成長
僕たちは勝った。負けるつもりはなかったけどやはり嬉しいものだ。
目の前には既にMPを使い果たし、動けないと言った様子の皇帝獅子。
「さあ、早く殺さぬか」
殺す……そうだ。殺さなければ倒したことにはならない。ここはスラスケの判断に……
「いや、待って、一度転写させて欲しい」
「好きにするが良い」
転写し終わった後、スラスケの判断で皇帝獅子を仕留めた僕たちは、休むまもなくそのまま非遮平原へと向かい、続く第四の魔王『竜王』を事もなげに倒した。そしてそのままレベル上げを飛ばして第五の魔王『馬王』を倒した僕らは、進化することになった。
『進化可能レベルに達しました。進化しますか?』
久しぶりに見た気がする。もちろんYESだ。体が熱くなり、淡くひかる。
「僕らもとうとうここまで強くなったんだなぁ」
「そうだな、ところで、なんだその格好は?」
「え?」
「いや、足が生えてなんか、トカゲみたいになってんぞ」
え?! トカゲ………? 鏡はない。水もない。とりあえずステータスを確認しよう。
種族『サウルスライム』
Lv1 ♂ スラオ
進化まで後Lv79
HP: 18902 MP: 13204
攻撃力: 12472
守備力: 11428
素早さ: 9278
魔法耐性: 8376
特技 転写 反射 擬人化
スキル ==
個体特性 唯一無二
特殊技能 無限成長
称号 転生者・超晩成型・進化者・変態・卑怯者・人の道を歩む者・最弱種の王・竜殺し・森の守神殺し・最強を目指すもの
種族『デーモンスライム』
Lv1 ♀︎ スラスケ
進化まで後Lv79
HP: 14927 MP: 29371
攻撃力: 7402
守備力: 9379
素早さ: 8723
魔法耐性: 12841
魔力: 36821
特技 転写 反射 擬人化
スキル 魔法 ==
個体特性 唯一無二
特殊技能 無限成長 言語理解
サウルスライム………? トカゲってのはあながち間違っていないみたいだ……。
進化をしてから、スキルの欄にあった個別のスキル名が消えてしまった。どう言うわけかわからない。後半からステータスの伸びが爆発した僕らのステータスは少し前の10倍以上となり、既に非遮平原では僕らに勝てるものはいなくなった。
スラスケも順調に魔の道を進んでいるようだが、僕の方はこれ……どうなるんだ? トカゲだぞ……? 手足があること自体は確かに人間と類似しているけど……それにスラスケなんかツノ生えてるし………
というか!! 擬人化が特技に加わってる!! やっと人間の姿に……戻れる!!
「スラスケ!! 擬人化できるようになってる!!」
「ぎじんか? なんだそれ?」
「人間の姿になれるんだよ!」
「めちゃくちゃ興奮してるけど、なにがいいんだ? 人間の姿なんかになって」
確かに………スライムからしたらそうだよな……なんと説明すればいいものか……
「人間の姿の方が慣れれば動きやすいし便利なんだよ」
あくまで僕の主観だけど………
「ふーん? そうなのか?」
「そう!! 今なろう!! 早く!!」
「せかすなよ、そんなに急がなくても俺は逃げねえんだから」
そういうと、スラスケの体が縦に伸び、人間の少女を形作った。全体的にフラットな体で凹凸が少ない、そして幼いながらも大人な雰囲気を漂わせるその顔は、まさに美少女という他なかった。
転写とは違い、色もまた人間と同じく、いや、かなり色白だ。心を見透かされているのかと、錯覚するほど色素の薄い瞳が、上から僕を見下ろしている。
腰まで伸びた青髪を空中に振り乱し、自分の体を確かめるように動かすその様子に、思わず目を奪われ、息を呑んだ。
「どうだ? 確かに視線が高くて見晴らしはいいが、ちょっとバランスが取りづらいな。感覚もイマイチつかめん。なぁ、なんかいえよ。黙ってないでさ」
「ご、ごめん、つい夢中に………というより服がないと……精神衛生上に問題が。」
「ん? なんか言ったか?」
「いやなんでもない、じゃあ、僕も擬人化しよう」
擬人化を強く意識する。
どういう姿になるのか少し楽しみだ。でも、いきなり裸だと、ちょっと変な趣味に目覚めてしまいそうだな。
……いや、一応高校生だから……常識の範疇………? にはならないか。
だんだんと視点が上に上がっていく。その視点は、スラスケと同じか、やや上で止まった。
あれ? 意外と小さい………?
「おー、人間のオスだなって、おっとっと、」
バランスを崩したスラスケが転倒した。
僕は顔の確認はできないが、色々と自分の体を確認する。
す、すげぇ、ちゃんと付いてる………男性特有のあれが………いや、そこじゃなくて、腕も、骨格も、ちゃんとしっかりした人間だ。皮膚の感覚もある!! 鼻もある!! 目もある!! 手がある、足がある!! 口も!!
「や、やった!! やっと人間に……!!!」
しかし、スラスケは随分と淡白な反応だな……普通なら裸の男が目の前にいたら叫んだり恥ずかしがったりするのに。
「その下についてるのなんだ? 俺の体にはねーけど」
座ったまま自分の体と見比べて指をさす。
やっぱり食いついてきたああ!!! でも、知らないふりしておこう………
「さ、さあ? わからない……なぁ………」
と、とりあえず服がないとやばい………下が反応してきた………手ごろな冒険者から頂戴しようかな。