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第七話 プレゼント


 それから学校へ行った。昨日のこともあってか、今日は勇斗と咲良ちゃんを二人で登校させ、僕は気を利かせて一人で登校した。今は二時間目の英語の授業だ。

 

 授業中だというのに、僕は七海ちゃんのことで頭がいっぱいだ。朝、僕が学校に着き自分の席に着くと、七海ちゃんは何事も無かったかの様子だった。前の席からにこっとして、僕に「おはよー」と挨拶をしてくれた。もちろんそれに応え、僕も自然に「おはよー」と挨拶を返した。

 

 その後、咲良ちゃんや他の女子と会話をしては、明るく振る舞っていた七海ちゃん。しかしさっきの休み時間、自分の席でうつむいて明らかに悲しい表情をしていた。黒板を消している僕の目には、それがはっきりと映った。やはり昨日の僕へのキスは、失恋によっての単なる自暴自棄な行動だったのだろうか?


 二時間目の授業が終わった。休み時間だ。


「七海ちゃん……。勇斗のこと、好きなんだよね……。ごめんよ……。僕は勇斗と咲良ちゃんをくっ付けた、張本人なんだ……。僕は七海ちゃんにぶたれても、構わないからさ……」


 僕は七海ちゃんの席の隣に立ち、思い切って話し掛けてみた。


「ぶつなんてこと……しないよ……。でも……なぐさめてもらいたいな……」

 

 慰めるか……。残念なことに、僕には七海ちゃんを慰める言葉が浮かばない……。だがそう言えば、七海ちゃんは初めてクラスのみんなに自己紹介した時に、趣味はカラオケだと言っていた。


「じゃあ、カラオケなんてどう? こんな時は、ぱーっと歌って盛り上がってさ。そんな気分じゃないかな? ごめんよ……。七海ちゃん……」


「うふふ。連れていってくれるの?」

 

 笑った……。やっぱり七海ちゃんはカラオケが好きなようだ。

 

「自転車で乗せていくよ。この近くに、千葉レジャー大陸っていうゲームセンターがあるんだ。そこの中にカラオケがあるから、そこで良ければ、行く?」


「じゃあ、お言葉に甘えて、連れていってもらうね」


「今日は土曜日だから、もうすぐ学校終わるね。じゃあ、学校終わったらカラオケに行こう」


 学校が終わると早速、僕と七海ちゃんはスマートフォンの電話番号とメールアドレスとLINEをお互いに登録した。

 

 僕は七海ちゃんを自転車の後ろに乗せ、千葉レジャー大陸へと向かう。勇斗と咲良ちゃんを尾行した時のようだ。七海ちゃんは僕の自転車の後ろに横向きに座り、僕の太いお腹に手をしがみつかせている。

 

 天気も良い土曜日の午後。春の陽気が気持ちいい。風も緩やかで空気も美味しい。空には鳥が数羽、気持ち良さそうに飛んでいる。


 僕と七海ちゃんの二人は、千葉レジャー大陸のカラオケ屋に入った。七海ちゃんもカラオケ部屋に入ると、すっかり元気が出たようだ。歌本は開かず、早速うきうきしてデンモクで曲を検索している。

 

 やっぱり七海ちゃんは、本当にカラオケが好きらしい。それからカラオケの密室には、なぜか元気を呼び覚ます不思議な力がある。僕はなんとなく僕と七海ちゃんが、二人とも元気が出るだろうと思っていた。七海ちゃんの趣味がカラオケだからという理由もあるが、そういった直感で、僕は七海ちゃんをカラオケに誘ったんだ。

 

 七海ちゃんは歌う。電脳ガールズ49の歌を。僕はここぞとばかりにオタ芸とミックスを披露する。

 

「ありがとー、武虎くーん。オタ芸上手なんだねー。かっこ良かったよー」


 七海ちゃんがマイク越しに僕に言った。

 

 僕は昭和のフォークソングやアニソンを歌う。

 

「武虎くんは歌上手なんだねー。びっくりしたよー。私もアニソン歌っちゃうよー」


 七海ちゃんは笑顔で言った。


「七海ちゃんの方こそ、歌凄く上手だよ。七海ちゃんもアニソン歌ってくれるの? 僕、嬉しいな」

 

 七海ちゃんがアニソンを歌う。しかも正に、男の子が女の子に歌ってもらいたいアニソンを歌ってくれる。やはりインターネットの力は大きい。最近のアニソンだけでなく、僕らが生まれる前のアニソンまで歌ってくれる。そして僕達はデュエットもした。二人とも大騒ぎでバカップルのようだ。でも僕はそれが、とても楽しく、とても嬉しく、とても幸せだ。


 僕達はカラオケを終え、カラオケ部屋から出てゲームセンターの中をうろうろする。やはり店内は少年や若い男性が多いようだ。遊戯台もたくさんある。プリクラ、格闘ゲーム、麻雀ゲーム、音楽ゲーム、クイズゲームなど様々。わいわい、がやがや、ピコピコという音が混ざりあって僕の耳に聞こえてくる。

 

 ふと、七海ちゃんはUFOキャッチャーの前で立ち止まった。僕と七海ちゃんは二人でUFOキャッチャーの中を覗く。中にはぬいぐるみだけでなく、少しだがアクセサリーが入った紙箱も混在しているようだ。ぬいぐるみとアクセサリーが混在している、珍しいタイプのUFOキャッチャーだ。


 僕は七海ちゃんの目線を辿たどった。すると、ある一つのアクセサリーの紙箱を発見する。それは銀色の指輪のようだ。紙箱には「ALISHA」と書いてある。サイズだろうか? さらに、「9号」という文字も書いてあるようだ。僕はスマートフォンを使い、インターネットで検索してみた。どうやら、ALISHAアリーシャはアクセサリーの有名ブランドらしい。

