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第五話 的場和輝ラストマッチ


 試合終了後、横光会長と凱さんが一緒に付き、山岸さんは会場専用のワゴン車で病院に運ばれてしまう。

 

 僕と西田さんは会場に残り、的場選手の勝利者インタビューを遠くから聞くことにする。的場選手はマスコミに聞かれたことに一つ一つとてもクールに答えていく。久しぶりに戦った感想、山岸さんの印象、勝利した感想など。また、ファンへの感謝の気持ち、山岸さんへのリスペクトの気持ちなども語る。さらに、チャンピオンの山岸さんに勝利したことはとても誇らしく嬉しいことだ、とのこと。

 

「次の試合が、最後の試合になるでしょう。俺は今年の大晦日の鉄神の大会で、引退しようと思っています。対戦相手はファンが望む相手なら、誰でも構いません。どんな相手でも、今まで応援してくれたファンのために、勝って有終の美を飾るつもりです」


 次の試合について聞かれると的場選手がそう答えた。


 インタビューを終えると、的場選手はセコンドの人達と一緒に控え室に戻ってしまう。


 どうやら、的場選手は大晦日の試合で引退するらしい。山岸さんが負けたのは僕の責任だ。次で最後なら、僕が的場選手と戦って山岸さんのかたきを取りたい。僕は衝動を抑えきれず的場選手の控え室に向かう。

 

「おい、どこ行くんだよ? 一成」


 西田さんが驚いたように聞いた。

 

「大晦日、僕と戦ってくれるよう、的場選手に頼みに行くつもりです」

 

「無茶言うなって。お前と的場さんじゃ、階級が違うだろ」

 

「違っても、どうしても戦いたいんです。戦って、山岸さんの仇を取りたいんです」

 

 すると突如、的場選手の控え室の扉が開き誰かが出てくる。的場選手だ。

 

「ん? お前は今日試合に勝った梅宮か。何か用か?」


「はい。的場さん、大晦日、僕と戦ってください。僕を引退試合の相手に選んでください。あなたと是非戦いたいんです。お願いします」


 的場選手がそう聞くと僕はお辞儀をして懇願した。

 

「……。俺より階級は下だが、無敗のライト級世界最強の男か……」


 的場選手はそう言うと少し考えている様子だ。


「ふっ、最高の相手じゃねーか。俺もお前と戦ってみてー」


 続けて的場選手がクールに嬉しそうに言った。

 

「……。そうだな……。七三キロ契約でどうだ?」


 さらに続けて的場選手が僕にそう聞いた。

 

「じゃ、じゃあ、戦ってくれるんですか?」

 

「ああ。いいだろう。無敗のお前に勝って引退なら、最高の有終の美だからな」

 

「ありがとうございます。的場さん」


 僕はまたお辞儀をして言った。

 

「僕も、負けるつもりはありませんよ」


 続けて僕は強気に言った。

 

「ああ。全力で来い。俺も最高の仕上げで、全力で戦ってやる」

 

「約束ですよ。的場さん。大晦日、あなたと戦えることを楽しみにしています」


 的場選手がそう言って右手で握手を求めてくると、僕はその握手に応え言った。


 時は流れあっという間に大晦日の鉄神の大会、的場選手との対決の日。

 

 僕と的場選手の試合は最終試合のメインイベント。契約体重が七三・○キロリミットのスペシャルワンマッチ。ルールは鉄神オフィシャルルール通り。肘打ちあり。サッカーボールキックあり。試合時間は五分三ラウンド。ラウンドインターバルは一分。判定はドロー裁定無しで、ジャッジ三人制のマストシステム。戦いの場は正方形のリング。

 

 約二万三千人の観客が集まり、熱気を帯びているさいたまハイパーアリーナ。


 今日も前回と同じく、七海ちゃんと横光道場のみんなが応援しに来てくれている。七海ちゃんだけはVIP席からの観戦。今日もいいところを見せないといけない。勇斗がまだ不自由な身のため、咲良ちゃんと竜二と姫華はまた勇斗の部屋でテレビから観戦してくれるという。


 僕は今、控え室で軽いアップと横光会長の構えるミットへ軽いミット打ちを行っている。

 

「一成、的場さんはとにかくトリッキーだ。あのスーパースターの本性は、とんでもねえ詐欺師だってことだ。実際戦った俺は、それを思い知らされたからな。的場さんに隙が生まれた時こそ、気を付けろ。隙があるように見せて、そこで罠に嵌めるのがあの人のやり口だ」


 それらを一旦終えると、山岸さんが僕にそうアドバイスを送った。

 

「はい。気を付けます。でも、僕も騙せるだけ騙しに行きますよ」

 

「そうか。思いっきり暴れてこい。お前と的場さんじゃ、きっとすげー試合になる。楽しみにしてるぜ。俺もセコンドとして一緒に戦うが、この試合しかリベンジの機会がねー。的場さんの引退試合だからな。お前に全て懸けてるからよ。頼んだぜ」

 

「お前が的場さんの引退試合の相手に選ばれたんだ。それだけでもすげーことだぜ。失礼の無いように全力で行けよ」


 山岸さんがそう言うと西田さんは楽しみな様子で言った。

 

「相手はスーパースターだが、お前を応援しに来てくれている人もたくさんいる。それを忘れるんじゃないぞ」

 

