終わりで始まり
初めての怪異ものです。
最初はゆるい雰囲気なのでゆったり読んでください。
「これで終わりだ!魔王!」
ズシャッ!
その剣が魔王の体を貫く。
鮮血が、真っ青な悍ましい血が魔王から勢いよく飛び散った。
辺りには、互いの血がこびりついた跡。魔王城の天井は崩れ去り、一部の柱のみが天井を頼りなく支え今にも崩れそうな状況である。
開いた天井からは、満月が両者を照らす。
その一瞬をまるで不気味に彩るかのように。
「かっ……はぁっ!」
魔王は体勢を崩し、膝を地面につける。
今、まさに決着の刻ーー
勝者は立ち尽くし、敗者は惨めに倒れる。
「よくぞ我を打ち破ったな……勇者よ。でもこれで終わら……ぬーー」
「これで、ついに決着か」
勇者は魔王がピクリとも動かなくなったのを確と見ると、剣を心臓部に突き立てる。トドメの一撃だ。
すると、魔王は塵となりボロボロになった魔王城窓から吹き込む風により飛ばされてゆく。
先程まであった彼の血は消えてしまったのか既にそこには残ってはいなかった。
人類の勝利だ。
勇者は、勝ったのだ。
魔王にーー勝ったのだ。
それを祝う者もそこには居らず、勇者はその傷を負った体を引きずらせながら本国へと戻ったのであった。
〜一ヶ月後〜
世界は依然として平和である。
魔物は滅び、人類は未だ尚勝利に酔いしれていた。
連日宴は催され、上流階級から一般の市民まで盃に酒を汲み、世界は歓喜に打ち震えていた。
全く呑気なものである、と思ったがまあこういうのも悪くはないと思い勇者は自宅でのんびりと生活していた。
最近は色々家に祝いの品が届く、大体は食料、他にもある。
貰うのは、王だったりいつか助けた人々であったりと様々だ。
なので最近の悩みといえば少し太ってきていると言う事であろうか。
贅肉は揺れ、腹の段は日毎に数を増している気さえする。
そして非常に退屈であった。使命を胸に抱き日々奮闘していた頃に戻りたいと思う時も。
そしてそんな考え事をしている時であった。
突然私は、神から天啓を授かったのである。
正確に言うと普通に話しかけられたという感じだがいいだろう。
そして内容はこうだ。
『勇者よ、って今はもう勇者じゃないっけ?まあ良いわ。実はの、お前さんにしか頼めないことがあるんじゃよーー』
「何でしょうか神様?魔王がまた復活しちゃったとか?」
『勘がいいの、と言っても復活とは少し違うんじゃ』
「え!?そ、それで一体どういう?」
確かに倒したはずだと思っていたのだが。
まさか塵になってまで倒し損ねたとかではないはずだ。
とりあえず話を聞いてみよう。
『魔王が死の間際に残した魔力の残滓が世界に散らばっているのじゃ、その範囲は別世界まで広がるほどでの』
「まさか!ではそれを倒せと?」
『うーむ、そうなのじゃがな……どうやら特別な力でないと祓えないときた、そして別世界にもあるとすれば……』
「……?つまりはどういうことですか?」
コホン、と一息置いて神様は言った。
『つまりの、わしから魔王に対抗する力を与えねばならんのじゃが……お前が色々スキルとか加護とかを持ってるせいで付けられないのじゃ。つまる所新しい器になって魔王を討ち滅ぼしてもらうしかないということなんじゃ』
「そ、そうなんですか!?やって見せましょう!」
『いや疑うとか少しはしろよ。なんじゃ素直すぎるんじゃよお前、もう少し悩むじゃろ?正義感が強すぎて、全く勇者の持つ苦悩とか見せないんじゃもんお前、どんな事があっても使命、使命……って異世界版社畜かっての!』
社畜とか言うのは全然わからないけれど。
使命が、やるべき事があるからにはやってみせる!
『まぁいいわ、いいんじゃな?んじゃ転生させるぞ?結構弱くなるぞ?本当に魔王を倒せるのかお前?』
「やってみせます!倒します!強いとか関係ありません!」
『ほんっと、お前は……まあいい、とりあえず行くぞい!れっつ☆転生じゃ〜〜〜〜〜〜い!』
その声と共に意識が消えるのを感じーーー