山の上の一本桜
山の上の一本桜
人目に触れず咲いている
麓の村の桜のように
蕾に期待されもせず
遠くの町の桜のように
開花の宴は開かれず
ただひっそりと 身を桃色に染め上げる
里に生まれていたならば
道行く人が足をとめ
姿を称えていただろうに
自らの美しさを知らない
哀れな一本桜
次の命を繋げるために
孤独の中で蕾は綻び
命と季節の移ろいを見つめ
人目に触れず散ってゆく
山の上の一本桜
もしも一人の旅人が その桜を見つけたならば
疲れた身体を大樹に預け
息を吐いて見上げるだろう
静かに佇むその姿は
きっと強く 逞しく
哀しいほどに 美しい