義務教育感謝。
超長めです。
「スラスケ! 逆だ! 風向きを上に向けてくれ!!」
「上!?」
思い出した。そうだ、台風だ。
転生前、僕は一度だけ大きな台風に見舞われたことがある。家の瓦が半分吹き飛ぶほど強烈な台風だ。
ニュースでは、その台風は僕らの地域の真上を通ると予想されていて、進路予想図にはそのはっきりとした目の中心が、ちょうど、真上を通っていた。
かなり接近した時、家の瓦が半分飛んだもんだから、これがど真ん中に来たらどうなるんだろうと、子供だった僕は好奇心に任せ、台風の中心が通過する時間に外に出たんだった。
でも、不思議なことに、その時風はいっさい吹いておらず、荒れた景色の中で、生暖かい風が頬を撫でただけだった。
肩透かしを食らった僕は何度もテレビと外を確認したけど、台風はしっかり僕の住んでるところの真上を通ってたし、勢いも衰えてなんかいなかった。
しばらくして、台風の目が僕らの地域を離れると、また激しい防雨風雨に見舞われて、残り半分だった瓦も吹き飛んだ。
つまり……
「ここを台風の目にすれば風が治るのでは!?」
「なんだよたいふうって!! どうするんだ!?」
「とりあえず、ここを中心に風を噴き上げてくれ!」
魔王はおそらく僕らを中心に半径300メートル圏内にいる。だったら、直径600メートルの台風の目をこの上空に作れば、ここら一帯の吹雪は止むはずだ!
スラスケが戸惑いながらも風向きを上に向けた。
「これでいいのか?」
「ああ! サンキュ! これでまともに戦えるはずだ!」
正直自信はなかったが、徐々に風がおさまりはじめ、視界が開けてきた。
「す、すげぇ。ほんとに吹雪が止んだ。どういうことなんだ?」
「すごいだろ! まぁあれだ、天才的なひらめきってやつかな! それよりこれでまともに戦えるぞ!」
「ほんとにすげぇ……」
おお! スラスケが俺を尊敬の眼差しで見てる……!! 久しぶりだこの感覚……最近はスラスケ無双が多すぎてあんまし役に立ててなかった気がしてたからなぁ。まさか、あんなくだらない学校の授業がこんな場面で役に立つとは……。義務教育感謝ですわ。
吹雪は止んだが、状況は依然として悪いままだ。なんせ、一体でも手強い雪山の魔王が三体同時集結だからね。
「魔王は目視できた。吹雪もおさまったから環境補正も無くなってるはずだ。魔王も状況を掴めてないようだから今のうちに作戦を伝えるよ!」
「おう! 俺が上の鳥相手にすんのか?」
「正解!」
氷鳥は空を飛べるため、ステータスはそこまで高く設定されていない。空を飛べるとなると、地上でしか活動できない冒険者と比べて圧倒的に有利だからだ。
もしこれでステータス高かったらクレームどころじゃないからね。このゲームの人気度からして、会社が焼き討ちされてもおかしくなかっただろう!
でもあれだなぁ……フォルムは結構かっこいいんだよなぁ。多分氷鳥は結構金かけられてるわ。それに比べて、氷人形と雪男は多分、あんまり金をかけられてない。
氷人形に関しては、氷ブロックをただ積んだだけのような造形をしている。顔は雪だるまだ。
「スラスケが氷鳥、僕が氷人形と雪男を相手にする。氷鳥は空飛ぶだけで、そこまで目立った特徴はないから特別警戒する必要もない。まぁそんなに気負わず戦ってくれ! 頼んだ!」
「おう!」
さて、ほぼ直径の位置、前方に雪男、後方に氷人形か。せっかく姿が見えた。何はともあれ、まずはステータス確認だ。
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種族『氷鳥』
Lv 74
進化まで後Lv --
HP: 17453 MP: 13493
攻撃力: 14829
守備力: 6392
素早さ: 26829
魔法耐性: 6174
魔力: 4281
スキル 氷塊+8 ウィンド+7 氷纏+9 ダイヤモンドフォッグ+11 エアブラスト+6 突風+5 風渡し+5 ダイヤモンドレイ+17
個体特性 最終進化 氷鳥 空の覇王 雪の化身
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種族『雪男』
Lv 89
進化まで後Lv --
HP: 35037 MP: 7462
攻撃力: 16301
守備力: 17283
素早さ: 8832
魔法耐性: 10183
魔力: 1937
スキル たいあたり+17 投擲+13 咆哮+4 クラッシュハンマー+8 フローズンブレス+7 デスローリング+9
個体特性 最終進化 雪山の覇者 巨人
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種族『氷人形』
Lv 81
進化まで後Lv --
HP: 38317 MP: 7319
攻撃力: 13611
守備力: 25166
素早さ: 3731
魔法耐性: 23482
魔力:731
スキル アイスブロック+8 突進+13 氷纏+8 再生+5 変形+14 フローズンブレス+9 アイスボム+8
個体特性 最終進化 氷の魔人 無生物
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結構……強い。なんだこのステータス。
さっきは吹雪いてたからもっとステータスは高かったはずなのに接近攻撃してこなかったなんて、臆病すぎるだろ。
まぁ、今は魔王討伐が最優先だ。氷鳥はやっぱりそこまで耐久力は高くないな。素早さが20000を超えているというのがちょっと不安材料だが、目の良いスラスケならなんとかやるはずだ。
となれば、やっぱり一番はスキルレベル17を超えているダイヤモンドレイ……か。異様な数値だ。
ゲームではここまでレベルは高くなかった。そのほかも軒並み10に迫るレベルだ。
ちょっと誤算だったけど、問題ないだろう。
「スラスケ! 氷鳥で気をつけることは素早さだ! ステータスで言えば25000を超えてる! あと上空から下に向かって売ってくる攻撃は威力が割増になるからそこも注意が必要だ!」
「素早さ25000って、やばくないか?」
「確かにやばいけど、広範囲魔法持ってるなら大丈夫だ! 吹雪もおさまったから、毒も多少なりとも効くし」
「おー」
と……こんなもんで大丈夫かな? あ、もう一つ付け加えるの忘れてた。
「服には気を使わないと、多分激しい戦闘なんかしてたらすぐ破ける。破けたらデバフを食うから絶対服だけは守るんだぞ!」
「おーー」
だ、大丈夫か? 余裕ですよ感出してるけど。……なんとかなるよね。ストックだってさっき10本使ったけどそれ以上にまだ大量にあるだろうし。
よし、スラスケへの指示が終わったところで……僕も。
地のステータスは普通に僕より高いな。ま、だいたい想定内だ。
ただ、一つ気になるのはやはりスキルレベルか。
なんだよっ!! たいあたりレベル17って!? 投擲もレベル10超えてるし! 突進13!? ハァァ!?!
