垣間見える非凡
「すごい威圧感だ………」
ステージの端から端まではおよそ30メートル。
黄金の獅子の発するその覇気は、一番離れたところにいる僕たちの体を震え上がらせていた。
武者震いか、はたまた恐怖か、僕にはこれが武者震いだと思うね。
「これを逃げ切れば勝ちなのか?」
「そう……このスキルは一度使えばMPが切れるまでは解除できない」
「後HPはどれくらいなんだ? あいつさっきの火炎魔法以外MP使うそぶりはなかったぞ?」
スラスケが呟く。
僕の返事をまたずして、黄金と化した獅子が突っ込んできた。
それを二手に別れて素早く避ける。
「スラスケ! 攻撃しようとか考えているなら無駄だ、このスキルは解除できない反面、一度使えば無敵状態になり、いかなる攻撃も受け付けない鉄壁になる。それに加えてステータスの大幅上昇。皇帝が最後まで身を賭して民のために闘うことから着想を得たスキルだ!!」
ストックの変換容量を全て素早さに変えているのに結構ギリギリだな……まぁ一撃で死なない攻撃なら大丈夫だが、今どれほどの攻撃力なのか想像もつかない。なんせ冒険者時代はタンクを置いて全部受けさて、その後ろからガンガン回復とバフをかけてやってたから。
ステータス確認したいが、一瞬の油断が命取りになる。
「ほほう、このスキルを発動したワシの攻撃を避けるか。気に入ったぞ、貴様らは生涯に出会った中で一番強い魔物だ。認めるしかないのう」
黄金の獅子が威厳溢れる声でそう呟く。一言一言に魂が籠っているようだ。
獅子が咆哮を上げ、スラスケの逃げた方に火球を飛ばした。
おそらく牽制だ。玉が小さい。行動を限定するつもりなんだろう。
あれだけのステータスで戦略的に来られればそりゃ人間だと勝てんだろ!! 運営にクレームの一つくらい送ってやればよかった…な…って…まずい!! 指示が遅れた!!
「よけろスラスケ!!!」
なにを思ったのか、スラスケがその火球を真正面から受け、その次に襲ってきた獅子の足元をすり抜けを素早くかわした。
「なんという状況判断力、そして自分の実力も、ワシの火球も見誤らないその目! やはりワガ生涯最強にふさわしいのはお前だ!!」
「へ!! あったりまえだ! 俺たちは全世界最強を目指すんだからな!!」
「ガハハ、そうか、ならばワシの屍を超えてゆけい!!!」
いや、そんな軽く流していいものじゃない。今の状況判断。
嘘だろ………あのスラスケが自分の判断で………!! なんて賢い選択なんだ。まぐれかもしれないが、火球を避けない選択は正しかった。確かに、スラスケの魔法耐性ならダメージは50もないだろうが、それでも僕はとっさに避けないという判断をできただろうか………? ゲーム慣れはしているが、あくまで人の場合のみだし。
その後の回避もだ。意図してやったのかは定かではないが、飛ばなかったことは褒めるべき選択だ。しかもあのレイコンマ数秒の世界でさも簡単にそれをやってみせるなんて………。
黄金の獅子は、嬉しさからか、楽しさからか、顔を微笑ませ、さらにスピードを上げた。僕を見向きもせずに、執拗にスラスケを狙っている。
時折、先ほどよりも小さめの火球を混ぜ、撹乱させようとしているがスラスケは、獅子の一挙一動に最適解を的確にぶつけ、避け続ける。
全て避け続けるスラスケ、見事としか言いようがない。そして、疎外感が半端ない。なにこれ………辛い!! 憧れの人を親友に取られた気分だ………
しばらくそれが続き、その時が刻一刻と近づく。
「ガハハハ、ここまでして攻撃が当たらんとはな。貴様、ますます気に入った。もう少しやり合いたかったが、ワシの命も残りわずかだ」
もう見向きもされなくなったのでステータスを確認する。
『皇帝獅子』
HP: 563/8581 MP: 143/2543
「スラスケ!! 後少しだ!! 油断するな!!」
獅子の体が一瞬だけ止まった、そしてブレる。
王者の咆哮の前触れだ!!
「スラス………!!!」
その言葉を遮るようにして、大地を震え上がらせるような強烈な咆哮が、スラスケの至近距離で発動された。
「ガアアアアアアアア!!!!!」
が、しかし、スラスケは微動だにしなかった。
「おっさん、対策済だぜ」
いうと、次に振るわれた前足の一撃を避けた。
獅子の纏っていた黄金の輝きがおさまる。そしてその獅子は僕たちの方を向いて静かに体を横にした。そして大口を開ける。
警戒したが、どうやら杞憂だったようだ。笑っただけだった。もう交戦の意思は感じられない。
「ガハハハ!!! 一枚とられたわい!! ワシの奥の手をこうも簡単にいなすとはの」
一章も終わりになりました。大変ながらくお付き合いいただきありがとうございました!
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とだけ言ってもつまらないので、様々な思惑によって振り回されながらも人生二週目を楽しもうと頑張る話で、いろいろ引っかかる部分はありますが……その辺も後に明かされることを楽しみにしていただけると幸いです!