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契約魔法

騎士団長がいかに動物嫌いだろうと、陛下の命令には従わねばならないのだ。


「………ッチ…わかった。それを使い魔とする」


(今舌打ちした!?したわよね!?

しかもこの可愛い猫ちゃんにむかって"それ"ですって!?

この鬼! 悪魔!冷血漢!)


この体の本能なのか、咲雪が心中で思いっきり騎士団長を罵倒していると、無意識にシャーッ!っと威嚇してしまっていた。

それを見た騎士団長はさらに眉をひそめ、忌々しそうに私を見下ろす。


「使い魔の契約をする。神官長、立ち会いを」


「は、はい!」


使い魔の契約は、神官の立ち会いのもと主となる人間が契約魔法を発動し、魔獣に名を付ける。

主と魔獣の魔力の均衡がとれており、魔獣が契約魔法を受け入れれば契約は完了だ。


(本当はこんなやつと契約なんかしたくないけど……)


だが、この男と契約しなければ咲雪の行き場は無い。

ずっと神殿にいる訳にはいかないし、何より超希少で強力な魔獣をなんの使い道もなく置いておくことを人間は良しとしないだろう。

だからこそ誰かの使い魔にして、国に役立てようとしているのだから。


大人しく従うのは癪だが、咲雪1人で(1匹で?)生きていけるわけでもないし、何より喋ることができないのも窮屈だ。

使い魔になれば言葉が話せるようになるのだから、仕方ない。


(気は進まないけど……使い魔になってやるわよ)


いかに動物が嫌いと言えど、さすがに陛下の命令で契約した使い魔を殺したり痛めつけたりすることは無いだろうし。

この際可愛がってなどくれなくてもいい。

ご飯と寝られる場所があれば、後は勝手に生きていくから放っておいて欲しいくらいだ。


騎士団長が咲雪に手をかざし、目を閉じて詠唱を始めると、空中に不思議な魔法陣が展開され始める。


(うわぁ…これが魔法……)


「我が名はセラルド・アンダリエール。契約のもとにかの者へ名を与える。ーー"ユキ"」


(へぇーこいつセラルドっていうのね……って、私の名前は…ユキ…………?)


体が白いからだろうか。

単純な理由だ。

きっと深く考えずに、適当に今思いついて付けたに違いない。


(………まあ、元の名前と似てるから覚えやすいかもね)


これで後は魔法陣が収束して契約は完了ーーーーのはずだった。


「っ!?」


繊細な硝子(ガラス)が割れるような、水面を弾くような、微かな音と共に、魔法陣が砕け散る。

部屋に満ちていた光が瞬時になりを潜め、咲雪ーーユキの体を包む魔法の気配も一瞬にして消えた。


(え、え、なに!? 何があったの!?)


「これは……」


キョロキョロする私に、神官長は驚いたように目を見張った。


「契約魔法の失敗……?」


(し、失敗?なんで?どうして!?)


騎士団長ーーもといセラルドと神官長を交互に見上げるユキに、神官長はモゴモゴと濁すような口ぶりで呟いた。


「ど、どうやらこの魔獣は…閣下の契約魔法を受け入れなかったようで……」


(え、わ、私のせいーー!?)


確かに、「気が進まないなぁ」「嫌だなぁ」とは思いながらだったけど、それでも仕方ないから諦めてたつもりだったのに。

それじゃあいけなかったのだ。

心から契約魔法を受け入れなければ、魔法は発動されない。


(え、どど、どうすれば……)


「………ほう…良い度胸だ」


「み"ゃうっ!?」


地の底から響くような声に、ひゅんっと背筋が凍り固まる。

恐る恐る見上げた先には、世にも恐ろしい顔をしたセラルドがユキを見下ろしていた。


「くだらん毛玉ごときが……私に逆らうと言うか…」


(み"ゃあああああ!?

逆らってない!! 私逆らってないぃぃぃい!

魔法が勝手に判断したんだもおおおん!!!)


すっかり縮こまってみゃあみゃあ鳴くユキをしばらく睨みつけると、セラルドはやがて小さくため息をついた。

かと思うと、無造作に、まるで適当な荷物でも担ぐようにユキの首根っこを鷲掴みにして持ち上げると、スタスタと部屋の入口へ向かう。


(ぎゃあああ!!ちょっと! こんな持ち方ってないでしょ!?レディをなんだと思ってるのよ!!)


必死に身をよじって逃げようとするが、強い力で掴む手はビクともしない。

ユキが助けを求めるように振り返ると、神官長は呆然と立ち尽くしていた。


「閣下、どちらへ!?」


「ひとまず連れ帰る。陛下の命には背けん。機会を改めて契約するしかあるまい」


そう吐き捨てると、セラルドは叩きつけるように扉を閉めた。



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