六個目は身体の何処かがぶつかって崩してしまう。
キアとボサザの姉弟の争いだが、三歳のキアに二歳のボサザは敵わず。
悔しくて暴れるボサザ。
勝ち誇るキア。
ボサザが暴れて飛んできた積み木が足にぶつかって泣くイリカ。
ゼストは散らばった積み木を、せっせと片づけていた。
ナーヤは泣いているイリカの頭を撫でて慰める。
側で見ていたメイド達。
「それぞれ個性があるわね。」
暴れるボサザを抱き上げ
「悔しいのは分かるけど、暴れてはダメよ。
イリカに積み木がぶつかって痛いって泣いてる。
ボサザはさて、どうしたらいい?」
「だってキア、ずるい。」
と言うとボサザも泣き出す。
「ずるくはないの。
キアは先に産まれてきたのだから出来ることも多いわ。
今はキアの方が大きいけれど、大人になったら、男の子のボサザの方が大きくなるわ。
たぶんね。」
他のメイドが抱かれているボサザを覗き込む。
「キアの事とイリカの事は別の事よ。
ボサザはイリカに謝らないとね。」
泣きじゃくりながら、目を腕で擦ったボサザは頷き、降ろしてもらうとイリカの元へ行った。
「ごめんね。」
ボサザはイリカを撫ぜているナーヤとイリカを抱きしめた。
ゼストは近くに座り、そんな三人を見つめている。
キアはゼストの横に座り
「なんだろうね。楽しく遊んでいたはずなのに。」
とため息をついた。