王都へ
「この列について行こう」
「大丈夫なのか?」
大丈夫なのか? そう聞かれれば100%大丈夫だとは言えない。人間は獣神を倒せるほどにまで強くなっている。下手すれば僕達も死ぬかもしれない。
「あの…無理なさらなくても大丈夫ですよ。私が強くなったら1人で人間に復讐するつもりでしたし。」
「大丈夫だ。僕達は仲間じゃないか? 一緒に行こう」
「そうだぞ!」
僕達が獣神を奪えば、人間側にも不幸が訪れるだろう。しかし、今目の前にあるリズの悲しみを放ってはおけなかった。
「バレないように行きたいが、なにか方法はあるか?」
「俺の魔法でドカン」
「却下だ。この中にもし強いヤツが居れば確実に負ける」
「スラオさん達が人間を転写すればいいのでは無いですか?」
転写か…しかし同じ容姿の人間が3人も同じ場所にいるのは不審すぎるだろ。
「リズを転写したまま後ろからついて行くのはどうだ?」
「いや、それはまずい気がする。ステータス確認されれば獣神とスライムだってことがバレるし何より色が無理だろ。」
「確かにそうだな」
ここから王都までは人間が歩いて約5日の距離だ。僕達が走れば休む必要もないので多分1日で着くだろう。先に行くか? いや、王都の周りの警備は厳しい。たとえリズがいたとしても突破できない可能性がある。何より騒ぎになるのは避けたい。俺たちは捕まっても珍しいから殺されずに貴族に売られる可能性もあるが、それは賭けになる。
「とりあえず荷車に潜入してみよう。」
「大丈夫ですか?」
「リズは人間の言葉分かるよね?」
「はい。」
「よし、」
3匹は列の最後尾に回り込み、荷車に入り込んだ。
「にしても、この人間の列めちゃくちゃ長いな」
「そうだな、先が見えなかった」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、もしバレたらお前の魔法ぶっぱなしていいからな」
「ストックもまだまだあるし、やれるぞ!」
ガタガタと揺られながら3匹は王都を目指した。
ある程度の人数のステータス確認しとけばよかったな…。今更遅いか。
「暗くなってきましたね」
「そろそろ野営の準備に入るかもしれない。バレないようにしないと」
ーーはぁ、あと4日もあるかねーと行けねーのかよ。
ーーまじ疲れるわ。
ーーそんなこと言ってると不敬罪で打首になるぞ
ーーわかってっけどよー。ていうか知ってるか? この辺りにバケモンみたいに強いスライムがいるらしい
ーー聞いたぞその話。冒険者が襲われたらしいな
ーーいや、そいつらは一緒にいた第7王女を襲おうとしてたんだぞ
ーーそうなのか?
ーーああ、それを助ける形でそのスライムが現れて、その王女には一切攻撃しなかったらしい
ーーにしてもなんで第7王女が森なんかに?
ーーそれはわからん。噂では冒険者になるとか言ってるらしいぞ
ーーでそいつらどうなったんだ?
ーーもちろん死刑だ。王女を襲おうとしたんだからな。国王はキレまくってたらしいぞ。
外からそんな会話が聞こえてきた。あの女の子王女だったのか…。僕らの話もあってたけど、バケモンみたいなスライムか…悪くない響きだ。
「スラスケ、外の人間に僕達が強いって言われてるぞ」
「まじか!? もうそんなに俺たちの噂が広がってるのか?」
「冒険者助けたことがあったろ? あれ、王女様だったんだと。それで広がったんだよ」
「人間にも認められる日が近いかもな!」
「それはどうだろう…」
話の続きが聞こえてきた。
ーー王女様がそのスライム探してこの序盤の森中探し回ってるらしいぜ
ーーまじかよ。羨ましいなそのスライム
ーーだよな。だから今回のパレードも顔を出さないらしい
ーー見たかったなー、王族で1番の美貌らしいぞ
王女様が僕達を探してる…? 嘘だろ…? これはもしや、フラグではないか? 将来その王女と結婚するという。美女と〇獣ならぬ美女とスライム…あっ! だから人の道があったんだ! 結婚するために! そう考えると…確実に僕だということになる。やばいどうしよう、練習しといた方がいいのかな…
童貞感丸出しの妄想をこれでもかと膨らますスラオ。恋は盲目と言うが、1度そうだと思い込んでしまえば色んな出来事がもしや?もしや?となってしまう。そして、まともな恋愛をしたことがないスラオも、その現象に陥っていた。