まるで猫じゃらしであやすような
「そうそう!! いい感じ! 腕をもっと振ると走りやすくなるよ! あ、あと、足の裏でしっかり地面を掴む感じ! あとは、顎を引いて、目線を前に! 基本的には腕で感覚をとる感じだね!」
「ほうほう、確かに慣れるとこっちの方がいいかもな! この胸についてるのが邪魔だけど」
「あ、あはは………」
ステージを縦横無尽に駆け回る青髪の少女、とそれを前世の知識を頼りにコーチングしていく僕……もしかして、これが青春!?
……いきなり胸もいだりしないよな。流石にしないか、痛いだろうし。
…………しないよな?
動きもかなり自然になってきて、その運動の最中も表情を意識して練習してるからか、喜怒哀楽もかなり細かいところまで表現できる様になってきた。
その各表情のニュアンスもかなり覚えてきて、力加減もだいぶわかってきたみたいだし、そろそろ倒そうかな……こいつ。
「きさまらぁぁ!! ワシのステージでちょこまかとぉぉ!!!!」
あんまりはほったらかしにしていたせいで大変ご立腹の様だ。
「スラスケー、攻撃受けても大丈夫だから、試験運転がてらに、こいつ倒していいぞー。魔法は、使ってもいいけどできるだけMP消費は抑えて!! できれば素手で倒すといい練習になる!」
「この気持ち悪い奴に触れって言うのか!? 冗談きついぞ」
牛王のステージを後にしたあと、アスリートのトレーニングのようにいろいろな動きをしながら、ここ第七の魔王ガマ王のステージまで来ていた。
見かけはイボガエルをおっきくした様な相貌で、あんまり、いや、全くかっこよくないし正直キモい。
「文句言わずに!! 魔王を全部倒してスライムが最強だって世界に知らしめるんだろ!」
「そうだけど……おえ。」
「このクソガキどもがぁ!!!! ちょこまかちょこまかと!!」
さっきからちょこまかと!! しか言ってないが、多分切れると頭が回らなくなるタイプなんだろうな……
先ほどから舌を伸ばしたり、水魔法を使ってスラスケを狙っているが、運動がてらにそれを避けさせているので一向に当たる気配がなく、かなり苛立っている。スラスケのかなりアクロバティックな動きで避けられるようになってきたし。
人間だった僕ができないのにもうバク転したりしてるし。
僕はステージのはじのほうでただ突っ立っているだけだが、攻撃されることはない。
多分、動いてるものに反応してしまう習性があるんだろう……と思う。
いや、もしかしたら、あんな少女に一撃も当てられないと言うことを、プライドが許さないだけかもしれないが。
「はぁ、気は乗らないが、仕方ないよな……」
言って、スラスケが立ち止まった。
「攻撃受けていいとは言ったけど、受けたら粘液まみれになることを頭に入れとけよースライムの体じゃないんだから。」
でもまぁ、粘液まみれのスラスケも……悪くない。むしろいい!!
まぁ、どうせこのあと街に行って買い物するんだし、そこで風呂でも入れば洗い流せるしな。
「受けるつもりはない!」
「そうか、それは残念だ」
「魔法は使わなくても魔力は使っていいんだろ?」
「いいけど、加減しろよ!! 一発で終わると練習にならないから」
今更だが、あとで発声の練習もしとかないと。念話が通じるからいいけど、人間なのにずっと念話ってのも怪しまれる可能性あるし、何より不審に思われる。
基本的に人間が念話を使うときは何か他の人間に聞かれたくないようなことがある場合だ。
「どれくらいなら死なねーのかわかんねえけど、まぁ大丈夫だろ」
そう言うと両腕が淡い光を発し、その拳で魔王を殴り出した。
魔法使いの格好した少女が魔王に対して武器も持たずに肉弾戦を、しかも1人で挑む光景は凄まじいもので。
後に冒険者たちから一晩中酒のつまみとして語られることとなった。
魔法を使わせずに肉弾戦で戦えって言ったのはガマ王が打撃に強い魔物だからだ。柔軟性のある分厚い皮は、打撃の衝撃をかなり吸収するため、本当は8割ほど威力が落ちて、スラスケもちょうどよく苦戦していい練習になる予定だったが……
「終わったぞー」
この通り。すぐに終わってしまった。多分身体強化系の魔法を腕にかけていたんだろう。教えてもないのに、しかもスライムなのに、魔力の使い方をよくわかっている。
「思ってたより早かったな……どう? 感覚は掴めた?」
「まぁまぁだな、でもやっぱり激しく動くとこの胸の膨らみが邪魔だ」
「そ、それは仕方ないね……もいだりするなよ?」
「もがねえよ」
「よかった。じゃ、その魔王吸収して行こうか。全部スラスケがとっていいよ」
お、サンキューと言ってスラスケが手をあて吸収し始めた。
最初は体の半分ほどをスライム化して吸収してたのだが、あまりにも気持ち悪かったのでこの吸収方法を教えたわけだ。流石に少女がいきなり半分スライム化したらトラウマものだからな……