後輩と私と宣言
桜庭楓と名乗った男子生徒は、私に生徒会に入らないかと声をかけてきた。
「とりあえず歩きながら説明しますね。」
桜庭先輩が優しい口調で言う。
「まず、生徒会ですが2年生と我々3年生で構成されています。やることは主に学校行事の企画や運営となっています。」
「なるほど。それで、どうして私なのでしょうか?」
「それなんですけど…。」
桜庭先輩が言いよどむ。
「理事長だよ。」
後ろから女子生徒が声をかけてきた。
「理事長が?」
「そ。生徒会って先生方の推薦で選ばれて本人が承諾すればなれるんだけど、今が2年生の選考期間なんだよ。で、理事長が生徒会顧問の佐倉先生に『わしの孫を生徒会にいれてくれ』って泣きついたらしいよ。まぁ、そもそも推薦で選ばれてはいたんだけどね。」
(おじいちゃん何やってんの…。)
おじいちゃんの職権乱用っぷりに呆れつつ、私が声をかけられた理由を理解する。
「失礼ですが、あなたは?」
先ほどから説明をしてくれている生徒に声をかける。胸元を見ても名札がついておらず名前が分からない。おそらく生徒会の3年生だとは思うのだけれど。
「私は天宮翠。弥生学園生徒会長だよ。とりあえず今日の放課後、生徒会室に来てほしいな。そこで詳しい話をするから。」
話していると学校に着いた。天宮先輩と桜庭先輩は「それじゃ。」と軽く手を挙げて3年生の昇降口に行ってしまった。私も自分の昇降口に行き、靴を履き替えて教室に入った。亜紀に声をかけ、春樹君と一緒に帰ることになったことを話す。
「で、それは春樹君には伝えてるの?」
「あ…。」
春樹君に一緒に帰ることを伝えていないことに気が付く。
「まぁ、大丈夫でしょ。最悪そのままでもいいんだし。」
「大丈夫じゃないでしょ。」
亜紀に頭をぺしっと叩かれた。
「相手は勇気をもって真尋に告白したんだし、あんたもどういう人なのか知った時に返事をするってなったんだからきちんと向き合わないと失礼でしょ。」
「それは…。そうだね。今日の昼休みにでも話に行くよ。」
そう言って、私は自分の席に戻った。
4限の終わりを告げるチャイムが鳴った。私はカバンから優斗用のお弁当を取り出し、隣の教室に行きお弁当を渡す。そしてそのままの足で1年生の教室に向かった。弥生学園の教室棟は3階建てで、1階が3年生の教室で、2階が2年生、3階が1年生となっている。
1年生の教室の階に着くと、軽くどよめきが起こった。
「水無月先輩だ…。」
「綺麗…。」
そんな声が聞こえるがひとまず無視して進む。
目当ての3組の教室に着くと、教室の前で喋っていた女子生徒2人に声をかける。
「あの、藤井春樹君っている?」
「本物の水無月先輩だ…。呼んできますね。」
女子生徒2人が教室に入っていく。
(一年生も私のこと知ってるんだ…。)
理事長の孫なので分からなくもないが、普通そこまで興味を示すのだろうか。私だったら絶対に興味がない。そんなことを考えていると、春樹君が出てきた。
「真尋先輩、どうしたんですか?」
「うん、ちょっとね。ここじゃ話しにくいから場所を変えようか。」
そう言って私たちは、教室棟と本館をつなぐ渡り廊下に移動する。ここならあまり人は通らないし、通ったとしても移動するだけなのでしっかりと話を聞かれることもないと思う。私は渡り廊下の手すりに背中を預ける。
「よかったらなんだけど明日から一緒に帰らない?」
「いいんですか!本当に?」
春樹君は飛び跳ねんばかりに喜んでいる。そんな彼の喜びを打ち消すかもしれないが、きちんと話さないといけないことがある。そのことも伝えるために来たのだ。一度大きく伸びをし、春樹君に声をかける。
「あのね…。私、好きな人がいるんだ。ずっと大好きな人が。」
春樹君の動きが止まった。それでも私は構わず話し続ける。
「だから、いい答えが出せる確率はものすごく低いと思う。黙っててごめんね…。」
「でも、ゼロではないんですよね?」
「まぁ。ゼロだとは言い切れないと…思う。」
春樹君の問いに曖昧に答える。確かにゼロだとは言い切れない。
「じゃあ、大丈夫です!」
「え?」
「いい答えがもらえないわけじゃないならどれだけ低くてもいいです。俺は絶対に諦めません。もし、その好きな人と付き合ったとしても奪うだけなんで。」
春樹君の略奪宣言に驚く。もしかしたらとんでもない子に好かれてしまったのかもしれない。私はそう思った。
お読み頂きありがとうございます。
登場人物の名前をつけるのがめちゃくちゃ苦手だったりします。
次回は登場人物の名前が早く決まれば1日か2日後くらいになると思います。遅くても3日後あたりには出せるようにしたいです。