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5.ヴァランタン・サン・フォン卿(1)

※本日の更新、1/3回目です。

 正式な検死を受けたら秒で吹き飛ぶ、あっちもこっちも穴だらけの状況ではあったが、カタリナは無事「事故死」ということになった。


 学院長の急報で駆けつけてきたサン・ラザール公爵夫妻は、案の定、カタリナが「事故死」するはずがない、カタリナの人望を妬んだジュスティーヌに殺されたのだと言い張った。


 だが、アルフォンスは公爵夫妻に押し負けなかった。

 公爵家があくまでそう主張するならば裁判にする、王太子である自分が、カタリナが令嬢達への嫌がらせの首謀者として追い詰められていたと法廷で証言するし、ついでに例の下女が持っていた手紙も公爵家が嫌がらせに加担していた証拠として提出すると宣言したのだ。


 重ねて、そもそも殺人だと言うなら、警察を呼ばなければならない、そうなれば取り巻き令嬢達が吐いた調書も、彼らに渡さなければならないと指摘。

 遺体も正式な検死・解剖をするべきだし、乙女であったかどうかも検屍官の手で確認しなければならないとも主張する。

 検屍官は当然、男性だ。

 ここで、公爵夫人が失神した。


「失礼、ご婦人の前でする話ではありませんでしたね。

 いずれにせよ、裁判となればご息女の真の姿が明らかになり、記録されることとなる。

 傍聴席は長蛇の列、新聞社は争って『陽の君』のスキャンダルを買い漁るでしょう。

 なにはともあれ、『ジェラール』とやらを早くお隠しになった方がよろしいのでは?」


 アルフォンスは口先だけで謝ると、いかにもカタリナの乱行悪行を詳細まで知っているぞ証拠も抑えているぞと言わんばかりに公爵をめつけた。


 赤くなったり青くなったり白くなったりしながらサン・ラザール公爵はなお抗弁したが、アルフォンスは半笑いで撥ねつける。

 ついに公爵は、公爵夫人を引きずるようにして帰り、深夜、公爵家の従者達がカタリナの遺体を紋章のない馬車で引きとっていった。


 公爵夫妻との「話し合い」にはサン・フォンも同席したが、アルフォンスの対応はなかなかえげつなく、普段はぽわーっとしている癖に、ジュスティーヌを守るためならここまでやるのかと逆に感心してしまった。

 そして、下女が持っていた手紙は、アルフォンスから国王を介して「とある部署」に回されたようだ。

 叩けば埃が出そうな公爵家の内偵を、密かに進めていくのだろう。


 ちなみに、下女はギリギリ助かり、「とある部署」の管理下にある「療養所」に送られたそうだ。

 代々、サン・フォン侯爵家の傍系が「とある部署」を統括するならわしなので見学したことがあるが、そう悪いところではない。

 豊かな自然に囲まれた深い森の中にある「療養所」では、ちゃんと「治療」も受けられる。

 精神干渉系の魔法であれやこれやされることもあるが。


 アルフォンスは、ジュスティーヌが殺したのだと言い張るなら裁判沙汰にして手紙を法廷に持ち出すぞとは言ったが、退けば手紙を他の者に見せないとは言っていなかった。

 公爵夫妻はどうにか取引材料を作って、是が非でも手紙を回収するべきだったな、とサン・フォンは他人事のように思った。




 こうしてカタリナの死が速攻で片付いたため、ジュリエットやジュスティーヌも含め、生徒達は正式な尋問を受けずに済んだ。


 カタリナの取り巻き令嬢達のうちもっとも悪質だった者は放校処分、残りは自主退学となった。

 ついでに男子生徒寮でも、イキった伯爵家の嫡男を中心にいじめをしていたグループが見つかり、こちらも厳正な処分が下された。

 これらの問題をわざと見過ごしていた、例の寮監などの教職員も、それぞれ処分を受けた。


 それはさておき、タイミングが良すぎる「事故死」と生徒達教職員達の処分が相次いだため、学院は一週間ほど休校となった。

 その間に、サン・フォンは自身の婚約者レティシアとジュリエットを王都の実家に招き、改めて引き合わせた。


 レティシアはジュリエットに正式に謝罪し、謝罪を受け入れたジュリエットは令嬢達を苛立たせるような振る舞いをしたことを逆に謝った。

 ジュリエットは、生い立ちや、学院に入学した事情を改めて説明した。

 レティシアは、ジュリエットの境遇に深く同情し、罪滅ぼしも兼ねて、自分でもよければジュリエットの相談相手となり、令嬢らしい立ち居振る舞いやその背景にある価値観を説明しようと申し出た。

 ジュリエットは「ありがとうございます!」と素直に喜ぶ。


 ほっとしたレティシアは、遠慮がちに切り出した。


「さっそくダメ出しするようで申し訳ないけれど……

 レディ・ジュリエットは、王太子殿下を『アル様』と愛称で呼んでいらっしゃるでしょう?

 あれだけはすぐにお止めになった方がいいわ」


「え、縮めてお呼びするのって、王都では駄目なんですか?」


 ジュリエットはきょとんと聞き返す。


「『王都では』というより、貴族の間では、愛称で呼ぶのは、家族か家族同然の間柄の者だけなの。

 同性なら幼馴染や本当に親しいお友達なら愛称で呼ぶことはあるけれど、異性なら正式に婚約した恋人同士くらい。

 だから皆、本当にびっくりしたのよ。

 近々にも殿下から婚約の申込みがあるようにずっと振る舞っていたレディ・カタリナに、宣戦布告するようなものですもの」


「ええええええ!? そうなんですか!?

 私、全然知らなくて……」


 そんなところからやらかしていたのかと、ジュリエットは軽くのけぞった。

 やっぱりそういうことだったか、とため息をついたレティシアが、サン・フォンを軽く睨む。


「ヴァランタン様、なぜ一言教えて差し上げなかったんですの?

 わたくし達、てっきりレディ・ジュリエットはわざと王太子殿下との仲を見せびらかしているものとばかり思っておりましたけれど、ただ習わしをご存知なかっただけじゃないですか」


「え? あああああ?

 あまりに自然だったから、つい……」


 そこ俺のせいだったの??とサン・フォンは目を白黒させた。


 なにはともあれ、相談できる者がジュリエットに出来て一安心だ。

 後日、レティシアは、ジュリエットを他の令嬢達とも引き合わせ、巧く橋渡しをしてくれた。


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