「はい!」


 横光会長がそう言うと僕は強く返事をした。


 さあ、ついに今日のメインイベントだ。

 

 青コーナーの僕が先に入場し、赤コーナーの的場選手が次に入場する。僕はリング上で的場選手の入場を眺める。


 的場選手はいつも通りお面を被っての入場だ。そして、お面を観客席へ投げ入れた。会場内に大歓声が沸く。この入場パフォーマンスも今日で最後だ。対戦相手でありながら、的場選手のファンである僕もそれには寂しさを感じてしまう……。的場選手はリングインすると僕の方へ向かって一礼する。


 選手コールでは先に名を呼び上げられた僕にも大歓声が飛ぶが、的場選手にはそれを上回るさらなる大歓声が飛ぶ。僕と的場選手はルール確認をするレフェリーの前で向かい合う。的場選手の体は張りのある筋肉をしていて完璧な仕上がりだ。髪色は前回と同じく真っ赤だ。


「俺は引退試合の相手に、無敗のお前を選んだことを誇りに思ってる。最後の試合、楽しませてもらうぜ」


 レフェリーがシェイクハンドの合図を出すと、的場選手はそう言って握手を求めてきた。

 

「僕も、的場さんの引退試合の相手に選ばれるなんて、夢のようです。僕の方こそ楽しませてもらいます」


 僕は両手で握手に応え敬意を込めて言った。

 

「本気で来い。本気のお前に勝って、俺は有終の美を飾る。それが、俺流のファンへの恩返しだ」

 

「もちろん全力で勝ちに行きますよ」


 的場選手が強気にそう言うと僕も強気に言葉を返した。


 試合開始のゴングが鳴り響く。


 的場選手はやはりサウスポースタイル。早速、的場選手はタックルのフェイントを見せて右アッパーと左フックのコンビネーションを放つ。僕はこれをバックステップで交わす。お返しに右ハイキックを放つ。的場選手も当然これは見切りスウェーで交わす。交わした直後、的場選手は左右のパンチの連打を放ってくる。

 

 僕はこれらをガードした。詰め寄ってきた的場選手の上半身を両手で突き放す。続けて、前へ踏み込み僕は右の飛び膝蹴りを放つ。的場選手はこれをスライディングで潜り抜ける。直後、すぐに僕の体を後ろから捕まえる。

 

 目にも止まらぬ攻防に観客は大歓声だ。

 

「落ち着けー! 慌てるなー!」


 リングの外から西田さんの声が聞こえた。

 

「腕狙えー!」


 続けて山岸さんの声が聞こえた。

 

 僕はバックを取られながらも、的場選手の左手首を右手で掴み左腕にアームロックを狙う。的場選手のお株を奪うあのアームロックだ。しかし、的場選手は僕の体を半分持ち上げてマットに落としこれを解除する。

 

 五十代とは思えないパワーだ……。元々階級が違っていたとは言え、相当に筋力を強化してある感じだ……。

 

 マットに落とされた僕は即座にくるりと横に転がり、すぐに立ち上がろうとする。しかし、的場選手はジャンプして両足で僕を踏み付けようとしているようだ。

 

「踏み付けに気を付けろー!」


 リングの外から山岸さんの声が聞こえた。

 

 僕はまたも横に転がりこれを交わす。交わすと、的場選手にタックルで飛び込みテイクダウンに成功する。ハーフガードの状態で僕が上のポジション。

 

「動けー! いっせー!」


 続けて西田さんの声が聞こえた。

 

 なんとか右脚を抜いて、マウントポジションやサイドポジションに移行したいところ。だが、脚のロックが邪魔でマウントポジションやサイドポジションに移行できない。

 

 しばらく続いている……この状態が……。

 

 ロックが緩くなっている……。右脚が抜けそうだ。僕は右脚を思い切って抜いてマウントポジションに移行しようとする。これを読んでいたのか、的場選手はすぐに体を後ろに向けた。僕は的場選手のバックマウントを取ろうとする。すると、的場選手は瞬時に前転し僕を前方へ投げ飛ばす。

 

 なんて人だろう……。これを狙ってわざと脚のロックを緩くしたんだ……。

 

 またスタンドからの仕切り直し。レフェリーが再開の合図を出すと、すぐに激しい打撃戦になる。

 

 しばらく続いている……激しい打撃戦が……。


 そんな中、的場選手はバックステップで距離を取りドロップキックを放ってくる。僕はこれをバックステップで交わす。交わすと、グラウンド状態になった的場選手にサッカーボールキックを連打していく。的場選手はこれらを交わす。今度は僕の右のサッカーボールキックをキャッチする。そして、的場選手は左脇に僕の右足を挟みヒールホールドを狙う。完全には極ってはいないものの、右足を掴まれているので身動きが取れない……。僕は立ちながら右足を抜こうとするが、的場選手は右足を離す気配は無い。

 

 しばらく続いている……この状態が……。

 

「あと二十秒だー! なんとか持ちこたえろー!」

 

 リングの外から西田さんの声が聞こえた。


 レフェリーはギブアップの意思表示を聞いてくる。僕は右手の人差し指を振りノーの意思表示をする。この直後、第一ラウンド終了のゴングが鳴り響く。


 第六話 二人の勝者 へ続く……

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