夏のロマネスク
夢見の世界。聖と邪がさかさまになって、おいでおいでをしているよ、
君の右肩にとまった蝶が燃え始めて、後に残るのは髑髏。
いらかの群れ。
湧き立つ入道雲の群れ。
小指を、落としてしまったのです。
そこの座敷の上に。
懐かしさの秘法。
壁に貼ってある電話番号に黒電話で電話を掛けると、鬼やらいがやってきて、鬼と小指を見つけ出してくれるよ。
歯の欠けた一寸法師がケタケタ嗤いながら云う。
縁もたけなわ、鼠の大群がやってきて、呪詛を唱える。
街角のお地蔵様の目がぎょろり。
祭囃子が、聞こえる。
もうすぐ、祭りの刻。
外灯の灯りを踏んで歩く遊び。
電柱の影で、影法師が手招きしているよ。
夜の散歩は、不思議。
犬の遠吠え。
もうすぐ沈みそうな太陽の赤。
まるであそこには彼岸があるみたいだ。
彼岸と此岸。
外套姿の男が今日も魂が欲しくて、悲しくて彷徨っている。
彼の名はあめふらし。宿場町の肝試し。
雨が降っています。
踏切の近くで、アメフラシがぬらぬらした体をゆすって魂を喰らっている。
雨は異形のものを近づける。
赤い傘の振り袖姿の娘が雨の中舞っている。
狐のお面の少年が、猿の生き胆をかじりながら、にたにた嗤っている。
魂を集める回送列車が、午前三時に黄泉へ向かってガタンゴトン。
郷愁の宿場町の片隅で、小鬼がカキ氷を食べている。
あそこの踏切に近づいてはいけないよ。
人差し指と中指を探しているあめふらしが睨んでいるから。
亡くなった少女が、トイレの中で赤巻紙…
と呟いている頃、夕暮れ堂では、私の指に赤い糸を巻いて、黄泉路へ連れていかれないようにと、狐の青年に念仏を唱えられている。
懐かしい想い出。
お祭りで金魚を掬いました。
金魚は一日で死んでしまったけれど、夢の中にでてきては、頬をぱくぱくと噛むのです。
お祭りの夜は、神社の裏で神様が交わっていて、翌日には虹が出ます。
私は、祭り客の落としたお金を拾いに神社へ訪れます。
そこで、夢色の蛞蝓のような体液を発見するのです。
ここにはあんまり幸せはありません。
しかし、不幸も転がっていないのです。