 

「あれ、本物かな?」


 ふと僕は七海ちゃんに聞いてみた。


「分からない。でも、本物だったら本当に凄いよね」


「七海ちゃん、あの指輪が欲しいの?」


「欲しいけど、私こういうの下手だからあきらめるよ……」


「実は僕、UFOキャッチャー得意なんだ。絶対にあの指輪取ってあげる。あれくらい、一発で十分だよ」

 

 最近は全くUFOキャッチャーをやっていないが、小中学生の頃によくやっていた。おかげで随分と腕が磨かれたものだ。


 僕は百円玉を一枚投入しクレーンを動かした。続けて紙箱の角張っている部分の溝に、上手くクレーンの先端をフックする。クレーンは無事に紙箱を景品口に落としたようだ。僕はそれを取り出して七海ちゃんに渡す。

 

「凄いよ、武虎くん。しかも、一発で取っちゃうなんて」


 七海ちゃんは感極まった様子で僕の目を見た。

 

 七海ちゃん……。そんなに目を見つめられるとドキドキしてしまう……。

 

「七海ちゃん、ぬいぐるみは欲しくない?」


 ドキドキしながらも僕はさらに聞いてみた。


「あの茶色いクマさんのぬいぐるみ、凄く可愛い」


「分かった。あれだね」

 

 そして、僕はクマのぬいぐるみを取ることにも成功した。なんと他の客が見ていたようだ。僕に拍手が起こる。そんな中、そのクマのぬいぐるみを七海ちゃんに渡す。

 

「お兄ちゃん、見かけによらず凄いんだね」


 僕がぬいぐるみを七海ちゃんに渡すと、小さい女の子が言った。

 

(見かけによらずって、それは僕が太っているって意味か……)

 

「いやー、お兄ちゃん凄いテクニックだねー」


 その女の子のお父さんらしき男性も、僕をたたえた。


「いえいえ。なんのこれしき。それじゃ僕達はここら辺で」

 

 これ以上人が寄って来ると大変だ。僕は七海ちゃんの手を引っ張って、ゲームセンターの外へ連れ出す。外に出て駐輪場に戻った僕達は、指輪が気になってしょうがない。

 

「七海ちゃん。その指輪、箱を開けて早速、確かめてみた方がいいと思うよ」


「そうだね。私、着けてみるね」

 

 紙箱を開けると、プラスチック容器に包まれた赤くて四角いリングケースが入っていた。七海ちゃんは容器からそのリングケースを取り出し、リングケースの中を開ける。リングケースの中の色はグレーで、真ん中に刺さっているのはやはり銀色の指輪。その指輪はリングが少々S字にカーブしているようだ。真ん中にダイヤモンドらしき物が、三石ほど散りばめられている。どうやら、指輪のサイズは箱に書いてあった通り9号らしい。試しに、七海ちゃんは左手の薬指に指輪を通してみた。

 

(ああ、左手の薬指だ。それじゃ結婚指輪だよ。でも、左手の薬指にめようとされると、なんだか嬉しい。僕の勝手な思い込みかもしれないけど、左手の薬指にしてくれるってことは、七海ちゃんは僕のことを、多分嫌いじゃないんだ。でも、男は勘違いしやすい生き物だからな……。ただ、どうしてもそういうの気になっちゃうんだ……)


「ん、んん……。ちょっと、大きいかもしれない……。少し緩いかも……」


 七海ちゃんは困ったように言った。


「七海ちゃん、ちょっと僕に貸してみて」


 僕はそう言って七海ちゃんから指輪を預かった。

 

 人間は薬指より中指の方が大きい。僕は薬指ではなく、中指ならフィットするのではないだろうかと思う。それに指輪は嵌めるそれぞれの指によって、意味合いが変わることをもちろん僕は知っている。僕は気になって、スマートフォンのインターネットで検索してみた。どうやら、左手の中指に指輪を嵌めると直感力を高める効果があるらしい。指輪を預かった僕は、七海ちゃんの左手の中指に指輪を通す。

 

(女の子の手って、男の手より大分小さくて細いんだな。それに凄く綺麗だ)

 

「うん。多分、なんとか中指なら大丈夫そう」


 指輪が嵌まった七海ちゃんは、嬉しそうな表情に変えて言った。


「七海ちゃんの手って、細くて綺麗な手だね」


「ありがとう、武虎くん。指輪もこのクマさんのぬいぐるみも大切にするね」

 

 すると、七海ちゃんは財布の中からお金を出そうとしている。どうやら、さっきのUFOキャッチャーで使った二百円を僕に返そうとしているらしい。

 

「七海ちゃん。さっきのは僕からのプレゼントだから、お金は気にしなくていいよ。指輪もぬいぐるみも、僕から七海ちゃんへの転校祝いだと思って」


「武虎くん……。本当にありがとう……。私、絶対に今日のこと忘れないよ……」

 

 また僕の目を見つめている……。やっぱりドキドキする……。しかもたった二百円とは言え、ちゃんとお金を返そうとするなんて……。七海ちゃんは美人で可愛いだけじゃなく、こんなに優しくて思いやりがあるなんて……。本当に性格まで凄くいい女の子だ……。咲良ちゃんに続いて、またこんなに性格のいい女性に出会えるなんて、奇跡的だ……。


「うん。忘れないでいてくれるだけでも、僕は光栄だよ……」

 

 そうは言ったものの、僕は心の中で願掛けをする。


(七海ちゃんの男を選ぶ直感力が、上がりますように)と。

 

 そして、七海ちゃんが選ぶその男が僕であればいいなと、ますます願うばかりだ。


 第八話 美女と豚 へ続く……

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