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親友と私と保健室

姫川ひめかわ羽夢うゆは額を床にぶつけてから暫く動かなかった。いや、動けなかった。羞恥心から来るものではなく、自分の瞳に映る男子生徒に釘付けになっていたからだ。目鼻のパーツがバランス良く配置されている小顔はとても美しく、それでいて何処かあどけなさを残している。

ドッジボールの試合の時とは打って変わって申し訳なさそうに眉尻を下げている。


「えっと…大丈夫?」


五十嵐いがらし優斗ゆうとに声をかけられた。何か返事を返さなくてはと焦るが、上手く言葉が出てこない。


「だ……だ、だ、大丈夫でしゅ!」


焦った挙句、盛大に噛んだ。恥ずかしくて顔が火照る。強く打ちすぎたのか額が痛みだし、頭が強く揺れているように感じる。3回ほど強い揺れを感じた後、姫川羽夢は意識を失った。姫川が意識を手放す直前、視界を覆ったのは五十嵐と刺繍された弥生学園指定の紺ジャージだった。



優斗が倒れ込んだ姫川を咄嗟に受けとめ、そっと寝かす。桜庭さくらば先輩が近くの生徒に担架を持ってくるように指示を出した。すぐに数人の生徒が動き、担架を持ってきた。


「天宮、腰付近を支えてくれ。乗せるぞ。五十嵐は足を頼む。」


優斗と桜庭先輩、天宮先輩で姫川を担架に乗せ、そのまま保健室へと連れて行った。


「いやぁ、面白いね。あの子。」


私の隣に戻ってきた天宮先輩がボソリと呟いた。


「姫川さんです?」


「そ。あの子ね、自分で床にぶつけたの。見てなかった?こう、屈んだあとにそのままガンって。」


天宮先輩が打ちつけるように頭を振る。

どうだっただろう。見ていなかったことはないが、思い出せそうにない。


「まあ、そもそもあり得ないよね。屈んだ拍子に頭を床に打ち付けるなんてこと。」


それもそうだと納得する。ただ屈むだけなら頭を下げれば済むのだから。例え勢い余ったとしても、手をつけて止まることができるはずだ。

何故姫川さんが自分から打ちつけたのかは別として、気になるのが気絶する前に見せたあの顔だ。どう考えても恋する乙女のそれだった。だが、きっかけが分からなかった。


ドッジボールの試合で守ってくれたから?


流石にそんな理由では、少女漫画の主人公ですら恋には落ちないだろう。いくら考えても答えは見つからなかったので気のせいだとすることにし、天宮先輩と共にクラスマッチの進行をすることにした。

気絶した姫川さんのことを心配し、保健室に見に行くというので優斗のクラスは棄権となった。


2試合目を始めようかという時に、桜庭先輩が保健室から戻ってきた。桜庭先輩によると、姫川さんは既に目を覚まし、大事をとって保健室で休んでいるそうだ。気絶した後すぐ目を覚まさなかったので、強い脳震盪を起こしているのではと心配していたが、そんなことはなかったらしい。優斗は自分の指示のせいで頭を打ったと責任を感じているようで、姫川さんと一緒にいる。


2試合目は私に仕事はなかったので、ぼんやりとしていると隣に別競技に出ているはずの立花たちばな亜紀あきがやってきた。


「やっほー。忙しそうだね、生徒会。」


「んー、そうでもないかも。現に今仕事ないしね。」


ふーんと亜紀が興味なさげに返事をする。


「で、告白してきたのどの子?」


亜紀は辺りを見回した。なるほど。本命はこっちか。


「あの子だよ。ほら、あの背のちっちゃいの。」


体育館隅で友達と話している春樹くんを指差す。その表情はいつも明るい春樹くんとは裏腹に薄暗かった。

亜紀は春樹くんを見つけると同時に少し顔を曇らせる。


「なるほどね。あの子に何かされた?」


何処となく真剣な雰囲気に戸惑う。


「いや、特には。強いて言えば告白?」


「そう。とりあえず何もされてないならいいのだけれど。」


亜紀は立ち上がり、体育館の出口へと向かう。


「ちょ、ちょっと待ってよ。」


「気をつけなよ、真尋。あんた可愛いんだから。」


それだけ言うと亜紀は次、試合だからと体育館を後にした。

真尋の脳裏には暫くの間いつになく真剣な眼をした親友の顔が離れなかった。

お読み頂きありがとうございます。

毎話書くたびに自分の語彙のなさ、表現力の無さに絶望しながら書いてます。

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