ゲームでこんな出鱈目な数値なかったぞ?! これこの世界の冒険者勝てんの!?
確かに装備もその他もろもろ進歩してたけど、これは流石に!
「やっぱり完全に同じ世界ってわけには行かないみたいだ」
ようやく状況を理解できたのか、魔王らが動き出した。
雪男が比率のおかしい長い腕、巨大な手で雪を握り潰し、足を振り上げている。
……全力投球か! だが、そんなものが飛んできたところで、僕はさっきまで視界の悪い中避けてたんだ。
今更、発射点が見えてるものに当たるわけがない!
放たれた氷塊が、とんでもない速さで迫ってきた。思ったより速い。
でも、
「避けられないほどではないな」
300メートルほど離れているにもかかわらず、ピンポイントに頭に飛んできた氷塊を首を軽く捻ってくかわす。
そして、撃進で一気に距離を詰めた。
「よう! さっきはよくも、卑怯な真似してくれたな!」
「ぐも! は、はや――ぐもうう!!」
そして、魔力を込めた拳で一撃をお見舞いする!
雪男は大きく後ろへ後ずさった。苦しそうにうめき、片膝をつく。
「そんな猿芝居やめろよ。お前のステータスはもう確認済みなんだよ。そしてほとんどダメージが入ってないこともな」
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『雪男』
HP: 34987/35037 MP: 7183/7462
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「ぐもももも。バレていたか。しかし残念だなぁ、せっかく氷人形と氷鳥とどちらが仕留められるかの勝負をしていたのに」
こいつ。実は陰湿なやつだな? 僕たちをおちょくっていたってわけか。
「……舐めた真似してくれるじゃないか」
「貴様らの幸運は認めてやろう!! だが所詮は人間、これからじっくりいたぶって――グハ!!」
ムカついたので本気の2%のパワーで殴ってやった。
幸運ってなんだ? もしや吹雪を止ませたことが偶然だと思ってるのか?
「一つ勘違いしてるようだから教えておいてやろう。吹雪は意図的に僕がとめた」
スラスケごめんね。ちょっと見栄張ってしまった。
「ぐもも、ばかが。人間如きにそんなことできるわけないだろう!!」
「人間にはできないだろうな!! なんせ僕らは、最強のスライムなんだから!!」
すると、立ち上がった雪男が長い腕で地面をバンバン叩き、笑い出した。
「バガがが!! スライムだと?! 笑わせてくれる!! みずから最弱の下等生物、スライムを名乗るとはなぁ!!」
「ムカついたからお前、死刑」
至近距離から撃進で雪男の腹部へと突っ込む。
「ぐもっ!!」
さらに、腕を半分融解させ、そして一気に形を戻した。
その反動で雪男の腹部が凹み、そして空中に浮かび上がる。
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『雪男』
HP: 33583/35037 MP: 7183/7462
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硬いな。さっきのでだいたい1000ダメージ。あんまり効かないんだなぁ。
早く倒さないと。氷人形の素早さから考えて、おそらくあと2分でここに到着する。それまでにこいつを倒したい。
「まさか……ほんとにスライムだと……?!」
先程までの余裕はなく、その顔には焦りが見てとれた。
こいつは特別対策する必要はない。冒険者時代、こいつを相手にするときに気をつけていたことと言えば、できる限り投擲をさせないことだけだ。
氷系のスキルは装備でカバーしてたし、接近戦に関してもタンクに攻撃を集め、その背後から魔法でガンガン攻めるという定石でせめていた。
このまま一気に攻めきる!!
そう思い、踏み込もうとした瞬間、背中に強烈な衝撃が走った。
「!?」
振り返れば、もうすぐそこに氷人形が迫っていた。
いっつー……油断した。
でも、速すぎる。なぜこんなに早くここまでこれたんだ!? ステータスは確認したぞ?!
「背後が疎かだぜー兄ちゃんよお」